30話。街を救いサンダーライオンをテイムする

「ひゃあああっ! 高いわ! 高いわっ! ちょっとぉお! これ私、無理なんですけどぉおおお──っ!」


 ルディアが恐怖に目を回しながら、僕にしがみついてくる。

 飛竜に乗って空を飛び、僕たちは近隣の街を目指していた。温泉宿の宣伝のためだ。


 道を覚えさせるべく、5匹の飛竜をすべて引き連れて飛んでいた。


「そんなに高いところが苦手なら、村で待っていれば良かったじゃないか?」  


「私はアルトと、1秒でも長く一緒にいたいの! それにビラ配り要員も必要でしょう?

 って、もうちょっい、ゆっくり飛んで、お願いだから!」


 ルディアは泣きそうになっている。

 眼下には広大な樹海のみどりが広がり、絶景だ。


 その中を風を切って飛ぶのは、実に気持ちがいいのだが……ルディアにとっては拷問のような状態らしい。

 仕方がないので、ルディアのリクエストに応じて、少し速度を落とす。


「ルディアお姉様! 女神なのに空が怖いとか情けないの」


 温泉の女神クズハが、ため息混じりに告げた。

 クズハも飛行送迎サービスの乗り心地を試すために同乗していた。


 クズハは温泉宿経営に関することには一切妥協しない。


「んなぁこと、言ったてぇ─っ!」


「でも、ルディアみたいな高所恐怖症の人もいる訳だし。対策は必要だな……

 そうだ。馬車のような箱型の客室を用意して、飛竜に運んでもらうとか。どうかな?」


「グッドアイデアなの! さすがはマスター! 安全に空の旅を満喫できるというだけで、集客に繋がりますの」 


 クズハが手を叩いて賛同する。


「ひぃいいいいっ! アルト、死んだら来世でまた一緒になりましょう!」


「いや、死なないから。大丈夫だって……」


 ルディアは僕にしがみつきながら、ずっと泣きわめいていた。


 しばらくすると樹海の外に、壁に囲まれた小さな街が見えてきた。

 僕の領地の外にある街だ。


 飛竜に、門の前に降下するように命じる。

 その時、異変に気づいた。


 地上で、チカチカと輝く光。


 ライオン型モンスター、サンダーライオンの群れが、街の守備兵たちに雷撃をぶつけていた。

 サンダーライオンは、電撃を発する能力を持ったモンスターだ。


「街には一匹も入れるな!」


「し、死守しろ! 俺たちの家族を死んでも守るんだ!」


「冒険者ギルドにも応援を要請しろ!」


 門の前に陣取った守備兵たちが、懸命に戦っている。


 どうやら、サンダーライオンの群れが、街の門を突破しようとしているようだ。


 サンダーライオンは、通常種より強力のようだった。おそらく魔王のダンジョンから、這い出てきたモンスターだろう。


「お前たち! 火炎のブレスだ。サンダーライオンを焼き払え!」


「グゥオオオオン!(了解しました。ご主人様)」


 僕は5匹の飛竜に命じて、火のブレスをサンダーライオンの群れに浴びせた。


 飛竜は下位の竜族とはいえ、ドラゴンブレスの威力はすさまじい。

 しかも、僕のテイマースキルで、飛竜たちの能力値は1.5倍近くに引き上げられていた。


ギャァオオオオ!?


 サンダーライオンたちは悲鳴を上げ、大混乱におちいる。

 

「ひっ、ひ、飛竜だと!?」


「樹海の凶悪モンスターだ!」


「対空迎撃、用意! 弓隊、急げ!」


 守備兵たちは、上を下への大騒ぎになった。


「驚かせてしまって、すみません! 僕はシレジアの領主アルト・オースティンです!

