39話。囚われの少女たちを解放する
僕は剣で鉄格子を斬り裂いて、女の子たちを解放した。
「ど、どなたかは存じませんが……ありがとうございました」
やつれた様子だったが、彼女たちは口々にお礼を述べた。
みんな、とびきりかわいい娘たちで20人近くはいた。
こんな娘たちを生け贄に捧げて、力を得ようなんて。ダークエルフの連中は、とんでもないな。
「お姉ちゃん、私たち帰れるの!?」
「ええっ。もう大丈夫よ……!」
姉妹と思われるエルフの少女らが、抱き合って号泣している。
姉のエルフの身体には、鞭で打たれたような見るに耐えないアザがあった。
「これは回復薬(ポーション)です。
飲んでください」
「ほ、本当になにから、何まで!」
姉のエルフが感激した様子で、僕が取り出した回復薬を受け取る。
彼女は、妹にそれを譲り渡した。
「さっ、飲んで」
「お、お姉ちゃん、いいよ。お姉ちゃんが飲んでよ。
お姉ちゃんは私を庇って、いっぱい鞭で打たれたんだから」
「あなたは小さいんだから、遠慮しなくて良いのよ。これで体力を回復しなさい」
しまった。怪我人がいるとは思っていなかったので、回復薬をあまり用意して来なかった。
「ヴェルンド、手持ちの回復薬が足らない。人を呼んで来てくれ。回復魔法の使えるリーン……
それとシロとサンダーライオンたちも頼む。ここにいる娘たちを背負って運んでもらおう」
「承知しました。マスター」
鍛冶の女神ヴェルンドは、胸に手を当てて了承の意を示すと、外に出ていく。
ここには衰弱した怪我人が多く、歩くのもままならない娘もいた。
その中でも、妹に回復薬を譲ろうとする少女の怪我はひどかった。
エルフであるため、ダークエルフたちの敵意を一身に浴びたのだろう。
僕は彼女の肩に手を触れると、スキルを発動させる。
「【世界樹の雫】!」
「……えっ? あれっ!?」
死者すら蘇生させる女神ルディアの究極の回復スキルだ。
少女の身体から怪我がキレイに消え去って、顔に血色が戻った。
彼女は驚いて身体を見下ろしている。
「お、お姉ちゃんの傷が一瞬で!?」
「アルト様、まさかエリクサーを使われたのですか!?」
妹のエルフと、リリーナが素っ頓狂な声を上げた。
「いや。これは【神様ガチャ】で手に入れた回復系スキルなんだ」
さきほどヴェルンドから、ガチャの闇について教えられたけど……
【神様ガチャ】のおかげで、僕は力を手に入れ、こうして誰かを助けることができている。
ルディアの言う通り、ガチャは正しく使えば、人を幸せにする力なんだと思う。
「アルト様とおっしゃいましたか? まさか、まさかとは存じますが……い、今の力はっ」
姉のエルフが、全身をわなわなと驚愕に震わせながら尋ねてきた。
「お兄ちゃん、ありがとう! お兄ちゃんはスゴく強いだけじゃなくて、回復魔法までスゴいんだね! カッコいい!」
妹のエルフが無邪気な笑顔を向けてくる。この娘は僕が回復魔法を使ったと誤解したようだ。
僕は姉のエルフに告げる。
「今の力について説明すると長くなるので。あとで、ティオ王女から聞いてもらえますか?」
「ティオ王女!? 姫様もご無事なのですか!? 私は姫様にお仕えしていた侍女です!」
「ティオ王女は、僕の村で保護しています。エルフの戦士たちも一緒なので安心ですよ」
「ああっ! 姫様っ……! アルト様、このご恩は、決して決して忘れません!」
彼女は、その場に泣き崩れた。
「実はアルト様、大事なお話が。大旦那様から、手紙を預かってきております。どうかご覧になってください」
リリーナが手紙を差し出してきた。
「父さんから?」
エルフと同盟を結んだ話など、重大だと思われる事柄については、伝書鳩で報告していたけれど……
父さんの方から、何か連絡してくるとは思わなかった。
中身を開くと、僕をオースティン伯爵家の当主に迎えたいので、一刻も早く戻ってきて欲しいと書かれていた。
さすがに驚きだった。
弟のナマケルでは王宮テイマーが務まらないこと。
このままではオースティン伯爵家が取り潰される恐れもあること、なども書かれていた。
「大旦那様は、その。自分好みのメイドに囲まれて老後をお過ごしになりたいと、おっしゃっておられまして。
そのために、アルト様に伯爵家を盛り立ていただきたいと……」
リリーナは眉をひそめた。
「父さんの考えはわかった。でも僕はもうオースティン伯爵家に戻るつもりは無いな」
ここですでに僕は、かけがえのない多くの仲間に囲まれている。
アルト村が手掛ける様々な事業も、ようやく軌道に乗り出したばかりだ。
エルフのティオ王女を救って、魔王の復活を阻止するとも約束した。
それらをほっぽり出して、王都に戻ることなどできない。
「父さんには、伝書鳩で断りの手紙を送ろうと思う。僕はここに、僕の理想郷。モンスターと人間が共存する楽園を築くつもりなんだ。
それは王宮テイマーをやっていたら、できないことだ」
「はい。アルト様! それでは、どうかこのリリーナめを、またお側でお仕えさせてはいただけないでしょうか?
そのために、私はここまでやって参りました」
「もちろんだとも。今、温泉宿の従業員なんかも不足していて。
いろいろな仕事を手伝ってもらいたいんだけど、大丈夫かな?」
「はい。アルト様のお役に立つこと。それがリリーナの生き甲斐であり、幸せですから!」
花が綻ぶような極上の笑顔でリリーナは告げた。
僕のために、そこまで言ってくれるなんて、ありがたいことだ。胸がジーンとする。
「ここには他のダークエルフたちがやってくるかも知れない。脱出は応援が到着してからにしよう。
さすがにこの人数を守りながら移動するのは、無理があるしね」
「はい!」
地下は狭くて召喚獣を喚べないというのが痛い。今の戦力は僕だけだ。
【魔物サーチ】のスキルで、敵がもう潜んでいないことは確認済みだが、敵地である以上、敵がいつやって来るかわからない。
僕は牢獄の唯一の出入り口に立って見張りをする。ここを押さえておけば、中にいる娘たちは安全だ。
気絶したダークエルフたちは、リリーナに縄で縛ってもらう。コイツらからは、後で情報を聞き出さなくちゃな。
「アルト! 助けにきたわよ! 捕まった女の子たちはそこにいるのね?」
しばらくすると、ルディアが興奮し息を切らしながら、やってきた。
その後ろには、ヴェルンドやリーン、村の男らが続いている。シロたちも一緒だ。
「うん、ここだ。全員アルト村に連れて行って、療養させて欲しい。まずは怪我の治療を頼む」
「はい、アルト様!」
「わかったわ! 回復薬は、いっぱい持ってきたから」
ルディアは大きなバックパックを背負っていた。
彼女はそれを降ろして、女の子たちに回復薬を配り出した。リーンも回復魔法を怪我のひどい娘たちか順にかけていく。
「それでねアルト! さっき来る途中に偶然、シロが隠し部屋を見つけて! なんと50万ゴールドくらいのお金があったわ!
これで、またガチャに課金できるわね!」
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