52話。王宮のモンスターたちが救援にやって来る

 敵軍が下がって、僕とダークエルフの王ゲオルグとの一騎打ちを見守る形になった。


「配下の者に手は出させん。存分に向かってくるが良い」


 よほど自信があるのだろうか、潔いヤツだ。敵とはいえ、多少の好感が持てた。

 僕もサンダーライオンたちを後退させる。


「アルト、がんばって!」


 ルディアが不安そうながらも、声援を送ってくれる。


「一騎打ちこそ戦場の華! もし、この闘いに横槍を入れる者があれば、この王国近衛騎士団、副団長シリウスがお相手しよう!」


 シリウスが剣を掲げて宣言すると、敵軍からどよめきが上がった。


「王国正規軍が介入していたのかっ!?」


 王国正規軍と戦うということは、王国そのものを敵に回すということだ。

 辺境の一領主と戦うのとでは、訳が違ってくる。


「そうだ! 王国に援軍を頼んでいる!」


 僕は便乗する形で、ハッタリをかました。

 計らずとも、敵軍を動揺させられたのはラッキーだった。


 ゲオルグを倒した後、敵兵には逃げ帰ってもらうのが一番良い。そのためのとっさの布石だった。


「援軍だと? 軍隊がシレジアに派遣されてきているという知らせはない。

 苦し紛れのつまらぬ虚言だ!」


 ゲオルグのひと言で、ダークエルフたちのざわめきは、ピタリと収まった。


「すでに策を弄する時ではない。この上は、我らで決着をつけようではないか?」


 ゲオルグが手招きをする。


「そうだな。それは、望むところだ!」


 僕は突撃しながら、スキル【神剣の工房】で剣の攻撃力を5倍にアップする。挑むなら接近戦だ。


 僕は遠距離攻撃の手段は【神炎】のスキルしか持っていない。これでは魔法を得意とするダークエルフと撃ち合っては、分が悪い。


 振り下ろした剣が、ゲオルグの剣に弾かれて火花を散らす。


「むぅっ!?」


 ゲオルグが目の色を変えた。

 アルフィンのスキル【剣神見習いLv385】によって、僕の剣撃の威力は3.85倍になっている。

 超一流の剣士並の斬撃が、繰り出せているハズだ。


「そこよ! アルト、やっちゃって!」


「テ、テイマーとは思えない見事な太刀筋です!」


 興奮したルディアや仲間たちが、エールを送ってくれる。近衛騎士に認められるとは、剣の修行もしていて良かったな。


 僕は押し切ろうと、さらに連続で剣を振るう。

 

 ゲオルグはうめきながら、後退していった。

 ダークエルフたちから、悲鳴のような声が上がる。


 これはイケるぞ。


「バカめ、かかったな!」


 突然、僕の足元に血のような真っ赤な魔法陣が出現した。

 その途端、身体の力が抜けていくような感覚に囚われる。


「なんだ、これはっ!?」


 僕は慌てて飛び退くが、時すでに遅かった。


「触れた者のMPを一定時間、強制的にゼロにする呪いのトラップだ! どのような手段を用いようともMPはゼロに固定となる。

 これでもう自慢の召喚獣は使えまい?」


 バハムートが光の粒子と化して、消え去った。


『ガガガガガッ、巨神兵。任務未完了ですが、帰還します……』


『ひゃあ! マスター、今、イイところだったのにっ!?』


 巨神兵とアルフィン、それにクズハまでも実体化を解かれて、僕の手元にカードとして戻って来た。


「ひ、卑怯よ! 一騎打ちの場に罠を仕掛けていたなんて!」


 ルディアが大激怒する。

 現在、実体化を解かれていないのは【自立行動スキル】を持っているSSRのルディアとヴェルンドだけだ。


「ハーッハッハッハ! この俺が人間ごときと本気で一騎打ちなどすると思ったか!? そら、押し包んで殺せ!」


 ゲオルグの号令と共に、ダークエルフたちが一斉に襲いかかってくる。


 くそう、最初からこのつもりだったのか?


 策を弄する時ではない、などと言ったのも罠は無いと油断させるためか。


「焼き尽くせ【神炎】!」


 【神炎】のスキルで、突進してきた敵を消し炭にする。スキルはMPとは関係なく使えた。


「シロ! ルディアを連れて下がれ!」


「アルトはどうするの!?」


「僕はここで、コイツを倒す! それ以外に道はない!」


 僕は叫びながら、再度、ゲオルグに向かって突撃しようとする。

 だが、押し寄せてくる敵軍に阻まれて、身動きができない。


 剣を横薙ぎに振るうと10人近い敵が吹っ飛ぶ。その間にもゲオルグは後ろに下がってしまう。


 僕は歯軋りした。


「アルト殿! 助太刀いたします!」


「私もアルト様!」


 シリウスとリーンが駆けつけてくる。

 飛竜たちも僕を救援しようと、飛び出してきた。


「シロ、逃げないで! 私たちも加勢するの。まだ手はあるわ!」


 なんとルディアも退却せずに、シロと一緒に向かってきた。


「召喚獣を使えねば戦線を維持できまい? 貴様をここに釘付けにして、その間にエルフの王女を手に入れれば終わりだ」


 ゲオルグが勝利を確信して、あざ笑う。


「僕が頼りとしてるのが、召喚獣だけだと思ったか? お前の思い通りになると思うなよ!」


 最後の砦として、ティオ王女のガードは『防衛担当大臣』のガインに託してある。


 万が一、村が陥落することがあればガインにはティオ王女を連れて逃亡してもらう手筈だ。


 ガインは僕の隣で戦いたがっていたが、ティオを守ると約束した以上、これが最善だった。


「小癪な。その強がりが、どこまで保つかな?」


 ダークエルフたちが、攻撃魔法を一斉に放ってくる。

 飛竜たちがドラゴンブレスで迎撃するも、数が違い過ぎて、すべては撃ち落とせない。


「きゃあああっ!?」


 リーンが被弾して苦痛の声を上げた。

 サンダーライオンや、飛竜たちにも被害が出た。


 数の違いを兵の質で補ってきたが、もうここまでか?


 その時だった。

 敵軍の後方から、悲鳴が轟いた。


「何事であるかっ……!?」


 べオルグが目を剥いた。

 敵軍の後ろより、戦いの喧騒が伝わってくる。


「一大事ですゲオルグ陛下! 3000近いモンスターの群れが、我々の後列に襲いかかっています!」


「モンスターどもの種類はバラバラ! 100種類近い混成群にもかかわらず、連携が取れています! しかも通常種より、ずっと強力で、あ、明らかに何らかの訓練を受けた集団かと!?」


「今、敵の正体が判明しました! 王国最強の遊撃部隊『獣魔旅団』です!」


「なんだと!?」


 獣魔旅団、それは僕が王宮テイマーとして育て上げたモンスター軍団だった。


 僕の仲間たちが遠く離れたシレジアまで、援軍として駆けつけてくれたのだ。

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