45話。剣神の娘アルフィンの力

「な、なんという美しい見事な佇まいか……!」


 剣神の娘アルフィンに対して、魔剣士エルンストが目を見張った。


「へぇ〜っ。私の実力がわかるなんて。あなたは、なかなかの剣士のようね? 見たところ純粋な剣士じゃなくて、魔剣士。魔法との合わせ技のようだけど」


「ひと目で、そこまで分かるのですか?」


「相手に対して、無意識に間合いをとろうとするのは、遠距離攻撃の手段を持っているからでしょう?

 得体の知れない者に対しては、見た目が子供であっても用心する。剣士として理想的な心構えだわ」


 アルフィンは腕組みして、うんうん頷いている。

 彼女は僕の胸くらいの背丈しかないので、おませな少女が大人相手に背伸びしているように見えて、微笑ましい。


「ええとっ……アルフィンで良いのかな? キミはもしかしてルディアの知り合い?」


「はい。マスター、私は誉れ高き剣神オーディンの娘アルフィンです。

 お父様のような立派な剣士となるべく、日々、修行に励んでいます」 


 パッと輝くような笑顔をアルフィンは見せた。

 剣神オーディンとは、剣士たちが崇める武神だ。天界一の剣豪と言われる。

 僕も多少は剣を齧ったので、オーディンに対しては尊敬の念があった。その娘だなんて、すごいじゃないか。


「はぁ〜〜、できればSSRの剣神オーディン様に出てきていただきたかったわ。今回は微妙にガチャ運が悪かったわね」


「ちょっとルディア、聞き捨てならないわよ! 私はずっと修行を続けて【剣神見習いLv385】まで、ユニークスキルがレベルアップしたんだから!」


 ため息をつくルディアに、アルフィンは人差し指を突きつける。


「いつまでも見習いというのが、なんともだけど……」


「【剣神見習いLv385】は剣技を3.85倍の威力で使えるようになるスキルじゃないか。かなりスゴイと思うけど?」


 指定した武器の攻撃力を5倍にアップする女神ヴェルンドの【神剣の工房】とのスキルコンボで、剣撃の威力がとんでもなく跳ね上がると思う。


 スキルは相乗効果が得られるように考えて習得するのが良い。

 例えば【怪力】のユニークスキルを得た者は、【正拳突き】のコモンスキルを習得して武道家になったりする。


 本来、ひとつしか手に入らないユニークスキルがコンボできるというのは、破格の優位性だった。

 ここにさらに剣技系のコモンスキル【ソードパリィ】なども習得すれば、僕は剣士として大成できそうな気がするな。


「アルフィンの【剣神見習い】は、使えば使うほどスキルレベルがアップして、パワーアップしていく成長型みたいだし。将来性が抜群じゃないか?

 レベル385まで上げているなんて、相当ストイックにがんばっているんだと思う」


「さすがはマスター、よく分かっていらっしゃるわ! そうよ、背も胸も剣の腕もこれからドンドン伸びていくんだから!」


 アルフィンは我が意を得たりとばかりに胸を叩いた。


「この娘のがんばりは、私も立派だと思うんだけれど……

 身体が小さいから、剣神の技を継ぐのは無理だって言われてて。

 魔剣士の道に進みなさいって、オーディン様やお兄さんたちから散々、助言されているのに聞き入れないのよね」


「ち、小さいって言わないでよ! 背が足りなくても、お父様みたいに長刀を格好良く振って。

 敵をバッサバッサとやっつけられるようになるんだからぁ!」


 アルフィンは歯を剥き出しにして怒る。

 アルフィンの背負う剣は、彼女の身長の1.5倍近くあり、確かにこれを振るうのは物理的に難しいだろうと思われた。


「つまり、アルフィンは適性とは異なる道を歩んでいると?」


「そうよ。この娘は魔法適性が高くて、魔剣士になれば、【剣神見習い】のスキルが、【魔剣聖】に派生進化してもおかしくないって。オーディン様から、お墨付きをいただいているの。

 でも、ずっと物理攻撃オンリーにこだわっているのよね」


「うるさい、うるさい! 私は純粋な剣士の道を歩んで行くの! 例え、何千年かかろうとも! 物理攻撃が効かない敵を、究極の斬撃で細切れにするロマンが。

 『また、つまらぬモノを斬ってしまった』と言って去って行くカッコ良さが。

 ルディアなんかに分かって、たまるもんですかぁあああっ!」


「つ、強さよりカッコ良さを追い求めるというのは、純粋な剣士なのかしら?」


 ルディアは呆れたようなツッコミを入れる。


「強い信念を持った良い娘じゃないか」


 僕は逆に、アルフィンに好感が持てた。


「ほら見なさい。マスターもこうおっしゃっているわ。

 やっぱり、わかる人にはわかるのよね!」


「ぐぅむむむむむっ!」


 ルディアは悔しそうにうめく。


「わ、わたしも別にイジワルで言ってる訳じゃなくてね。永遠に【剣神見習い】というのは、どうかなって……」


「ルディアがイジワルしている訳じゃないのは、わかるよ。

 自分の適性に沿うことは大事だものな。でも効率度外視で、自分が何をしたいかに重きを置いても良いと思うんだ」


 僕がモンスターたちとの楽園を築こうとするのも、譲れない信念があるからだ。

 モンスターにそこまで心を砕いてどうするのかと、王宮テイマー時代に陰口を叩かれたことがあった。


 でも僕はそうしたいから、するんだ。


「あっ、ありがとうございますマスターっ!

 グスッ! わ、私、ドチビ剣士とか、天界でヒドイあだ名をつけられてバカにされたことも、あってぇ……っ! そんな風に言ってもらえてうれしいですぅ!」


 アルフィンは感激した様子で僕に詰め寄った。


「私はまだまだ修行中の身ですけれど、地上の誰よりも優れた剣士だと、自負しています。

 私の誇りとするお父様、剣神オーディンの名にかけて、マスターをお守りしてみせます!」


「うん。よろしく頼むよアルフィン」


「はぁいい!」


「アルフィン殿、あなたは相当な剣士だとお見受けしました。

 ぜひ私に、あなたの技をご教授いただけないでしょうか?」


 エルンストが真剣な様子で、アルフィンに頭を下げた。


「えっ……!? ふふっん。弟子に教えるのも修行のうち! いいわよ。あなたは、なかなか見どころがありそうだし。

 では今日から私のことを、お師匠様と呼ぶように!」


 アルフィンが薄い胸を反らして、心底うれしそうに承諾する。


「僕も剣術のコモンスキルを習得したいから、ときどき稽古をつけてもらって良いかな?」


「はい! もちろんです。マスターっ!

 やったぁー! わ、私の弟子がふたりもぉおお! 弟子、弟子! お師匠様! いい響きだわ」

 

 アルフィンは顔をだらしなくニヤつかせていた。


「じゃあ、アルフィンは今日からシレジアの『剣術指南大臣』だな」


 アルフィンは剣を教えるのが好きそうなので、みんなの剣の先生になってもらうことにした。

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