34話。鍛冶の女神ヴェルンドの鍛えた武器

「量産型の鉄の剣で、古竜にダメージを与えられるって……十分、すごいと思うんだけど」


 そんな武器を大量生産できたら、世界を征服できるじゃないか?

 古竜は1000年以上の時を生きて、強大な力を持った最強クラスのドラゴンだ。


「今、気合いを入れて鍛えているマスター専用のミスリルの剣は、魔王にも通用する武器にするつもりです。

 魔法的な加護も加えて、限界まで強化しています。

 本当ならドラゴンマウンテンを真っ二つに斬り裂く程の性能にしたかったのに…

 魔王にダメージを与える程度で申し訳ないです」


 鍛冶の女神ヴェルンドは、いたたまれなそうにしている。


「はあっ……?」


 ドラゴンマウンテンは標高9000メートルの世界で一番高い山だ。


 そんな物を両断するなんて、それはもう剣の領域を超えているんじゃ…… 

 冗談だよね?


「おうおう! 俺様はミスリルの剣を持つCランク冒険者様だぞ!

 なんで新ダンジョンの探索許可が降りねぇんだよ!」


 その時、男の怒鳴り声が聞こえてきた。


「残念ですが、あなたでは魔王のダンジョンの探索は無理です!」


 見れば村に設置された『魔王のダンジョン探索許可証発行所』のテントで、エルフの受付嬢と冒険者の男がもめていた。


「この村の温泉に浸かった俺様はAランク冒険者並みのステータスになったんだぞ!

 その俺様がミスリルの剣を持ってんだ。誰だろうと、どんなモンスターだろうと俺様にかなうものかよ!」


「ちょっと何をもめているんだ?」


「あっ、実はこの方が、魔王のダンジョンの探索許可をどうしても出せと……!」


 僕が仲裁に入るとエルフ娘は、泣きそうな目を向けてきた。

 この娘は、だいぶ気が弱そうな感じだった。荒っぽい冒険者の相手は荷が重そうだな。


「魔王のダンジョンは、凶悪な強化型モンスターがひしめく危険度S以上の場所なので。

 下手に人を近づけさせないようにしているんですよ」


 魔王の依り代になりかねない人間に近づかれては困るという理由もある。

 能力と人格、どちらかに難がある者には、ダンジョン探索許可を出さないようにしていた。


 その代わり、許可を出した場合は、マッピングが終った領域の地図や、出現モンスターの情報をわかっている範囲で提供している。


 また冒険者たちがダンジョン探索で得た利益の一割は、アルト村に納めるというシステムにしていた。

 

 これでドンドンお金が稼げる仕組みを整えていた。


 ダンジョンは迷宮資源とも呼ばれる。領地の大事な財産だ。

 うまく活用して、僕はアルト村をさらに発展させるつもりだった。 


「あん? なんだお前は? 鉄の剣しか買えねぇような貧乏人が、何の用だ?」


 冒険者の男は、僕を見下したように笑った。

 僕はあんまり服とかにお金をかけないので、一見すると貧乏に思えるようだ。


 お金があったら、ガチャへの課金や領地開拓、モンスターの餌代に回したいから、どうしても身なりはみすぼらしくなるんだよな。

 ヴェルンドの作る武器の素材を買う必要も出て来たし。


「申し訳ありませんが、あなたには新ダンジョン探索許可は出せないので、お引き取りください」


 僕はキッパリとお断りした。

 ソロでAランク並のステータスでは危険だ。強力な武器があっても魔王のダンジョンに潜るのはあきらめた方が、本人のためだ。


「なんだと、てめぇ!? 何の権利があって俺様にケチをつけてやがる! 俺様が弱いとでも抜かしやがるのか!」


 男は激怒して、僕に詰め寄ってきた。


「えっ!? ちょっ、ちょっとそのお方は……!」


 エルフ娘が慌てて男の腕を掴むが、男は彼女を乱暴に突き飛ばした。


「きゃあ!?」


「小娘。お前は黙ってろ。

 ちょうど良い機会だ。剣術、免許皆伝の俺様の実力を見せつけてやるぜ!」


 男はなんと剣を抜いた。ギラリと、ミスリルの剣が危険な輝きを放つ。エルフの娘が小さい悲鳴を上げた。


「そら、お前も抜けよ。剣士としての格の違いって奴を思い知らせてやるぜ」


「いや。僕は剣士じゃなくて、テイマーなので。免許皆伝なら、あなたの方が剣士としては格上だと思います」


「ギャハハハッ! なんだテイマーかよ! モンスターも連れていないテイマーなんざ、怖くもなんともないぜ!

