26話。イヌイヌ族から、ソフトクリームの独占販売権を売って欲しいと頼まれる

「アルト様、お久しぶりでございますワン」


 犬型獣人イヌイヌ族の商人が、礼儀正しく腰を折ってあいさつした。

 その背後では、荷馬車に満載されたモンスターフードを雇われ冒険者たちが降ろしている。


「ゴオオオオン!(うまそうなご飯だぁ)」


 テイムした五匹の飛竜たちが、荒い鼻息を吐いて、その様子を見守っていた。


「やややっ! すごいですワン! こちらは気性の荒い飛竜。テイムしてしまったんですか、ワン!?」


「お久しぶりです。飛竜は下位の竜族なんで、なんとかテイムできました」


 もっともバハムートの助力がなければ、無理だっだろうけどな……

 竜族のテイムは最高難易度だ。 


 でも、飛竜をテイムできた恩恵は大きい。


 空を飛ぶことのできる飛竜は、輸送、偵察、攻撃と、あらゆることに役立つモンスターだ。


「やはりボクたちの目に狂いはありませんでしたワン! この村の軍事力はすでに、一国の騎士団にも匹敵していると思いますワン!」


 イヌイヌ族が興奮気味に告げる。


「おい、アレはソロ冒険者の剣豪ガインと、Sランク冒険者の魔剣士エルンストじゃねぇか!?」


「やべぇ、本物だ! な、なんで、王都でツートップの最強冒険者が、そろってこんな辺境にいるんだよ!?」


 雇われ冒険者たちが、僕の警護についたふたりを見て目を丸くしている。

 僕は冒険者の事情に疎かったが、ガインも有名人らしい。


「なんでって、決まってんだろ? 勝ち馬の尻に乗るは当然の処世術だぜ! ガハハハッ!」


 ガインがなにやら、勝ち誇った笑い声を上げた。


「まさか貴様が、アルト様の家臣となっているとはな……」


 そんなガインにエルンストは、うさんくさそうな目を向ける。


「魔剣士エルンスト。言っとくが俺様がアルトの大将の筆頭家臣だからな? ここじゃデカい顔すんなよ?」


「貴様こそ、もしアルト様を裏切るようなことがあれば、命は無いモノと思え。それと貴様なんぞに、あのお方の右腕は務まらぬ」


「言ってくれるじゃねぇか、シスコン野郎! 俺は大将に惚れ込んで、ここにいるんだ。誰が裏切ったりするかよ!」


 ガインとエルンストが、なにやらバチバチ睨み合っている。


 どうも、ふたりはお互いに意識し合うライバルらしい。喧嘩は冒険者にとっては日常生活の一部のようだが、問題を起こされては困るな。


「ガイン。とりあえず、飛竜たちに購入したモンスターフードを与えてくれ。この子たちは、とにかく食べるからな」


「ガッテンでさぁ!」


 ガインが笑顔で応じた。


「エルンスト。キミは今日からアルト村の『シレジア探索大臣』だ。この樹海にはまだ未調査の領域が多い。その探索。

 特に魔王ベルフェゴールのダンジョンのマッピングを頼みたい」


 Sランク冒険者のエルンストにピッタリの仕事だ。彼がクズハの温泉でパワーアップすれば、ソロ探索でも魔王のダンジョンを攻略できるじゃないかと思う。


「心得ました。必ずやアルト様のご期待に応えてみせましょう」


 エルンストはうやうやしく腰を折った。

 うーん、頼もしいな。


 それに探索とダンジョン攻略を仕事にさせておけば、『防衛担当大臣』のガインと顔を合わせることもないだろう。


「ところでイヌイヌ族のみなさん、実は村の名物のお菓子を作ったんで、試食してもらえないですか?

 できれば、これを王都などでも販売してもらえるとありがたいんですが」


「それは楽しみですワン。ぜひ、ご試食させていただきたいですワン」


 イヌイヌ族は全員、尻尾を振っている。

 彼らも甘い物は好きなようだ。


 僕が呼ぶとティオ王女とリーンが、ソフトクリームを持ってやって来た。


「あれ! かわいいエルフの女の子ですワン!?」


「ゴブリンだけでなく、エルフの方々とまで仲良くなってしまったのですかワン!?」


「初めまして。エルフの王女ティオと申します。私、獣人さんと会ったのは初めてです。どうか仲良くしてくださいね」


 ティオ王女が優雅に微笑むと、イヌイヌ族だけでなく、荷物を降ろしていた冒険者たちにまで動揺が走った。


「え、エルフの王女様ですかワン!?」


「失礼ですが、ほ、本物でしょうかワン?」


「我が姫にいささか無礼ですぞ、イヌイヌ族の方々」


 ティオ王女の護衛として付き従ったエルフの戦士が、厳しい目を向ける。


「こ、こ、これは失礼しましたワン!」


「できれば、エルフの方々とも商売をさせていただきたいので。なにとぞご無礼のほど、お許しをですワン!」


 イヌイヌ族は恐縮して頭を下げた。


「無礼だなんて、とんでもありません。

 私はアルト様の元で、エルフ王国を再建するつもりです。みなさんとも、ぜひ仲良くさせていただければと思います」


「ワン!? 何かよくわからないけど、すごいことになっていますです、ワン!」


 ティオの言葉に、イヌイヌ族は目を回している。彼らには後で、事情を良く説明しないとな。


「それはともかくとして。まずは名物の試食をお願いします。溶けてしまいますので」


「そ、そうでしたワン! えっ、これ、溶けるんですかワン?」


 イヌイヌ族には、野外に設置した木のテーブルに座ってもらった。

 彼らはティオから、めちゃくちゃ緊張した様子で、ソフトクリームを受け取った。


「エルフのお姫様からお菓子を頂戴できるなんて、一生の記念になりましたワン」


「それでは、いただきます、ワン……っ!?」


 ペロッとソフトクリームを舐めたイヌイヌ族の顔色が変わる。


「「うーーまあああーいいぃいい、ワァアアアンンンン!!」」


 彼らは全員で雄叫びを上げた。中には、ひっくり返ってしまった者もいる。


 だ、大丈夫か?


「冷たいー! 体験したことのおいしさが、脳髄を直撃してくるワン!」


「素材に使われているのは、ハチミツベアーの蜂蜜に、モウモウバッファローの搾りたて牛乳! しかもアルト様のテイマースキルの効果でしょうかワン!? 素材の美味しさが何倍にもなっているワン!?

 これらが織りなすハーモーニーは、まさに天上の女神も微笑む味だワン!」


「し、しかし、これ溶けてしまうと、王都まで運べないのじゃないのかワン?」


 イヌイヌ族が首をひねって、疑問を口にする。


「大丈夫です。輸送の途中で溶けないように、エルフに伝わる古代魔法【絶対凍結(アイスシェル)】の魔法を使います。

 永遠に溶けることのない氷を生み出す魔法です。それで冷やし続けて、溶けないようにします」


 ティオが説明すると、イヌイヌ族はさらに驚愕した。


「各国が喉から手が出るほど欲しがっているエルフの魔法技術! それをこのお菓子の輸送に使っちゃうんだワン!?」


「アルト様! コ、コレの独占販売権をいただけないでしょうかワン!? 契約金として毎月30万ゴールド払いますワン! とりあえず、最初に手付金として100万ゴールドをお支払いしたいと思いますワン!」


 イヌイヌ族が必死の形相で詰め寄って来た。目が血走っていて、なんか怖い。


「100万ゴールド!? よっしゃああああ! これでまたガチャに課金できるわね!」


 背後でルディアが、喜びの雄叫びを上げた。

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