14話。ダークエルフよりエルフの美少女を助ける

 次の日──


 僕たちは牛型モンスター、モウモウバッファローを見つけるべく樹海の探索に出た。


「最近、俺はシレジアの樹海に入り浸ってやしてね。俺にとっちゃ、ここは庭みてぇなもんですよ」


 ガイド役を買って出たガインが、先頭を歩く。


「もう少しで、モウモウバッファローの棲み家に着きます」


 ガインは襲いくるモンスターを片手で殴り飛ばして進んだ。この超人的な強さはクズハの温泉パワーで、彼のステータスが2倍になったおかげだ。


 ガインが露払いをしてくれるので、僕たちは安全に進めた。


「まったく、ガインは頼もしいな」


「わんっ(最初はイヤな奴だったけどね)」


 僕はルディアと一緒に、ホワイトウルフのシロの背中に乗って、ガインの後に続く。


「はい、アルト。あ〜ん! ベアーが集めてくれた蜂蜜入りクッキーよ」


 僕に抱き着いたルディアが、クッキーを食べさせてくれる。


「うんっ! 美味い!」


「ホント!? よかった。私が焼いたのよ! たくさんあるから、どんどん食べてね! このハチミツ入りジュースも美味しいんだから」


 気を良くしたルディアは、ジュースが入った水筒も取り出して渡してくれた。

 日差しも暖かいし、ピクニックでもしているような気分になってしまうが……


 モンスターだらけの樹海で油断するのはマズイと、慌てて気を引き締める。


「アルトの大将は、妬けるくらいルディア嬢ちゃんと仲が良いっすね」


「わん、わん!(ボクもクッキーが欲しいよ)」


「シロもお腹が空いたか? それじゃあガイン、そろそろ休憩に……」


「きゃああああっ!」


 その時、甲高い女の子の悲鳴が響いた。


「シロ!」


「わぉん(任せて)!」


 シロが僕の意思を汲んで、声の方向に駆け出す。


 ここは僕の領地だ。

 ここでモンスターや賊に襲われている人がいるなら、放っておけない。


 救援に向かった先には、尻もちをついた女の子がいた。

 

 銀髪のツインテールを赤いリボンで結わえた14歳のくらいの美少女。尖った耳が特徴のエルフだ。

 彼女は傷だらけだった。


「死ぬぇえええっ!」


 そんな少女に、黒い猛牛モウモウバッファローに乗った男が、槍を突き込もうとしていた。


「やめろっ!」


 間一髪。僕は【神炎】を放って、男の槍を蒸発させる。

 男はダークエルフだった。浅黒い肌が特徴のダークエルフは、エルフと敵対する魔族だ。


「なにぃ……!? 何者だ!?」


「ここの領主だ!」


 シロと一緒に突撃する。


「モウ!?」


 シロが体当たりすると、モウモウバッファローの巨体が吹っ飛んだ。


「がぁあああ──ッ!? な、なんだ、この信じられんパワーは!?」


 大木に騎獣ごと叩きつけられて、男が驚愕の声を上げる。


「私の妹クズハの力よ!」

 

 ルディアが大威張りで胸を張った。

 僕たちの能力は、クズハの温泉効果で2倍になっていた。


「エルフの女の子にヒドイことするなんて……女神として許せないわ! 降参するなら今のうちよ!」


 ルディアはダークエルフに指を突きつける。


「モウモウ(このホワイトウルフ、ヤバいモウ……)」


 モウモウバッファローは完全にシロにビビっていた。涙目になっている。


「おい、どうした? なぜ動かんのだモウモウ!?」


「モウモウバッファローよ、僕に従え!」


 戦意を失った相手に対して、僕はすかさずテイムを試みる。


「モウ!(あ、あなた様こそ、あちきのご主人様だモウ)」


 モウモウバッファローは僕に頭を下げた。その場に伏せて動かなくなる。


「ま、まさか……! この俺が、モウモウの支配権を奪われただと?」


「どうやら、普段から愛情を持って接していなかったようだな! 信頼関係が高ければ、こうはならないぞ」


「ふざけるな! 我らダークエルフは生まれつきのテイマーだ! 人間ごときが、テイマースキルLv9の俺より優れている訳が……」


 僕を見たダークエルフの顔が青ざめる。


「その顔立ち。まさかオースティン家の者か!?」


「僕はアルト・オースティンだ」


「お、おのれ! テイマーの名門一族が、なぜこんな場所に……!」


 ダークエルフは歯ぎしりする。


「去れ! そうすれば命までは取らない」


 僕は剣を抜いて、ダークエルフに突きつけた。

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