10話。課金ガチャで温泉の女神を喚び出す
「アルト様! お帰りなさいませ!」
アルト村に戻ってくると、農作業をしていた村人たちが、手を止めてあいさつをしてくれた。
農地には、赤々と実ったトマトが連なっている。村人たちは、トマトをもいで籠に入れていた。
「あれ? まだ、トマトの収穫には早いハズだけど?」
「それが、ルディア様が手をかざしたら、1日でここまで大きく育ってしまいまして。味もかなりのものです! おひとつ、いかがでしょうか?」
「ふふん! この村の作物はすべて、早く成長して大きく実るようにしたの。ここはアルトと私の愛の巣だものね!」
ルディアはとっても誇らしそうだ。
彼女は本当に、豊穣の女神なのだな。威厳は無いに等しいけれど……
トマトにかぶりつくと、新鮮な甘みが口に広がった。
「……っ!? うまいぞ、これ! 王都の大規模農園でも、ここまでの品質のトマトは、作れないんじゃないかな? これも売ったら、かなりのお金になりそうだ」
「今日の晩ご飯は、これを使ったトマトパスタにする予定です」
「それは楽しみだなぁ」
思わずヨダレが出そうだ。
「ホント、マジでうめえなっ!」
ガインもトマトに舌鼓を打っている。
裸ではかわいそうなので、彼には僕の上着を貸していた。
「あっ!? その男は悪名高い剣豪ガインじゃないですか?」
「この村で、酒代と宿泊代を踏み倒した、太え野郎ですよ! 俺の娘にもチョッカイを出しやがるし。おい、二度と来るなと言ったろ!」
「わっ、わりぃ。俺はアルト様の家臣にさせていただいたんで……金はちゃんと払うからよ」
村人に詰め寄られて、ガインはしどろもどろになる。
「はぁ~。あんたって、やっぱり犯罪者だったのね? それじゃ罰が必要だわ! 罰金10万ゴールドよ!」
ルディアが、ガインに人差し指を突き付けた。
「10万ゴールドって、嬢ちゃん、そりゃあ、め、めちゃくちゃだぞ!」
「犯罪者が罰も受けずに、アルト村に居座ろうだなんて。厚かましいにも程があるわ!
ガチャに課金するんだから、ツベコベ言わずに、とっとと出しなさいよ!」
ルディアがガインに詰め寄る。
どちらが強盗であるか、わからない吹っかけ具合だ。
「おい、ルディア、ちょっとやり過ぎ……」
「アルトの夢を叶えるためにも、お金が必要なのよ!」
興奮したルディアは、人の話など聞いちゃいない。
村人たちも、険悪な顔でガインを見ている。
「わかった! わかったって! まあっ、ケジメって奴は必要だろうからな! 出血大サービスで払うってばよ!」
ヤケクソ気味で、ガインはバックパックから金貨のズッシリ入った革袋を取り出した。
「やったわよアルト! これでイヌイヌ族に支払ったお金も賄えたわね! 今すぐ、【神様ガチャ】を回しましょう!」
ガインから引ったくったお金を僕に押し付けて、ルディアはバンザイする。
「まぁ……これもアルト様のためになるっていうんなら、仕方ないぜ。先行投資つーことだな……」
ガインもしぶしぶだが、納得してくれているようだ。
「悪い……。村が発展したら、給料は弾むから。よし、ルディアがそこまで言うなら、課金してみようか」
「やったぁあああ! 次は誰が召喚されるのかしら!」
ゴブリンたちに頼んで、90万ゴールドのお金を持って来てもらう。ほぼ全財産だ。
これを突っ込むのはさすがに勇気が入るが……
ルディアやバハムート並みの存在が出現してくれるなら、充分に元が取れるだろう。
「100万ゴールド課金、投入! ガチャ、オープン!」
僕の目の前で、まばゆい光が弾けた。
現れ出たのは、キツネの耳とふさふさの尻尾を持った小柄な少女だった。
「温泉の女神クズハ! 参上しましたの! あなたが私のマスターですの?」
かわいらしいロリボイスで、少女はあいさつした。
その頭にはタオルが置かれ、手には木製の風呂桶を抱えていた。
『レアリティSR。温泉の女神クズハをゲットしました!』
『クズハを使い魔にしたことにより、クズハの能力の一部をスキルとして継承します。
スキル【薬効の湯けむり】を獲得しました。
【薬効の湯けむり】味方の全ステータスは2倍にアップする湯けむりを発生させるバフ系スキルです』
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名 前:アルト・オースティン
○ユニークスキル
【神様ガチャ】
【世界樹の雫】継承元。豊穣の女神ルディア
【神炎】継承元。神竜バハムート
【薬効の湯けむり】継承元。温泉の女神クズハ(NEW!)
○コモンスキル
【テイマーLv11】
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