38話。『課金ガチャの闇』ガチャにまつわる世界の真実を知る。廃課金で古代人は人生終了

「……俺を倒した程度で、う、浮かれおって。いい事を教えてやろう」


 息も絶え絶えの族長が、最後の力を振り絞って告げた。


「我らが王の力は、俺の比ではない。

 神々に仕えし伝説の神獣たちすら、上回る力をすでに備えておられる。

 絶望しながら滅びの時を待つのだな! ハーッハッハッハ!」


 死を目前にした壮絶な脅し文句に、リリーナはたじたじになった。

 僕も気圧されそうになったが、ひとり、まるで空気を読まない娘がいた。


「うん。神鉄(アダマンタイト)並みの強度を持った肉体とは、驚いた。

 お前の身体……特に角は、神鉄(アダマンタイト)の代用品になったりはしないか?

 だったら、うれしいのだが……」


 鍛冶の女神ヴェルンドが、族長にスタスタ近づいていって、その頭の角を掴んだ。


「な、なんだっ……? やめろ、そんな訳ないだろ!?」


「ドラゴンの牙や角は、武器に加工することができる。お前の槍と同じだ。だったら、お前の角でも同じことができるのではないか……?」


 ヴェルンドはハンマー【創世の炎鎚】を振り上げた。


「とりあえず、その角をへし折って、いただく。せっーの!」


「はぁあああああっ!?」


 族長は恐怖に大きく目を見開いて動かなくなった。


「……あっ、息絶えてしまったようです」

 

 ヴェルンドが困ったような顔になった。 最後はショック死か。計らずとも彼女がトドメをさす格好となった。


「残念です。魔族の身体は、死んでしまうと、魔力が急速に失われてしまいます。

 この角を生きたままへし折って、手に入れたかったのですが……」


「そ、そうか」


 どうやらヴェルンドにとって族長は、生きた武器素材に見えていたようだ。

 なんというかカルチャーショックだな。


「あ、あのアルト様。気になっていたのですが、こちらの美しい女性は?」


「私は鍛冶の女神ヴェルンド。マスターの使い魔です。あなたはマスターのご友人でか?」


「使い魔!? あ、あの失礼ですが、モンスターさん、なのでしょうか? 私はアルト様にお仕えしていた侍女のリリーナです」


 リリーナは戸惑った様子だった。無理もない。


「僕のスキル【神様ガチャ】は神様や神獣を喚んで、使い魔にするというものだったんだ。ヴェルンドは、【神様ガチャ】で喚び出した鍛冶の女神なんだよ」


「えっ! そ、そんな、まさか……

 鍛冶の女神ヴェルンド様と言えば鍛冶師やドワーフの方々が信仰する神ではありませんか?

 アルト様のスキルが、外れスキルであるハズがないと思っていましたが……

 か、神様を使い魔にする!?」


「本当です。この魔族を倒したマスターの剣は、私が鍛えました。

 鍛冶の女神ヴェルンドは、この身のすべてを捧げてマスターにお仕えしています」


「こ、この身のすべてを捧げて? な、なぜ、そこまで……ま、ま、まさかっ」


 リリーナは仰け反りながら、唇を震わせた。


「マスターは、創造神様の作ったガチャシステムを補完するお方だからです。

 おそらくマスターにしか正しく【神様ガチャ】は使えません」


「……創造神の作ったガチャシステム? なんだ、それは? 僕にしか正しく【神様ガチャ】が使えないとは、どういうことだ?」


 意味深なヴェルンドの言葉に、引っかかりを覚えて尋ねた。

 もしやと思うが、僕の前世に関わる話か?


