15話。エルフの王女を救う

「くっ! あと一歩で、ティオ王女を討ち取れたというのに……! 貴様は我ら両種族の2000年以上にも及ぶ抗争に首を突っ込むつもりか!?」


 ダークエルフの男が、僕を憎々しげに睨む。


「まさか、この娘はエルフの王女様なのか?」


 このシレジアの樹海にはエルフの国があると聞いていた。だが、エルフは人間を嫌って国交はまったく無かった。


「そうだ! その娘を庇い立てするということは、我らダークエルフすべてを敵に回すということだ。辺境の小領主ごときが、その覚悟を持って挑んでおるのだろうなう!?」


「ど、どなたかは存じませんがっ……助かりました」


 少女は傷の痛みに顔をしかめながらも、僕に礼を述べた。


「族長! ようやく追い付きました!」


「ティオ王女めは仕留めましたか!?」


 茂みからダークエルフの集団が飛び出してきた。

 ヤバい。50人近くはいるぞ……


「フハハハッ! 形勢逆転だなアルト・オースティン!」


 族長と呼ばれた男が高笑いする。


「ルディア! その娘を【世界樹の雫】で癒してくれ。シロ、モウモウ! ルディアとお姫様を守るんだ!」


「よし来たわ! そんなエラそうなヤツ、ぶっ飛ばしちゃって!」


 ルディアが、エルフの王女の元に降り立つ。シロと立ち上がったモウモウが、ふたりの少女の前で壁となった。


「バカが!? これで貴様はダークエルフ総勢3万、すべての敵となったのだぞ!」


 勝利を確信した族長が嘲笑う。


「それに貴様ひとりで、この場をどう切り抜けるというのだ!」


「残念だけど、こちらも助っ人が来てくれたみたいだ」


 ダークエルフの集団から、悲鳴が上がった。


「シャァアアアッ!」


 大剣を振りかざしたガインが、暴風のように敵を薙ぎ倒している。


「俺はアルトの大将に仕える剣豪ガイン様だ! 覚えておけ黒エルフども!」


「こ、こやつ、あの悪名高きAランク冒険者ガインか!?」


「噂以上の強さだぞ! に、人間かコイツ!?」


 ダークエルフたちは、大混乱に陥った。

 

「スキル【薬効の湯けむり】!」


 僕は温泉の女神クズハから継承したスキルを発動させる。

 もくもくと湯気が周囲に立ち昇った。


「なんだ!? 目くらましの煙幕か?」


 ぜんぜん違う。

 これは味方の全ステータスは2倍にアップする湯けむりを発生させるバフ系スキルだ。


―――――――


名 前:アルト・オースティン


レベル:25


体 力: 360 ⇒ 1440(UP!)


筋 力: 410 ⇒ 1640(UP!)


防御力: 320 ⇒ 1280(UP!)


魔 防: 150 ⇒ 600(UP!)


魔 力: 60  ⇒ 240(UP!)


敏 捷: 240 ⇒ 960(UP!)


M P: 120 ⇒ 480(UP!)


全ステータスが4倍になりました!

―――――――


 クズハの温泉効果との重ねがけで、能力値が4倍に跳ね上がった。

 僕が味方と認識しているガインやシロ、ルディアたちにも、この効果は波及している。


「そんなモノで、この俺の魔法を防げると思うなよ!」


「させるかぁ──っ!」


 族長がエルフの王女に向かって、攻撃魔法を放とうとする。

 僕は突っ込んで行って、族長を殴り飛ばした。


ドゴォオオオオッ!


「ほげぇっ!?」


 族長は空高く飛んで行って消えた。


 あれ? これは予想以上に強くなってしまったような……


「族長が一撃で、やられただと!?」


「なんだ、この男。テイマーかと思ったが、怪力自慢の武道家か何かか!?」


 ダークエルフたちが、うろたえる。


「がはッ!」


 ルディアたちに襲いかかっていった者もいたが、シロに返り討ちにされていた。


「グゥルルル!(僕がルディアを守る)」


「モウモウ!(シロ先輩、カッコいい)」


 シロとモウモウは、敵をまったく寄せ付けていなかった。


「つ、使い魔どもも異常な強さだぞ!?」


 僕のテイマースキルで、シロたちは能力値が1.5倍になっている上に、クズハのバフもかかっているからね。


「ティオ王女だ。とにかくティオ王女を殺して死体を持ち帰れれば良い!【魔法の矢】(マジックアロー)一斉発射!」


 残りのダークエルフたちが、尾を引く光の矢を放つ。


「バハムートの【神炎】!」


 僕はそれを黄金の炎で、残らず撃ち落とした。


「な、なんだっ、今のは!?」


「この圧倒的な力……まるで古竜のブレス!?」


 ここはダメ押しだ。


「【バハムート】よ、来い!」


 バハムートのカードを掴んで叫ぶ。まばゆい光が弾け、神竜が出現した。


「ダークエルフどもか。我が主に逆らうとは愚かなり!」


「このドラゴンは、ま、まさか……!?」


「引けっ! 引け! 退却しろ!」


 バハムートの一喝に、ダークエルフたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 よし。バハムートを見せておけば、おいそれと僕たちに手出しはしてこないだろ。


「けっ。逃げ出して行くぜ、ヘナチョコ野郎ども! アルトの大将にかなうと思ったか!」


 ガインが、彼らの背中に罵声を浴びせる。


「どなたかは存じませんが、ありがとうございました!」


 ルディアの癒しの力で、すっかり元気になったエルフの王女が、僕に頭を下げた。


「私はエルフの王女。ティオと申します。あの……あなた様は? に、人間ですよね?」


「はい、僕はアルト・オースティン。このシレジアの領主です。ご無事でなによりですティオ王女殿下」


「アルト・オースティン様……っ」


 ティオ王女は、熱に浮かされたように顔を赤らめる。

 するとルディアがムッとした様子で、ティオに絡んだ。


「ちょっと、あなた。アルトは私の旦那様なのよ。横取りしようとか、しないで頂戴ね?」


「えっ? ……いきなり何を?」


「あーっもう。いつ結婚したんだよ! ティオ王女、災難でしたね。お話をお聞きしたいので、僕の開拓村にお越しいただけないでしょうか? 食事などもご用意いたします」


「これは、何から何まで……ご厚意、感謝いたします」


 ティオ王女を気品のある所作で、頭を下げた。

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