8話。ハチミツベアーをテイムする
イヌイヌ族を見送ると、僕はシロとルディアを連れて樹海に出た。モンスターをテイムするためだ。
ゴブリンたち5名も、護衛として同行してくれた。
「私の育てたヒールベリーが思った以上に高く売れたわね! この分なら、ガンガンお金を稼いでガチャが回せるわ!」
ルディアがはしゃぎ回っている。
「そうだな。ルディアのおかげで食糧には困らないし。余裕が出たら、また課金ガチャに挑戦してみようか」
「やったぁ! アルト、大好きよ!」
ルディアが僕の腕に手を絡ませてきた。思わずドキリとする。
彼女のボディタッチには、なかなか慣れないんだよな……
昨晩は一緒に寝ようとか言ってきて、本当に困った。
「シロ、ハチミツの匂いがわかるかい? 蜜蜂の巣を探してもらいたいんだけど」
「わん!(もちろん、わかるよ)」
「えっ? なになに? ハチミツを採取するの? 私、甘いの大好き!」
ルディアが目を輝かせた。
「いや。ハチミツが好物のモンスター、ハチミツベアーを見つけてテイムするんだ。
ハチミツベアーは、ハチミツを溜め込む習性がある。
しかも、彼らが溜めたハチミツは、なぜかより甘く美味しくなるんだ。王宮のパティシエ御用達の品だよ」
「嘘っそぉおお! じゃあ、すごく美味しいケーキとかお菓子とか、作れるようになるのね!?」
「そういうことだな。あと、売るとかなりのお金になる。
ハチミツベアーは、辺境のシレジアにしか住んでいない希少種なんで、ぜひともテイムしておきたかったんだ」
あまり知られていないが、モンスターの中には、人間にとって有用な特長を備えた種族がいる。
ハチミツベアーは、その代表格だ。
「わんわん!(この近くから、ハチミツの甘い匂いがするよ)」
さっそくシロが、網を張る場所を見つけてくれた。
「よくやったぞ、シロ!」
「わおん!(もっと褒めて!)」
ご褒美に、よしよしと頭を撫でる。ホワイトウルフは、頭を撫でられるのが大好きだ。
「ううん! 良い子ねシロ!」
ルディアも、シロのモフモフの身体に顔をうずめて堪能している。これは自分が気持ちイイからやっているな。
しばらく歩くと、蜜蜂がブンブン飛び回っている花畑に出た。
「うわっ! キレイ!」
「あそこの木に、蜂の巣があるようだな」
「近づき過ぎると、蜂に刺されるゴブ!」
ルディアが花畑に足を踏み入れようとすると、ゴブリンの警告が飛んだ。
「大丈夫よ。蜜蜂は、豊穣の女神の眷属なんだから! 私だってわかれば、喜んで蜜を分けてくれるハズだわ」
ルディアはそれを無視して、意気揚々と歩を進めて……
ぶすっ
「ぎゃぁあああっ!?」
むき出しの腕を蜜蜂に刺されて飛び上がった。そのまま、泣きながら逃げ出していく。
「うわああーん! ちょっと、来ないでよぉおおお!」
蜜蜂の群れが、ルディアを追いかけ回す。蜜蜂に、完全に敵と認識されていた。
「蜜蜂は豊穣の女神の眷属じゃなかったのか……?」
「アルト、神炎で助けて!」
「いや、蜂とはいえ、無益な殺生は……シロ、頼む」
「わん!(任せて、ご主人様)」
シロがルディアを追いかけて行って、その襟首を噛んで掴み上げた。
そのまま、ヒョイとルディアを背中に乗せて、シロは風のように走り去る。
蜂の群れもホワイトウルフの脚力に追いつくことはできず、みるみる引き離された。
「これでルディアは大丈夫だろう」
ルディアの能力はすごいが、どうもイマイチ、女神というのは信じられない。
「ご主人様、ハチミツベアーだゴブ!」
ゴブリンに言われて目を向けると、大きな壺を抱えた熊がやって来た。僕も見るのは初めてだけど、ハチミツベアーに間違いない。
ハチミツベアーは、あの壺の中にハチミツを入れて巣穴に持ち帰る習性がある。
蜜蜂がハチミツベアーに一斉攻撃を仕掛ける。だが、相手は分厚い毛皮に覆われているため、びくともしない。
「がおお(ハチミツいっぱい、いただきますお)!」
ハチミツベアーは、蜜蜂の巣を木から取って、ハチミツを絞り出した。
巨体の割に、器用な奴だ。
「ハチミツベアー! 僕はテイマーのアルトだ。話がしたい! ここに、キミの壺よりもっと頑丈な壺がある。
これをあげるから、僕の使い魔になってくれないか?」
「がお?(頑丈な壺? ホント?)」
よし。ハチミツベアーが話に乗ってきた。
テイムは力尽くで行うこともできるが、モンスターと交渉して、使い魔にすることもできる。
後者は非常に難しいが、成功すればモンスターと強い信頼関係を築ける。
モンスターの言葉がわかるほどにテイマースキルがレベルアップしたので、挑戦することにした。
「本当だとも。ほら落としても割れないぞ」
地面に壺を落として見せる。
この壺は、ハチミツベアーをテイムするために、イヌイヌ族から買い取った特別製だ。魔法が付与されており、多少、乱暴に扱っても壊れない。
「がおおお!(それ欲しい! 前に壺を割っちゃった時は、すごく悲しかったお)」
ハチミツベアーは辛い過去を思い出したのか、涙目になった。
「キミにとって、ハチミツを貯める壺は命だものな。すごくわかるよ。
壺の他に、外敵に襲われない安全な寝床と、最高品質のモンスターフードを毎日3食提供することを約束するけど、どうかな?」
「がっおん!(悪くない条件! その壺ならお嫁さん探しも簡単にできそうだし。よろしくお願いしますお)」
ハチミツベアーは僕のテイムを受け入れ、使い魔となってくれた。
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