35話。【メイドSIDE】リリーナ、アルトに助けられる
オースティン伯爵家に侍女として仕えていた私──リリーナは、馬車を乗り継いでシレジアの樹海までやってきました。
アルト様にもう一度、お会いし、お仕えさせてもらえるようお願いするためです。
大旦那様から、アルト様を当主に迎えたいという手紙も預かっています。
伯爵家への最後のご奉公として、私はこの手紙をアルト様にお渡しするつもりです。
大旦那様から口止めされていますけど……
大旦那様の『巨乳メイドとウハウハ暮らすワシの夢の老後計画』についても、キチンと申し上げるつもりです。
老後は追放した息子におんぶに抱っこで暮らしたいなんて。
ヒドイにも程がありますよね。ハァ……っ。
「わざわざ、辺境に追放された元ご主人様にお仕えしに行くなんて。よっぽど、良いご主人様だったんだな? お嬢ちゃん?」
「はい。アルト様こそ、貴族の中の貴族様だと思っております」
護衛に雇った冒険者さんたちに、アルト様との思い出話を聞いていただきました。
「はぁ〜っ。落ち着いて聞いて欲しいんだが。実は俺らは、そのアルト様の弟をボコっちまってな。王都に居られなくなったんだけどよ。
お家騒動で負けた兄の治める領地なら、ナマケルの野郎から守ってもらえるじゃないかと思って。これから移住しようと思っていたんだよ」
驚いたことに、ナマケル様をボコボコにして、王都から出て行った冒険者の方々だったようです。
「そんなに良い領主様なら、俺らも安心だぜ!」
「はい! アルト様なら、この危険な辺境を豊かな土地にしてくれると思います。一緒にがんばりましょう」
「おう!」
気の合う方々と、一緒に旅ができてホントに良かったです。
この方たちとは友人として、きっと仲良くやっていけると思います。
もう少しでアルト様が治める村に到着できると、期待に胸を高鳴らしていた時でした。
私たちは、ダークエルフの集団に襲われてしまったのです。相手は圧倒的な強さでした。
護衛をお願いした冒険者さんたちは、あっと言う間に壊滅。私は悲鳴を上げることもできないまま、拉致されました。
訳もわからないままに連れてこられたのは、ひんやり冷たい空気の漂う地下牢獄です。
私以外にも何人もの若い女性や、エルフたちが閉じ込められていました。
拘束された彼女たちは、みんな死んだような絶望の表情を浮かべていました。
「ククククッ……なかなか良い女ではないか。魔王ベルフェゴール様の生け贄とするのに、ふさわしいな」
頭からフードを被ったダークエルフが、私も見て、くぐもった笑い声をあげます。
私は手足を鎖で拘束され、壁にはりつけにされていました。
「生け贄を捧げれば捧げるほど、ベルフェゴール様は我らに力をお与え下さる……我らが進化を果たせば、アルト・オースティンなど恐れるに足らずだな」
アルト様の名前が出てきて、私は驚きました。
ダークエルフたちの目的がなんなのか、わかりませんでしたが……
口調からしてアルト様と敵対しているようです。
「あ、あなたたちは、アルト様に何かするつもりなのですか……っ!?」
「ほう、娘よ。お前はもしやアルトの知人か? 見たところメイドのような格好をしているが……」
「族長、この娘の荷物を調べましたところ。オースティン伯爵家の紋章で封蝋がされた手紙が見つかりました」
「ほう? この娘、オースティンのゆかりの者か。これはおもしろい」
ダークエルフたちは愉快そうな笑みを浮かべました。
私は恐怖に息を飲みます。
「アルトには煮え湯を飲まされたかならな。
この娘、ベルフェゴール様の生け贄とするのも良いが。いろいろと楽しませてもらった上で、ヤツへの人質として利用してやるか……」
「い、いや、やめてください……!」
「クククッ、この世のモノとは思えぬ快楽と苦痛を味わうが良い」
ダークエルフが、私に手を伸ばして来ます。
必死に身をよじって逃げようとしますが、拘束されていて為す術がありません。
頭に思い浮かぶのは、アルト様のお姿です。
できれば、もう一度、アルト様にお会いしたかった。
このダークエルフたちは危険な集団です。
人質などにされて、アルト様にご迷惑をおかけする訳にはまいりません。
アルト様への最後のご奉仕として、舌を噛んで死ななくては……
「リリーナ……っ!」
その時、聞こえてきたのは、懐かしいアルト様の声でした。
アルト様を想うあまり、幻聴が聞こえてしまったみたいです。
で、でも最後に、アルト様のお声が聞けてよかった。
私はギュッと目を閉じて……
「アルト・オースティン!? な、なぜ、この場所が!」
「貴様、どこから入って来た!?」
なぜかダークエルフたちが、ひどく慌ててふためきました。
「【スタンボルト】!」
いえ、幻聴ではありません。この声は紛れもなく……
バチバチバチッ!
石壁で覆われた室内に電撃が走り、ダークエルフたちが悲鳴を上げました。
「ぎゃあああああっ!?」
彼らはブスブスと煙を上げて、倒れます。
「おい、リリーナ無事かっ!?」
姿を見せたのは、私が会いたくて会いたくて、たまらなかったアルト様でした。
「……あ、アルト様!? はい、大丈夫です!」
思わず涙がこぼれてしまいました。
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