21話。死者を神の力で復活させる

「いや、エルフを殲滅とかしちゃダメだから。殺さずに無力化できないか巨神兵!?」


「ガガガガ! 殺すなど生温い。マスターに刃を向けた者は、一生奴隷として飼い殺すということですね。

 了解しました! 本機はジェノサイダーモードから、ノンリーサルモードに移行します」


 巨神兵は不穏な言葉を放つ。

 な、何を言っているんだ……


 本当に僕の意思を理解しているのか、不安だった。


「領主アルト! その首もらった!」


 エルフたちが暗がりから、僕に向かって一斉に雷の魔法を放ってきた。


「ガガガガ! 【魔法無効化フィールド】を展開!」


 巨神兵を中心に、半透明のドーム状の結界が広がる。エルフたちの魔法は、結界に触れると嘘のように消え去った。


「なにっ! な、なんだコイツは!?」


「警告! 警告! 本機はAランク以下の魔法を無効化する機能を備えています。

 また、本機の装甲は神鉄(アダマンタイト)製であり、物理的破壊も困難となります。

 降伏を勧告! 降伏を勧告! 

 10秒以内に降伏の意思が見られない場合は、武力行使にうつります。

 カウントダウン開始。10、9、8……」


 巨神兵は一方的に宣言して、数字を数え始めた。

 エルフたちは、意味がわからずポカーンとしている。僕もポカーンだ。


「お、おい。絶対に殺すなよ?」


「了解です! 本機のノンリーサルウェポンは死ぬほどの苦痛を与えますが、対象は決して死ねません! 人道的、平和的な兵器となります!

 5、4……」


「クソッ! あの訳のわからん鉄の巨人を弓矢で撃ち抜け!」


「はっ!」


 魔法攻撃が効かないと悟ったエルフたちは、巨神兵に矢を撃ち込む。

 だが、その金属のボディに弾き返され、傷ひとつ付かなかった。


「音速を超える我らの強弓を受けて、平然としているだと!?」


「ど、どうなっているだ!?」


「2、1、0……

 鎮圧執行!【スタンボルト】発射!」


 恐怖におののくエルフたちに向かって、巨神兵から紫電がほとばしった。

 悲鳴が連続して、エルフたちは白眼を剥いて倒れる。


「死ぬほどの苦痛を味わって下さい。死ぬのほど苦痛を味わって下さい! 

 でも決して死なないでください。ガガガガピー」


 巨神兵はさらなる犠牲者を求めて移動し、エルフたちに次々に電撃を浴びせた。

 エルフたちは、バタバタと倒れていく。


「すごい! 圧倒的な力ね。さすがは巨神兵!」


「いや、なんかアイツ……怖くないか?」


 ルディアが巨神兵の活躍に声援を送るが、僕は素直に喜べなかった。

 倒れたエルフに近寄ってみると、胸が上下しており息があった。


「まあ、命に別状はないようだし……よしとするか」


「あれで殺してねぇんですかい? 大将の今度の召喚獣も、またべらぼうなヤツですね」


 ガインも呆気に取られていた。


「アルト様! ありがとうございます! エルフたちを殺さないという、お約束を守っていただけたのですね!」


 ティオ王女が感極まった様子で、走ってきた。

 彼女は戦闘が終わるまで、屋敷の地下倉庫に隠れてもらう手筈だったが、出てきてしまったらしい。


「ティオ。まだ出てきちゃダメじゃないか!?」


「でもアルト様たちや、エルフのみんなが心配で……っ!」


 ティオは顔を曇らせる。

 彼女にとってみれば、気が気ではなかったのだろう。


「ああっ!? 家が焼けて……! ごめんなさい! 人に被害など出ていませんか?」 


「死人が出たという話は、無さそうだから……」


 取り乱すティオを安心させてやろうとした時だった。


「ご領主様、大変です! お父さんが弓矢で撃たれて……息をしていないの!」


「そんなっ!? す、すぐにその人の元に案内してください。私が回復魔法で治します!」


 やって来た村娘に、ティオが顔面蒼白となって申し出る。

 僕もこれには驚愕だ。


「ティオ、頼む!」


「こっち! こっちです!」


 村娘の後に続くと、嘆き悲しむ人だかりの中で、男が血を流して倒れていた。


「お父さん!?」


「駄目だ! コイツはもう逝っちまった!」


 その言葉を聞いて、ティオの足が止まる。


「おい、その小娘はエルフじゃねえか!?」


「俺たちの仲間を、こんな目に合わせやがって! 許せねぇ!」


 村人たちは武器を手に、ティオに詰め寄った。


「おい、落ち着け!」


「アルト様! そこをどいてください!」


 僕は村人たちをなだめようとしたが、彼らの怒りは収まりそうもなかった。


「アルト、大丈夫よ! 死人は、私のスキル【世界樹の雫】で復活できるから! みんなも、どうどう」


 ルディアが、ティオを背後に庇って叫んだ。


「「えっ、死者の復活……?」」


 僕とティオがハモる。村人たちも毒気を抜かれたように動きを止めた。

 そう言えば、そんな効果があったような……


 僕はステータスのスキル詳細を確認する。


―――――――


【世界樹の雫】

 豊穣の女神ルディアからの継承スキル。

 HPとMPを全快にし、あらゆる状態異常を癒やす『世界樹の雫』を生み出せる。死後24時間以内であれば、死者の復活も可能。

 クールタイム72時間。


―――――――


 間違い無く死者の復活が可能と書いてあった。ステータス画面は、決して嘘をつかない。

 これは試してみる価値があるな。


「みんなどいてくれ」


 僕は村人たちをかき分け、息絶えた男の前に立つ。


「【世界樹の雫】!」


 スキルを発動すると、僕の指先より雫が滴り落ちて、男の顔で弾けた。


「う、うん? あれっ……俺、寝ていた?」


 すると男が目を開き、ボンヤリした様子で周りを見回した。


「き、奇跡だぁあ──っ!」


「お父さんっ!」


「ご領主様、これは一体!?」


 村人たちは大騒ぎとなる。

 ティオも泡を食っていた。


「アルト様! こ、これはもしや……伝説に伝わる女神ルディア様のお力【世界樹の雫】では!?」


「ふふんっ! これが私のスキルの真価よ。伊達にSSRの最高神の称号は得てないわ。どう、見直したでしょう?」


 ルディアが誇らしげに胸をそらした。


「そうだな……驚いた」


 死者復活。

 こんなことができるのは、神しかいない。

 ルディアは間違いなく、人知を超えた存在だ。


「女神様を僭称する罰当たりが!」


 その時、暗がりから矢が風を切って飛んできた。

 ティオではなく、ルディアを狙ったものだ。


「危ないっ!」


 僕はそれを剣で叩き落とす。

 矢が飛んで来た方向を見れば、エルフの少女が次の矢を放とうとしていた。


「【スタンボルト】!」


 僕はとっさに、巨神兵から継承したスキルを発動する。


「ぎゃっ!?」


 ほとばしった紫電が、少女を一撃で気絶させた。


「あっ、ありがとうアルト! 

 うわっ、恐かった。こんな小さな娘まで動員していたのね」


 ルディアが僕にすがりつく。


「鎮圧完了! 鎮圧完了! 本機は任務達成につき帰還します!」


 村の真ん中で、巨神兵が勝利を叫んだ。

 巨神兵が光の粒子となって崩れだす。


 その光は僕の右手に集まり、平べったい形に……召喚カードになった。

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