 とりあえず、痛い目を見とけや!」


 男は僕に剣を振り降ろしてきた。

 手加減してくれているのか? 意外と遅い動きだ。


 僕は男の斬撃を、剣で弾いた。


「あっ……?」


 その瞬間、男が自慢していたミスリルの剣が、スッパンとたいした手応えもなく切れた。

 切り飛ばされた刀身が回転して、地面に突き刺さる。


「ま、真っ二つになった? 借金までして買った40万ゴールドの名剣が!?」


 男は顔面蒼白となった。


「て、鉄の剣で……んなバカな!? しかも、今の動き……て、てめぇ、一体、何者だ!?」


「まあ、天界の名匠ヴェルンドの鍛えた武器に突っかかたら、こうなるわよね」


 そのやり取りを見ていたルディアが肩を竦める。


「ヴェルンドの鉄の剣、すごい攻撃力だな」


「いえ。剣の力を引き出すのは、あくまで使い手です。

 マスターは、剣士として見事な腕前です。これは武器の作り甲斐がある……っ」


 ヴェルンドが満足そうに頷いた。

 どうやら剣豪ガインなどと、やり合ったりおかげで、僕の剣の腕前も向上しているようだ。


「大将! ここで揉めているバカがいるって聞いて来たんですが」


 ガインが、走り寄ってきた。


「あ、あんたまさか、悪名高い剣豪ガインか!?」


 男が驚きの声を上げる。


「ガイン、遅いわよ。コイツなら、もうアルトが片付けちゃったわ」


「すまねぇ嬢ちゃんって……おい、コラ。てめぇまさか、アルトの大将に剣を向けたのか? 百叩きじゃすまねぇぞ、こらぁあっ!」


 ガインは男の胸倉を掴んで、締め上げた。


「へぇっ!? アルトの大将って……まさか、こいつ! いやこのお方が、ここのご領主様!?」


「知らなかったじゃ、すまされねぇぞ! 飛竜の餌にでもなるか!?」


「ひぃいいい!? ごめんなさい、ごめんなさい!」


 男は泣きながら平謝りした。

 ガインはすごい迫力だった。


「ガイン、その男の処罰は任せる」


「了解です!」


 村の中で、安易に剣を抜くような乱暴者には、それなりの灸をすえた方が良いだろ。


 人が集まれば、トラブルを起こす者も出てくる。トラブルを未然に防ぐためにも、毅然とした対応を取る必要があった。


 さてと。次は巨神兵から得た新スキル【魔物サーチ】を試してみるかな。

 珍しいモンスターが見つかったら、テイムしてみよう。


 【魔物サーチ】のスキルを発動すると、脳裏にこの周辺の地図が浮かび上がった。

 地図には赤いマーカーが点滅し、その上にモンスターの名前が表示されている。


「これは便利なスキルだな」


 周辺のモンスターの位置が、すぐにわかるようになっていた。


 その中で気になる表示があった。

 ダークエルフの反応が5つ、この村の近くに固まって存在している。


 もしかして、この村の様子をうかがっているのか?


「ヴェルンド、一緒に来てくれ。近くにダークエルフがいるみたいだ」


「了解です。マスター」


 鍛冶の女神ヴェルンドが、僕の呼びかけに頷く。


 彼女はバトルでも役立つと、システムメッセージに表示されていた。

 ならここはヴェルンドを連れて行くべきだろう。


 僕たちはダークエルフの反応を追って、村の外に駆け出した。

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