18話。エルフの王女、開拓村の豊かさに驚く

「あれ? あ、あそこにいるのは人間ではないですよね? まさか……ゴブリンですか!?」


 アルト村にやってきたエルフのティオ王女は、物見櫓に立つゴブリンを見て、すっとんきょうな声を上げた。


「驚いたかお姫様よ。アルトの大将は魔族ですら支配下に入れちまう最強のテイマーなんだぜ!」


「自慢じゃないけど。こんなことができるのは世界広しと言えど、アルトくらいなものよ」


 ルディアとガインがドヤ顔で解説する。

 おい、恥ずかしいから、やめてくれ。


「ゴ、ゴブリンが人間と共存しているなんて信じられません。

 エルフの伝承では、魔族は魔王にしか従わないハズなんですが。アルト様は一体……?」


「僕も未だに信じられないんですけど……バハムートを見て、彼らは恐れをなしたみたいなんです」


「バハムート?」


「アルトの召喚獣よ。神話の時代から生きる最強最古のドラゴンなの。さっき見たでしょ?」


「ええッ!? まさか魔王の軍勢と戦ったとされる神竜バハムートですか!?

 そ、そんなモノを従えるなど、神にしかなし得ないことではありませんか?」


 ティオ王女は口をあんぐり開けている。


「まっ、耳を疑うような話かも知れねぇがよ。お姫様もさっき目にして鳥肌が立っただろ?」


「は、はぁ……確かに、すさまじい力を感じましたが……」


 ティオ王女は目を白黒させた。

 半信半疑といった感じだ。


「やぁー! マスター、すごいの! モウモウバッファローをテイムしてくれたの!」


 キツネの耳の少女クズハが、ダッシュしてきて僕に抱き着く。

 クズハは僕が引き連れたモウモウを見て、満面の笑みを浮かべた。


「これで湯上がりの牛乳一気飲みができますの! クズハの温泉がついに究極の完成形に!」


「クズハ、良い子にしていたみたいだな」


 クズハも僕の召喚獣だ。彼女を実体化させ続けるには毎分MPを消費する。

 だが、クズハは温泉に浸かることで、僕からのMP供給に依存せずに、実体化し続ける特殊能力を持っていた。


 クズハはアルト村で、温泉宿の建設と経営計画を担っている。

 僕の権限でクズハは『温泉担当大臣』に任命していた。


 ちなみにルディアが『農業担当大臣』。

 ガインが『防衛担当大臣』。

 シロが『警備担当大臣』。

 ハチミツベアーのベアーが『ハチミツ採取担当大臣』だ。


「はいなの! ゴブリンたちのおかげで、温泉宿がもうすぐ完成しそうなの! お客さんをガンガン呼んで、おもてなししますのよ!」


「うん、えらいぞ。クズハ!」


 僕はクズハの頭を撫でる。


 温泉はモンスターたちと、のんびり楽しく暮らすための重要施設だ。


 この土地を開拓するためには、お金を稼ぐ必要もあるし。クズハの温泉宿経営には期待している。

 これからが楽しみだな。


「マスターになでなでされると、とっても気持ち良いの。もっともっとして欲しいの!」


 クズハは嬉しそうに目を細めた。

 甘えてくるクズハはかわいい。

 まるで妹ができたような気分だ。


「こらッ! クズハ、いつまで私のアルトにくっついてんのよ!」


「やぁー! ルディアお姉様、マスターを独り占めなんて横暴なの!」


「横暴じゃないわ! アルトは私のモノで、私はアルトのモノなのよ!」


 ルディアがクズハを僕から引き剥がそうとして、押し合いへし合いする。


「げ、元気が有り余っているみたいだな」


「ルディア嬢ちゃんは、ホント元気なのが取り柄っすね」

 

 ダークエルフとの戦闘で、僕はヘトヘトになっていたが、ルディアはへっちゃらのようだった。


「はあっ……あのキツネ耳の女の子は、獣人ですか? ゴブリンにホワイトウルフに獣人に人間……これほど雑多な種族が一緒に暮らしている村があるなんて、驚きました」


 ティオ王女が呆気に取られていた。


「まるで伝説にある光の魔王ルシファーが建設しようとした理想郷のようですね」


 光の魔王ルシファーか。

 確か七大魔王の筆頭で、この世界のすべてを支配しようとした存在だったな。

 てっ、確か……


 僕は昔、母から聞かされたおとぎ話を、ふいに思い出した。


「……どうされましたか?」


 一瞬、考えごとに耽ってしまい、ティオ王女から心配そうな顔をされた。 


 確か魔王ルシファーは、天界に攻め入って、そこで女神ルディアと恋に落ちたとかいう伝説があったような……


 『魔族は魔王にしか従わない』


 というティオ王女の言葉が、脳裏に引っかかった。


「私は2000年前から、ずっとアルトのモノなのよ!」


 ルディアがアホな絶叫をしている。


 ちょっと後で、魔王と女神ルディアにまつわる神話について調べてみるか。

 この村にも童話の本くらい、あるハズだ。


「ええっと。キツネ耳のクズハは、獣人じゃなくて温泉の女神なんです。実際に温泉を出現させていましたし……」


「お、温泉の女神ですか?」


「僕は【神様ガチャ】というスキルを持っていまして。これは神様や神獣を召喚して使い魔にできるスキルみたいなんです。

 僕もまだ半信半疑なんですが……ルディアは豊穣の女神だと名乗っています」


「豊穣の女神!? えっ、ま、まさか、あの方が女神ルディア様だというのですか?

 ルディア様と言えば、私たちエルフが信仰する自然を司る最高神ではありませんかっ!?

 い、いえ……助けていただいたことには感謝いたしますが。さすがにそれは……不敬っ」


 ティオ王女は、クズハと取っ組み合いをしているルディアをあ然と見つめた。

 必死の形相をしているルディアに、最高神の貫禄はない。

 とはいえ……


「これはルディアのおかげで大きく実ったトマトなんですが。ティオ王女、一口いかがですか?」


 僕は畑からトマトをもいで、ティオ王女に渡した。


「ルディアさんのおかげで、大きく実った?」


「ルディアが手をかざしたら、トマトが一気に成長したんです。

 あそこの季節外れのヒールベリーも、ルディアが実らせました。ルディアは植物を操る力を持っているみたいなんです」


 まさに神がかった力だ。

 豊穣の女神というのも嘘だとは思えない。


 しばらく一緒に暮らして、ルディアが嘘をつくような少女でないことも、わかってきていた。


 それに【神様ガチャ】の力も本物だ。


「と、とにかく。いただきます……んっんん!?」


 トマトを口にしたティオ王女は、驚愕に目を見開いた。


「お、美味しぃぃい!? まさに完璧な味です! こ、こんなジューシーなトマトはエルフの国でも食べたことがありません!」


「これで作るトマトパスタが最高なんです」


「な、なんとっ……!」


 ティオ王女は衝撃に身体を震わせた。


「はしたないかも知れませんが。想像しただけでヨダレが出てきてしまいそうです。あっ、こ、これは失礼……っ」


 エルフの王女は正直者のようだ。


「温泉もあるし、メシは美味いし。最高の村だぜ、ここは! お姫様よ。ここにいたらエルフの国に帰りたくなくなっちまうんじゃねえか?」


 ガインが笑顔を見せる。


「おおっ! 我らが領主アルト様がご帰還されたぞ!」


「お帰りなさいませ、アルト様! ご無事でなによりです」


「がおん!(ご主人様、お帰りなさい)」


 村人たちと、ハチミツベアーが諸手を挙げて出迎えてくれた。

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