 僕の前世うんぬんは、あの後ルディアに深く尋ねていなかった。

 僕がかつて、最強の魔王だったとか言われても困ってしまう。


「ルディアのいない良い機会ですので、マスターに真実をお伝えしておきましょう。

 ルディアは『ガチャの闇』について触れるとムキになるので、今まで話せなかったのです」


「ガチャの闇?」


「はい。あの娘はガチャの光の面を信じきっていますから。ガチャはみんなを幸せにする力。この世界を維持するために必要なシステムだと。

 確かにその通りなのですが……」


 ヴェルンドは静かに語りだした。


「この世界は2000年前、創造神様がお創りになったお布施集約システム【精霊ガチャ】によって繁栄の絶頂を迎え……

 同時に月収10万ゴールドなのに、月に100万ゴールドもガチャにつっこんで、人生終了になってしまった者【ガチャ廃人】を大量に生んで滅びかけたのです」


 ヴェルンドが語ったことは、僕の知っている神話や歴史とは全く異なるモノだった。


 ガチャなどという言葉は、【神様ガチャ】のスキルを得るまで聞いたこともなかった。

 リリーナも目を丸くしている。


「魔王の配下たる魔族とは、ガチャ廃人となった者が、創造神様を憎むあまり闇に堕ちた存在なのです。

『確率操作でSSRが出ないようになっていたなんて、あんまりだぁああ!』

 そう叫んで、神を呪うようになった者がいかに多かったか……」


 ヴェルンドは悲しそうに目を伏せた。


「ガ、ガチャが魔族を生み出したというのか?」


「その通りです。エルフが【ガチャ廃人】となって神を呪い、魔王の眷属となった存在。それがダークエルフです」


 衝撃的な事実だった。


「それに2000年前の【精霊ガチャ】とは、僕の【神様ガチャ】のようなモノか?」 


「はい。【精霊ガチャ】とは、課金するとランダムで、役立つかわいい精霊が手に入るスキルです。

 マスターの【神様ガチャ】のプロトタイプですね。

 かつて古代人は誰もが【精霊ガチャ】のスキルを生まれながらにして与えられていました。

 みんな喜んでSSRの精霊を手に入れようとガチャに課金しました。

 そして廃課金の罠に落ちて、人生が終わってしまう者が続出したのです。」


 腑に落ちる話だった。

 【神様ガチャ】を使って思ったのが、とにかく課金させようとする仕組みがスゴイことだ。


 SSRの出現率が2倍になる一週間限定のキャンペーンとか。

 同じSSRの神を5つ集めて、最大レベルまで強化しようとか。


 今思えば、最初にSSRの女神ルディアが現れたのもSSRの神のすごさを体験させて、課金を促すためだったのではないかと思う。


 も、もしや……これが『ガチャの闇』か。

 限界以上まで課金してしまえば、確実に人生が終わる。


「魔王ルシファーは、ガチャこそ人々を破滅させる諸悪の根源だと言いました。

 『俺はガチャを許さない!』と。

 そしてガチャシステムを破壊しようと創造神様に戦いを挑んだのです」


「魔王ルシファーは、創造神の光の力を奪い取るべく天界に戦いを挑んだんじゃ、なかったのか?」


 魔王ルシファーは天より光を奪い、光さえも支配する究極の魔王となった。

 驕り高ぶった光の魔王ルシファーは、この世の全ての種族を支配しようとした。

 それが僕が良く知る神話だ。


「どうやらガチャに関することは、後世に伝えられていないようですね。

 魔王ルシファーは、創造神様と戦って敗れ、女神ルディアに命を救われました。

 魔王ルシファーはルディアによって、ガチャがこの世界の維持に必要なシステムであることを教えられました。

 そして人生終了してしまうガチャ廃人が現れないように。悲劇を防ぐために……

 魔王ルシファーは、すべての種族を支配して管理しようとしたのです」


『あなたは、ガチャは人を破産させる力だと言っていたけど、ガチャの本質は違うわ! ガチャは人と神を……みんなを幸せにする力なの!』


『お願い! ガチャを信じてアルトォオオオ!』


 かつてルディアから言われた言葉が、頭に蘇った。

 ゴブリンたちと戦った時に言われたハズだが、これと同じセリフをずっと昔にも聞いたような既視感があった。


「『SSRの精霊の出現率1.5パーセント? 出るまで課金すれば100パーセントだからね。1.5パーセントなんて嘘さ!』

『期間限定の水着バージョンのウンディーネちゃんが欲しいんだぁよおおおお──っ!』

 などと言う廃課金ユーザーを創造神様は、信者として大事にしました。

 無論、この世界を維持、管理するためには、人々の神への信仰が。なによりお布施が必要です。

 でも、それが行き過ぎた結果……

 魔王たちによる神への反逆が起きたのです。魔王たちは、ガチャをこの世から完全に消し去ろうとしました」


 そうか。だから、ガチャに関する記録や文献が残っていないのか。

 魔王たちは神々と相打ちになったが、その目的は達成されたらしい。


「じゃあ、僕がこの【神様ガチャ】のスキルを授かったのは?」


「ガチャは正しく使えば、人々を幸福に導く力です。それはルディアの言う通り……

 しかし、心の弱い者は、ガチャの闇に呑まれて破滅してしまいます。

 ガチャはこの世界を繁栄に導くと同時に、人々を破滅させかねない危険な力なのです。

 創造神様は、あなたならガチャを正しく使いこなして、神々を復活させることができると思って【神様ガチャ】をお与えになったのです」


 その時、牢獄に囚われた女の子が、苦痛の声をもらした。

 少し長話をし過ぎた。


「ヴェルンド、この娘たちを助け出すのが先決だ。話はまた後で聞かせてくれ」


「はい。了解ですマスター」


 ヴェルンドは、コクリと頷いた。

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