20話。無課金ガチャで巨神兵を召喚する

 外に出ると、物見櫓と丸太塀が燃え盛っていた。

 エルフたちの放ったファイヤーボールの魔法が、あちこちで着弾して火を撒き散らしている。


「女神ルディア様は、決して魔王ベルフェゴールを復活させてはならぬと、我らエルフに封印の番を任された!」


「これは女神ルディア様の御心にかなう聖戦である! なんとしてもティオ王女殿下のお命を頂戴するのだ!」


「おうっ!」


 エルフたちが、鬨の声をあげている。

 夜闇のせいで、何人いるかはハッキリとはわからないが30人近くはいるようだった。


 女神ルディアへの圧倒的な信仰心に支えられた集団……って、なにか複雑な気分だな。


 あの、みなさんが信仰しているルディアというのは……あの、もしかして。


「はぁ!? 女神ルディア様の御心にかなうって……もしかして、この惨状ってば私のせい?」


 ルディアが顔を強張らせた。


「……ルディア、危ないから下がっていろ!」


 相手は狂信的な集団のようだ。こういう連中は、そのクリティカルな部分を刺激すると怖い。


「そうはいかないわ。こらっ、エルフたち! 私は豊穣を司る女神ルディアよ!

 ここは私とアルトの愛の巣なんだから、今すぐ攻撃を中止しなさい!」


 なんとルディアが仁王立ちになって命令した。


「あっ、ちょっとそんなことを言ったら……!」


「女神様を騙るとは!? な、なんと不敬な愚か者か! 皆の者、あの小娘を血祭りに上げろ!」


「きゃぁあああっ!? え! なんなの!? 私、女神なのよ。エライのよ!?」


 案の定、エルフたちは激怒して、ルディアに矢の雨を降らせる。

 僕はそれを神炎で迎撃、すべて消し炭に変えた。


「ルディア、いいから黙って、後ろに下がっていてくれ!」


「……バカなっ!? 気をつけろ! 敵にとんでもない火の使い手がいるぞ!」


「矢ではなく、ファイヤーボールで攻撃せよ! 罪深き人間どもの村を焼き尽くすのだ!」


「炎によってティオ姫様を浄化するのだ!」


 エルフたちは闇に紛れながら、さらに火を放ってくる。


「ちょっと待ってくれ! 僕はここの領主のアルト・オースティンだ! 話を……」


「問答無用! ゴブリンと共存し姫様を奪うとは、貴様は魔王の手先だな!?」


「女神を名乗る頭のおかしい娘を連れおって!」


 ヤバい、完全に逆上している。


「こちらに交戦の意思は無い! 鉾を収めてくれ!」


 大声で停戦を訴えるも返事はない。

 エルフたちは、アルト村を火の海にするつもりのようだった。


 しまった。いきなり交渉失敗だ。


「ご領主様! このままじゃ村が!?」

 

「ギャー! 熱いゴブ!」


 村人たちが悲鳴を上げ、背中に火がついたゴブリンたちが逃げまどっている。

 これはマズイ……


「クズハいるか!? 温泉を噴き出して消火だ!」


「はいですのマスター! 温泉出力最大ですの!」


 クズハが飛び出して来て、手を天にかざした。

 すると温泉が勢い良く噴き上がって、村にシャワーのようにお湯が降り注いだ。

 村に広がった火の手が、あっという間に勢いを失っていく。


「うぁっちちち、ゴブ!」


「ご主人様、もっと優しく助けて欲しいゴブ!」


 ゴブリンを焼く炎も鎮火できたが、彼らは別の意味で熱がっていた。ゴブリンは風呂に入る習慣が無いので、お湯が苦手なのだ。


「熱いお湯ほど身体に効くですのよ! 源泉掛け流し!」


「熱いけど、身体から力が湧き出してくるゴブ!」


 ゴブリンたちが雄叫びを上げる。

 全ステータスを2倍にするクズハの温泉バフをその身に受けたのだ。


「【薬効の湯けむり】!」


 僕はさらにスキル【薬効の湯けむり】を重ねがけして、村人みんなのステータスを合計4倍にまで引き上げる。


「おおっ! さすがはアルト様だ! これなら負ける気がしないぜ!」


 武器を手にした村人たちが、喝采を上げた。


「みんな! エルフたちは殺さずに捕縛してくれ!」


 ティオ王女との約束もあるが、後々のことを考えると、エルフとダークエルフ、両方を敵に回すのはマズイ。


 エルフを殺せば、もともと人間を嫌っている彼らは、完全に僕たちの敵になるだろう。


「はぁ!? いや、ちょっと無茶ですよ。大将!」


 剣豪ガインが僕に駆け寄ってきた。


「エルフどもは全員、弓と魔法の達人でさぁ! クソッ! 遠くからバンバン撃ちやがって。こいつらに手心なんて加えたら、俺たちが死にますぜ!」


「確かにそうだが……」


 バハムートを召喚して、エルフたちの武装を神炎のブレスで消滅させるという手もあるが……

 エルフは魔法が得意なため、それでは無力化できない。


 強い使命感に突き動かされたエルフたちは、バハムートを見て戦意喪失したりもしないだろう。


「アルト村の『防衛担当大臣』として、俺は奴らを皆殺しにすることを提案しますぜ! コイツら、はなっから人の話なんざ聞く気はねぇですよ!

 大将を敵に回したらどうなるか、俺が教えてやらぁ!」


「アルト! 【神様ガチャ】よ! ログインボーナスの【神聖石】が5つ貯まっているでしょう? ガチャで新たな神獣を召喚するの!」


 ルディアがエルフのファイヤーボールを間一髪、よけながら叫ぶ。

 ルディアや村の仲間を失うわけにいかない。僕はガチャに賭けることにした。


 敵を捕縛するような能力を持った神獣が出てきてくれれば……!


「神聖石、投入! ガチャ、オープン!」


 【神様ガチャ】を発動させると、閃光のような光が弾けた。


『レアリティR。巨神兵をゲットしました!』


「ガガガガガ! 神々の最終兵器、巨神兵。ジェノサイドモードで起動しました! マスター、アルト様に逆らう愚か者を殲滅、殲滅します!」


 僕の目の前に、およそ生物とは思えない物体が出現した。全身が黒光りする金属で覆われた見上げるような巨人だ。

 その巨人の両目が、ギン! と強い光を放つ。


「ご命令をマスター。奴らを殲滅せよと、ご命令を。ひとり残らず、この地上から消滅させてご覧に入れます。ガガガガガガピー!」


 巨神兵は、なにか非常にヤバいことを口走った。


『巨神兵を使い魔にしたことにより、巨神兵の能力の一部をスキルとして継承します。

 スキル【スタンボルト】を獲得しました。

 【スタンボルト】は、広範囲の敵を電気ショクで麻痺、気絶状態にさせるデバフ系スキルです』


―――――――


名 前:アルト・オースティン


○ユニークスキル

【神様ガチャ】


【世界樹の雫】継承元。豊穣の女神ルディア。


【神炎】継承元。神竜バハムート。


【薬効の湯けむり】継承元。温泉の女神クズハ。


【スタンボルト】継承元。巨神兵(NEW!)



○コモンスキル

【テイマーLv11】

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