 この飛竜たちは、僕がテイムした使い魔なので危険はありません!」


「あっ、ああっ! シレジアの新領主。元王宮テイマーのアルト様ですか!」


「ご領主様、自ら援軍とはありがたい!」


「まさか飛竜ほどのモンスターを従えておられるとは!?」


 僕が叫ぶと、守備兵たちから歓声が上がった。


「いやぁああああ! 落ちる! 死ぬ! 死んじゃうぅううう──っ!?」


 無茶な急加速をしたために、ルディアが絶叫を上げていた。


「……困ったな。いったん下に降りよう」


 ルディアの安全のために、街の城壁の上に飛竜を着地させる。

 僕はルディアを抱いて、壁上に降りた。クズハもそれに続く。


「あ、ああっ、ありがとうアルト! こ、腰が抜けたわっ」


 ルディアを降ろすと、彼女はその場にへたり込んだ。


「飛竜! ルディアとクズハを守ってくれ」


「グォオオン!(了解っ!)」


 飛竜が頭を下げた。ここにいれば、ふたりは大丈夫だろうが念の為だ。


 僕はサンダーライオンたちの相手をするために、城壁から飛び降りた。

 クズハの温泉バフで能力値が2倍になっているおかげで、難なく着地できる。


「マスター! がんばってなの!」


 クズハが手を振って応援してくれた。


「ガァオオオン!(人間、お前が飛竜どもを束ねているのか!?)」


 奴らのボスだと思われるサンダーライオンが、僕めがけて突撃してきた。

 ヤツは、口から電撃を発射してくる。


「バハムートの【神炎】!」


 僕はその雷光を【神炎】のスキルで、迎撃、消滅させた。神炎は対象が、魔法やスキル攻撃であっても焼き尽くす。


「ガォオオオ!(お、おのれ、何をした!?)」


 僕を噛み殺そうと、サンダーライオンが飛びかかってくる。


 僕は全ステータスを2倍にアップするクズハのスキル【薬効の湯けむり】を発動。サンダーライオンの突進を素手で受け止めた。


「な、なんという怪力か!?」


 守備兵たちが、驚きに声を震わせる。


「テイム! サンダーライオンよ。僕に従え!」


 サンダーライオンを地面に転がしながら命じる。

 彼らを殺すのではなく、できればテイムして連れ帰りたかった。街を襲ったとはいえ、殺すのは忍びない。


「がぁおおおん……(ち、力勝負に負けてしまうとは。飛竜が従うわけです。俺も、あなた様に従います)」


 サンダーライオンのボスは、身体を地面に伏せて、服従のポーズを取った。


 ボスの姿を見て、他のサンダーライオンたちも、抵抗をやめて大人しくなる。彼らは全員、僕のテイムを受け入れた。


「よし。また仲間が増えたな!」


 サンダーライオンは、Bランクに分類される強力なモンスターだ。その強化タイプを、20頭近くも使い魔にできてしまった。


―――――――


テイマースキルがレベルアップしました!


【テイマーLv11 ⇒ Lv12(UP!)】


使い魔の全能力値を1.5〜2倍にアップできるようになりました。相手との信頼度によって上昇率が変わります。


―――――――


 システムボイスが、スキルレベルのアップを知らせた。

 どうやら、上級モンスターを一度にたくさんテイムしたため、スキル経験値が大量に獲得できたようだ。


「まさかサンダーライオンを、服従させてしまうなんて!?」


「これが超一流のテイマーですか? お、おみそれしました!」


「シレジアの領主アルト様、バンザイ!」


 勝利に守備兵たちが熱狂する。


「し、してアルト様。本日は、どのようなご要件で、参られたのでありましょうか?

 ごあいさつが遅れて申し訳ありません。この街の守備隊長にございます」


 体格の良い男が、僕の前に進み出て片膝をついた。


「実は、村の温泉を宣伝するためにやってきました。このチラシを門の近くや街中に貼りたり、配ったりしたいのですが、ご許可願えますか?

 町長にお取次ぎいただけると、助かります」


 クズハの作ったチラシを見せる。


「拝見させていただきます。

 ……女神の温泉!? ひ、飛竜による飛行送迎サービス!? エルフの魔法技術で作られた氷菓子ですと!?」


 守備隊長は、その内容に度肝を抜かれていた。

 クズハが壁の上から飛び降りて、告げる。


「くふふふっ! クズハの温泉は、傷の治療と体力の回復にも効果てきめんですのよ!」


「キ、キミは獣人か?」


 守備隊長は面食らって尋ねた。クズハはキツネ耳とモフモフの尻尾を持っている。


「温泉宿の女将、アルト村の『温泉担当大臣』クズハですの!

 隊長さん。守備兵のみなさんは、さぞお疲れでしょうなの。本日はぜひ、クズハの日帰り温泉ツアーに参加して欲しいの!」


「確かに、怪我をされた方が多いようですね。クズハの温泉に浸かれば、傷が全快するので、すぐに職場復帰できますよ」


 僕の提案に、守備兵たちは目を白黒させた。


 ◇


 その後、僕たちは町長の許可をもらい、チラシを街中に張ったり、ターゲットとなる女性に配ったりした。


「恋の病にも効く、美容の温泉よ!」


 今回は良いところ無しだったルディアが、声を張り上げて温泉の宣伝をしてくれた。

 彼女の美貌に、通行人は老若男女問わず足を止める。


「街をモンスターから救ってくれたシレジアの領主様だ!」


「アルト様が来てくれなかったら、危なかったそうだぞ!」


 僕が街を守るために協力したことが知れ渡っていたので、みんな喜んでチラシに興味を持ってくれた。


「この温泉に入ればキレイになれるって、ホントなの!?」


「もちろんですの! ルディアお姉様は温泉に浸かったおかげで、こんなにも美人ですのよ」


 クズハが女性たち相手に、意気揚々と話している。


 さらに街の守備兵たちが、飛竜の送迎による日帰り温泉を満喫したことで。

 クズハ温泉の噂は、近隣一帯に一気に広がって行くのだった。

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