25話。ソフトクリーム担当大臣リーン

「さすがSランク冒険者の魔法使いさんですね。飲み込みが早いです!」


「えっ、は、はい。こんな感じて、牛乳を冷やしながら、かき混ぜれば良いんですね?」


 エルフのティオ王女が、魔法使いのリーンにエルフ秘蔵の魔法技術『ソフトクリーム作り』を教えていた。


 リーンは木製の容器に入れた牛乳を、氷の魔法で冷やしながら、一生懸命かき混ぜている。


「るるーんっ、楽しみだなぁ……!」


 ルディアがヨダレを垂らしながら、ふたりの少女を見守っていた。

 ルディアは試作品の味見をしたいと、頼んでもいないのに押しかけてきた。豊穣の女神は甘い物に目が無いらしい。


「なあソフトクリームって、そんなに美味しいのか?」


 僕にとっては、初めて知るデザートだった。


「当たり前でしょ! 高度な魔法文明で栄えたエルフが、その技術の粋を集めて生み出した『氷菓子』よ!

 私はソフトクリームが大好きで、2000年前は毎日のようにエルフに献上してもらって、よくお腹を壊していたわ!」


 おい、ダメじゃないか……


「しかも、使う素材はモウモウバッファローの絞りたて牛乳に、ハチミツベアーのハチミツ! はぁ〜〜っ、もう聞くだけで、ほっぺたが落ちそうになってしまうわ!?」


 ルディアはひとりで悶絶している。


 ティオ王女が助けてくれたお礼に、エルフの魔法技術を提供したいと、教えてくれたのがソフトクリーム作りだった。


 甘いお菓子だそうで、この村の名物になる可能性があった。

 

 でも、ソフトクリームを作るには、高度な氷魔法の制御技術が必要だった。

 Sランク冒険者のリーンがやって来てくれたのは、まさに渡りに船だったのだ。


「できました! どうでしょうか?」


「わぁ。いいですね!」


 ティオが、お墨付きを与える。

 リーンが容器に入ったソフトクリームを人数分、テーブルの上に並べた。


 グルグルと渦を巻いた形のソフトクリームの上には、ヒールベリーの果汁がかけられていた。

 香りも良いし、見るからに美味しそうだな。


「待ってました! ああっ、地上に降臨して良かったわ!」


 ルディアがスプーンを片手にかじりつく。


「いくら食べてもお腹を壊さないよう、健康に配慮したヒールベリーの果汁入りです。

 伝説では女神ルディア様は、ソフトクリームの食べ過ぎで体調を崩され、それによって作物が凶作になった年もあったそうです」


 ティオ王女が解説する。

 それには古代のエルフ族も困っただろうな……

 と思ったが口には出さない。


「なるほど。従来のソフトクリームの欠点を改良し、村にやって来た観光客にいくらでも食べてもらえるようにしたんだな」


 なんとも素晴らしいエルフの技術だ。


「アルト様のお口に合えばよろしいのですが……ど、どうぞ」


 ティオに勧められるまま、僕も一口食べてみる。

 その瞬間、今まで感じたこともない甘味に全身が震えた。


「ううんっ、こ、これは……」


「うーーまーーぁぁあいいいいいわよぉおおおおおおおお!!!!!!!」


 隣でルディアが絶叫した。思わず椅子から転げ落ちそうになる。


「このふんわりと柔らかい食感っ! 舌でとろける甘みとハチミツの香り! まるで、花畑で蜜蜂と戯れているようだわ!

 そして……このヒールベリー果汁の酸味がそれらをさらに引き立てる!

 完璧な工夫だわぁあああああ!」


 なにやら大興奮して、ルディアはまくし立てた。その容器は一気に空になっている。


「おかわり!」


「えっ? まだ、食べるの?」


 これ試作品なんですけど……


「女神様に喜んでいただけて光栄です」


「私もこんなに美味しいデザートは食べたことがありません!」


 リーンとティオ王女も満足そうだった。

 気づけばみんな笑顔になっていた。


 僕は最近気づいたんだが……

 みんなで食卓を囲うと、食事が何倍にも美味しくなるんだよな。


 実家にいたころは、家族で食事をするようなことは、まず無かったからな。

 いつもひとりでご飯を食べて、仕事に出かけていた。そして、夜遅くに帰ってくるのサイクルの繰り返しだった。


 実家を追放されてからは、食事の時は、ルディアがいつも隣で大騒ぎしてくれるおかげで、寂しさを感じたことがない。


「うん、うまいな。これ、うまいな……っ」


 思えばこのソフトクリームは、テイムしたハチミツベアーとモウモウバファロー。偶然助けることになったティオとリーン。ルディアが成長させたヒールベリーの実。

 ここで出会った仲間たち、みんなの力が合わさって生まれたデザートだ。


 なんというか感動もひとしおで、つい同じ言葉を繰り返してしまう。


「これならアルト村の名物として、申し分ないな。リーン、よろしく頼むよ」


「はい! アルト様のお役に立てるよう、がんばります」


 リーンはなぜか、ぽっと顔をリンゴのように赤くした。


「おーい! 大将! イヌイヌ族の商人どもが、注文したモンスターフードを大量に積んでやって来ましたぜ!」 


 ガインが来客を告げた。


「あっ、そうだ。このソフトクリームもイヌイヌ族に売り込んでみるか」


「それはグッドアイデアだわ。きっと高く売れるわよ!」


 この時、僕は予想もしていなかったが。


 やがでイヌイヌ族を通して、このソフトクリームが話題となり、アルト村には若い女性が殺到してくることとなる。

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