13話。みんなで温泉につかる

3日後──


 かっぽーん!


 流れる湯を貯めた竹の筒が、岩にぶつかって風流な音を立てた。


「ふぃ~~。生き返るなぁ」


 ボクは完成した露天風呂に浸かっていた。


 空には月と星々がきらめき、絶景だ。

 湯船の中で、ゆっくり手足を伸ばす。


「がぁおお……(極楽、極楽だお〜)」


「わん……っ(気持ちいい)」


 ハチミツベアーのベアと、ホワイトウルフのシロも温泉を堪能している。

 彼らは首まで、湯に身体を沈めていた。

 僕と使い魔たちだけの至福の時間だ。


「そうなの! そうなの! 温泉は最高なの!」


 バン! と脱衣場の扉が開き、温泉の女神クズハが飛び込んできた。


「うわぁっ!? って、あれ……?」


 僕は慌てて目を背けたが……

 湯気の向こうから現れたクズハは、ワンピースの水着を身に着けていた。


「古代世界では、温泉は混浴が当たり前! 温泉は男女の社交の場でしたの! でも今は裸のお付き合いは、いろいろと文化的にNGらしいので……

 クズハは水着を着てきましたの! あれ? マスター、鼻血が出てるの?」


「うんっ。ちょっとのぼせた……」


「いけませんの! のぼせは死亡事故にも繋がりますの! これは温泉の女神として見過ごせませんの。湯船を出て、横になってくださいの!」


 クズハは僕の手を掴んで、湯船から引っ張り上げようとする。


「えっ? ちょっと!」


 僕は腰にタオルを巻いただけの状態なので、恥ずかしくて抵抗しようとした。

 その拍子に、僕は体勢を崩してクズハと一緒に転んでしまう。


「きゃうっ!」


「あっ、ごめんっ!」


「アルト! 一緒にお風呂に入りましょ……って、ぬぁにやってんのよぉおお──ッ!」


 やってきたルディアが鬼の形相になった。

 彼女もビキニ水着姿で、実にかわいくて、可憐だ……って、そんな場合ではない。


「ご、誤解だ! 今のは足を滑らしてしまっただけで……」


 僕は慌てて飛び起きて弁解した。


「マスターの情熱的なアプローチに、ドキドキしてしまいましたの……!」


 クズハは、ぽっと顔を赤らめている。


「えっ? 何を言ってんだクズハ?」


「わ、わっ、私という者がありながら、この浮気者!」


 ルディアは手を振り上げるが、石鹸を踏んづけて、すっ転びそうになった。


「きゃあ!?」


「って、危ない!」


 僕は慌てて彼女を抱きとめる。


「あっ、ありがとう……っ」

 

 ルディアはそのまま、僕にギュッとしがみついてきた。


「浴場の床は滑りやすいんで、気をつけて下さいですの!」


「う、うん。そうよね……」


「ごめん! ホントにクズハに対しては、不可抗力で……!」


「わかったわよ。浮気じゃないなら、許してあげるわ」

 

「いや。浮気というか……」


 ルディアと僕は、そもそもどういう関係なんだ?

 ルディアが僕の使い魔なら、浮気というのは変な気が……


「くふふふ! ルディアお姉様! クズハの温泉は子宝の湯でもありますのよ!」


「はぁっ!?」


 僕は慌ててルディアから離れた。

 くそう。クズハが変なことを言うから、意識しちゃうじゃないか……


 ルディアも耳まで茹だったように赤くなっている。


「ところで、マスター。湯上がりには牛乳一気飲みが、温泉の由緒正しい楽しみ方なの。今度、モウモウバッファローをテイムしていただけませんの? 乳搾りしますの!」


「乳搾りですって!? そ、そんなの嫌よ! 嫌じゃないけど、嫌よ!」


 ルディアが胸を抱いて、後退る。

 いや、何を言っているだ……? 


「クズハ、良く知っているな。モウモウバッファローは牛型モンスターで、最高級のミルクが取れるんだ」


「はいですの! 温泉に関することなら、何でも知ってますのよ」


 クズハが満面の笑みになる。


 モウモウバッファローのテイムか。

 もし、それができれば、アルト村がもっと豊かで楽しい場所になるだろうな。

 夢が膨らむぞ。


「よし、がんばってみるか!」


「がぁおお……(極楽、極楽だお〜)」


「わんっ(気持ちいい……)」


 そんな僕らを尻目に、ベアとシロは溶けるように温泉に浸かっていた。 

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