36話。鍛冶の女神ヴェルンドの力

 僕は【魔物サーチ】のスキルで、ダークエルフの反応を追跡した。

 すると地面の下に反応が移った。どうやら地下道があるようだ。


「ダークエルフは、確か地下に都市を作る種族だったよな」


「はい。私を信仰するドワーフたちと、その点は似ていると思います」


 僕に付き従った鍛冶の女神ヴェルンドが頷く。

 ルディアがエルフに信仰されているように。ヴェルンドは鍛冶を得意とするドワーフに信仰されているようだ。


 そう考えると、ヴェルンドもすごい神様だな……


 しかし、困ったことに地下道への入り口が見つからない。うっそうとした草木が、どこまでも広がっているだけだ。


 【魔物サーチ】のスキルは、魔族の居場所はわかるが、隠し扉のような仕掛けを発見することはできない。


「アルト村の近くに、ダークエルフの拠点があるのは見過ごせない。なんとしても、探し出さないと」


 温泉にやって来た観光客が、被害にあうかも知れないし。エルフの王女ティオを狙って、ヤツらが何か仕掛けてくる可能性もある。

 早急に調査して、潰す必要があるな。


「地下は私の得意分野。地盤をぶち抜いてしまって良いでしょうか?」


「そんなことができるのか? じゃあ頼む」


「はい!」


 するとヴェルンドのハンマー【創世の炎鎚】の尖端が円錐形に変形した。


 えっ、なにこれ?


「はぁああああーっ! ブチ抜けぇええええ!」


 ヴェルンドがハンマーを振りかぶると、尖端が、ぎゅいいいいん!と音を立てて高速回転する。

 地面に勢い良く突き立てられたハンマーは、大地をえぐり、大量の土砂を巻き上げた。


「えっ、ハ、ハンマーで地面を掘っている……っ?」


 ヴェルンドは地面にもぐって行き、姿が見えなくなる。

 あまりのことに、僕は言葉を失ってしまった。


 ポッカリ開いた大穴から下を覗くと、地下道に立ったヴェルンドが手を振っている。


「マスター、ダークエルフの地下道です!思ったより、地表近くにありましたね」


「ま、まさか、こんな穴を開けてしまうとは驚いたな」


「はい。モード【ドリルハンマー】です」


 ヴェルンドは胸を張って誇らしげだ。

 さすがは地下に住むドワーフが信仰する女神というべきか。

 彼女は鍛冶だけでなく、土木工事もできそうだな。


 僕は地下道に飛び降りる。

 周りを見回すと、一定間隔に置かれたランタンの光が奥まで続いていた。


 【魔物サーチ】の反応に従って、ダークエルフたちのいる方向に向かう。

 途中で通路がいくつも枝分かれしており、ちょっとしたダンジョンだった。


「い、いや、やめてください……!」


 若い女性の悲鳴のような叫びが聞こえてきた。

 同時に、恐怖を煽るかのように笑うダークエルフの声も。


「まさかリリーナ……っ!?」


 悲鳴は、僕の実家で働いていたリリーナのものだった。

 急いで駆け出した僕は、現れた扉を蹴破る。


「アルト・オースティン!? な、なぜ、この場所が!」


 室内にいたダークエルフたちの視線が、一斉に僕に集まる。


「なにっ!? 貴様、どうやって入って来た!?」


「ドリルで入ってきたぁあ!」


 僕の後をついて来たヴェルンドが、代わりに答えた。


 僕は壁に無惨に磔にされたリリーナを見て、怒りが沸騰した。

 ここは地下牢のようで、鉄格子の中に何人もの若い女性が閉じ込められている。全員、かなり衰弱している様子だった。


「【スタンボルト】!」


 僕は全方位に敵を麻痺、気絶させる電撃を放った。巨神兵のスキルだ。


「ぎゃああああああっ!?」


 薄暗い室内が光に満たされ、ダークエルフたちは、糸が切れたように倒れる。

 よし。全員を一度にノックアウトできたな。


「リリーナ無事かっ!?」


「……あ、アルト様!? はい、大丈夫です!」


 僕は急いでリリーナに駆け寄る。

 剣を抜いて、リリーナの手足の拘束具を断ち切った。


「アルト様! アルト様っ!」


 リリーナはわんわんと泣いて、僕にしがみつく。

 見たところ、怪我などしていないようだ。何かされる前で良かった。


「よし、よし。もう大丈夫だから……」


 リリーナが落ち着けるように、背中を擦ってやる。


「リリーナ、でも一体どうしてここに?」


「は、はい。アルト様にまたお仕えさせていただきたくて……うっ、うぇ〜ん!」


 いろいろと聞きたいことがあったが。リリーナは興奮して、しゃっくりをあげており、まともにしゃべれそうになかった。


 それにしても、さっきから強く抱き締められて、胸が当たっているんだよな……

 あまり、こういう経験が無いのでドキドキしてしまう。


 なんとなくルディアが『アルトは私のものなのよ!』と怒ってる顔が、頭に浮かんだ。僕は慌てて離れようとする。


「とりあえず、僕の村に帰ろう。そこで話を……」


「もらったぁ!」


 その時、気絶したと思われたダークエルフのひとりが跳ね起きて、リリーナごと僕を槍で貫こうとした。


 巨神兵のスキル【スタンボルト】を喰らって動けるだと?


 リリーナにしがみつかれていたために、反応が一瞬遅れた。


「マスター、危ない!」


 ヴェルンドが間一髪、ハンマーで敵の攻撃を弾いてくれる。

 僕はリリーナを抱えて後ろに下って、距離を取った。


「フハハハッ! ひさしぶりだなアルト! 貴様に復讐できる日を楽しみにしていたぞ!」


 高笑いしたダークエルフは、僕がティオを助けた時に殴り飛ばした族長だった。

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