12話。【弟SIDE】ナマケル、冒頭者ギルドを出禁になりボコボコにされる

「はぁ〜? ふざけんじゃねえっての!?」


 ナマケルは冒頭者ギルドの受付テーブルを乱暴に叩いた。


「ですから、ナマケル・オースティン様には、重大な契約違反がありましたので冒険者をご紹介することができません!」


 若い受付嬢は、怯むことなく毅然と言い放った。ギルド内の視線が、一斉にナマケルたちに集まる。


「オレっちは王宮テイマー、ナマケル様だぞ! オレっちに逆らうということは、王国に逆らうということだぞ! わかってんのか、クソ女!?」


 ナマケルはドラゴンの生息地を探索するため、Aランク以上の冒険者を紹介してもらうべく、冒険者ギルドにやって来た。


 ドラゴンをテイムしなければ、王宮のモンスターたちに言うことを聞かせることができない。これは死活問題であり、ナマケルは焦っていた。


「冒険者ギルドは、超国家的な機関です! 王国からは独立しており、貴族様の命令にも従う義務はありません」


 受付嬢は、生意気にも反論してきた。

 コイツは、ことの重大さがわかっていないのか? ナマケルは歯ぎしりする。


「ナマケル様は、ご紹介したSランク冒険者パーティー《暁の狼》に対して、ひどいパワハラ、セクハラをされたそうですね? 鞭で打ったり、女の子に無理やり負ぶさろうとしたとか……危険なダンジョンで言語道断な行為です! そのような方とのご契約は、一切お断りします!」

 

「ダァーッ! バカかっていうの! このままじゃ、王宮で飼っているモンスターたちが暴れて大変なことになるんだってばよ!」


「はぁ? ナマケル様はテイマーの名門オースティン伯爵家の跡継ぎでしょう? モンスターのテイムなんか、朝飯前じゃありませんか?」


「まあ……そうなんだがよ」


 ナマケルは口ごもった。

 さすがに兄アルトに任せきっりで、モンスターのテイムも世話も、まともにして来なかったとは言えない。


 ナマケルのテイマーとしてのスキルレベルはたったの1。これでは王宮で飼っているモンスターたちを御せる訳がなかった。


「と、とにかく! ドラゴンをテイムしなくちゃならないんだってばよ! そうしないと……」


 ナマケルは想像して身震いする。

 すでにモンスターたちは、ストレスから荒っぽくなってきていた。飼育員に体当たりをかましてきたヤツもいる。


 このままだとテイムが切れて、モンスターたちが王宮で一斉に暴れ出すだろう。そうなれば、身の破滅だった。

 責任はナマケルだけでなく、ナマケルを後継者にした父親にも及ぶだろう。伯爵家そのものの存続が危ぶまれる。


 一刻も早くドラゴンをテイムして、連中を恐怖で押さえつける必要があった。


「でしたら、王国の兵団をお使いになれば良いでしょう? とにかく、ナマケル様は冒険者ギルドを出禁とさせていただきます!」


「おい待て! 金ならいくらでも、あるんだぞ!」


 王国の兵団を使うとなると、派兵先の領主に話を通す必要がある。


 王国の領内でドラゴンが生息しているのは、辺境のシレジア。つまり追放した兄アルトに、領内で活動させて欲しいと頭を下げなければならないのだ。


(兄貴の許可を得るなんて、死んでもごめんだぜ! オレっちは兄貴なんかよりも、ずっと優れた最高のテイマー【ドラゴン・テイマー】なんだぞ!)


「金さえ払えば、汚れ仕事も引き受ける冒険者がいたハズだろ? 有名どころだと、Aランク冒険者の剣豪ガインとかよ」 


「ガインさんは、シレジアに行っていて留守です! それに金さえ払えばって……失礼極まりないですよ! 汚れ仕事もここでは請け負っていません。冒険者ギルドをなんだと思っているんですか!?」


「あん? 世の中、金と権力だろうがよ! だいたいセクハラがなんだってんだ。女なんざ、相手が金持ちの権力者だったら喜んでなびくんだろ?」


 ナマケルは受付嬢に嫌らしい視線を向けた。

 ナマケルは金貨の入った袋を取り出すと、それを受付嬢の胸に叩きつける。バラバラと金貨が床に飛び散った。


「きゃっ!?」


「ほら! 金ならいくらでもやるよ。大人しく言うことを聞けよクソアマ! オレっちにガインを紹介するんだ!」


 ガインはSランク並の実力があるが、素行が悪いためAランクになっている男だった。

 シレジアに連れて行ったら、ついでにガインに命じて、アルトの開拓村で暴れさせるのもおもしろい。


「な、なんて人ですか!? オースティン伯爵家はなんでこんな人を後継者に!? もう怒った! つまみ出してください!」


 受付嬢が叫ぶと、屈強な男が現れてナマケルの首根っこを掴んだ。


「おい、なんだお前!? 無礼だぞ! オレっちは大貴族のナマケル様……!」

 

 男はナマケルのわめきを無視して、外の大通りへと放り出す。


「ぐぇっ!?」


 潰れたカエルのような悲鳴を上げて、ナマケルは地面に転がった。


「なにしやがるんだ! クソアマ! 冒険者ギルドなんざ、オレっちの権力で潰して……」


 激怒したナマケルの言葉は、尻切れになった。


「おい、あんた……俺たちの英雄暁の狼のミレー兄妹を、ダンジョンで鞭打ったんだってな? 俺たち冒険者を奴隷か何かだと思ってやがるのか?」


 顔に怒りを滲ませた冒険者たちが、ナマケルの周囲を取り囲んでいた。


「俺たちのアイドル、妹ちゃんにもセクハラしようとしたんだってな……許せねぇぜ!」


「おい、なんだお前ら! オレっちは王宮テイマーの……!」


「上位貴族だからって調子に乗りやがって、やっちまえ!」


「俺たち冒険者をナメんじゃねえっ!」


 冒険者たちは、一斉にナマケルを袋叩きにする。


「ぶべらっ!」


 数分後……

 ボロ雑巾のようになったナマケルが、身体をピクピクと痙攣させていた。



 冒険者ギルドを出禁にされ、冒険者たちを敵に回してしまったナマケル。

 兄アルトにプライドを捨てて頭を下げることもできず……


 もはやドラゴンをテイムすることは絶望的だった。


 そんな彼は、王女に呼び出されることになる。王宮のモンスターが、王女に噛み付いたというのだ。


 ナマケルの破滅は、まだ始まったばかりだった。

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