7話。イヌイヌ族の商人の信頼を得る

 次の日、ゴブリンたちに手伝ってもらって、物見櫓の隣にシロの犬小屋を作った。


 シロにはモンスターの侵入を防ぐ番犬役を任せることにした。

 シロがいれば安心して眠れると、村人たちは大喜びだった。


 シロは熊くらいの体長の魔獣なので、犬小屋もデカイ。


「やったー、ゴブ!」


 ゴブリンたちがバンザイした。


「わんわんっ(ご主人様! ありがとうっ!)」


 犬小屋の前に座って、シロがうれしそうに尻尾を振る。

 あれ? 今、シロの鳴き声が言葉となって伝わってきたぞ……


―――――――


テイマースキルがレベルアップしました!


【テイマーLv10 ⇒ Lv11(UP!)】


モンスターの言葉が理解できるようになりました!


―――――――


 どうやらテイマースキルがレベルアップして、新たな能力に目覚めたようだ。

 テイマースキルは、テイムやモンスターの世話をすると、レベルアップしていくのが特徴だ。


 確かLv11以上になった者は、歴代王宮テイマーでも少ないんだったよな……

 まさかモンスターの言葉がわかるようになるとは、思わなかった。


「わんっ、わん!(暖かくなってきたから、毛を刈って欲しいよ)」


「そう言えば、換毛期か」


 ホワイトウルフは春の終わりごろ、毛が夏用に生え変わるのが特徴だ。

 毛は放っておいても生え変わるが、適量、刈ってあげた方が熱がこもらなくて快適に過ごせる。


「じゃあ、トリミングもしようか」


「わん!(うれしいっ!)」


 ハサミでシロの毛をジョキジョキ切ってあげた。魔獣は見た目も大事なので、なるべく格好良く見えるようにカットする。

 シロは気持ち良さそうにしていた。


「わん、わん!(ご主人様や村のみんなを守れるよう。ボクは村の見張りをするよ。任せておいて!)」


「そうか。エライぞ、シロ!」


 シロは僕の役に立つのが、うれしくてたまらない様子だった。

 いっぱい頭を撫でてやる。


「アルト! お客さんだって。行商人が来ているそうよ!」


 その時、ルディアがやってきて来客を告げた。




「ご領主様に、ごあいさつ申し上げます、ワン」


 帽子を取って、礼儀正しく頭を下げたのは、僕の腰くらいの背丈の犬型獣人たちだった。

 彼らはイヌイヌ族といって、正直者であることで有名な種族だ。なにしろ、うれしいと無意識に尻尾を振ってしまうのだ。


「わざわざ、こんな辺境まで来てもらってありがとう。歓迎します。僕がシレジアの領主アルト・オースティンです」


 僕はイヌイヌ族に椅子に座るように勧めた。

 ルディアがお茶を入れて、彼らの前に並べる。イヌイヌ族の大好物である骨付き肉をお出しすることも忘れない。


「こ、これは痛み入りますワン」


 イヌイヌ族は、ヨダレを垂らしながら尻尾を振った。


 イヌイヌ族はときどき開拓村にやってきては、塩や油、衣類、回復薬などの生活必需品を売ってくれているようだ。


 今回も荷馬車に商品を満載してやって来ていた。

 危険な辺境に足を運んでくれる彼らとは、信頼関係を結んでおきたい。


 必要な物資を買い終えると、僕は切り出した。


「それで次回からはモンスターフードを仕入れて売って欲しいのですけど、頼めますか?」


「もちろん。ご用意させていただきます、ワン。いかほどご入用でしょうかワン」


「王宮テイマー御用達の最高品質フードを10万ゴールドで、買えるだけ注文したいです」


「そんなに!? かしこまりましたワン」


 イヌイヌ族は飛び上がって驚いた。

 モンスターたちをテイムして飼うには、まずエサを確保する必要がある。


 もちろんエサは最高品質だ。

 ケチったりしたら、モンスターたちの健康に関わるからね。

 シロも喜ぶだろう。


「それと、これですけど。買い取ってもらえないでしょうか?」


 僕は大箱に詰めたヒールベリーと、シロから刈り取ったホワイトウルフの毛を見せた。


「これはヒールベリー!? しかも、この色艶……品質も最高だワン!」


 イヌイヌ族が、信じられないといった顔付きになる。彼らはフリフリ、尻尾を振っていた。ご機嫌らしい。


「同じモノが、あと2箱あるんですけど」


「すごいワン! ヒールベリーは全部で、4万ゴールドで買わせていただきますワン!

 ホワイトウルフの毛は、3000ゴールドで、どうでしょうかワン?」


 両方とも予想以上の高値が付いた。

 ホワイトウルフの毛は、高い魔法防御力を備えているため、魔法使いのマントなどに縫い込まれる素材となる。


「ありがとう。それでお願いします」


「こちらこそ、ありがとうございますワン! 今後ともぜひ、お付き合いのほどをよろしくお願いしますワン!

 これほどの品質のヒールベリーは、なかなか手に入らないワン!」


「こちらこそ、よろしく頼みます。帰り道は物騒だから、ゴブリンの護衛を付けさせてください」


 イヌイヌ族は冒険者の護衛を雇ってここまで来たようだが、護衛は多いに越したことはない。


「えっ? ゴブリンの護衛ですかワン?」


 イヌイヌ族は首をひねった。

 僕が手を叩くと、武装したゴブリンの一団が部屋に入ってくる。


 一瞬、襲われると思ったのか、イヌイヌ族が椅子からひっくり返りそうになった。


「我らはアルト様の親衛隊だゴブ! お客人を森の外まで、安全にお送りするゴブ!」


 ゴブリンたちが敬礼する。


「ま、まさか……この村はゴブリンと共存しているのですかワン?」


「我らは、アルト様の忠実なる配下だゴブ!」


 誇らしげにゴブリンたちは頷いた。


「すごいっ……というより、魔族を従えるなんて、どんなテイマーでも無理だと思っていましたワン」


「季節外れの最高品質ヒールベリーといい。ご領主様は一体何者なんですかワン?」


「知らないのかワン? オースティンといえば、王宮テイマーの名門貴族様ですワン」


「なんと! これは最優先でご入用の品をご用意させていただきますワン」


 イヌイヌ族はキラキラした眼差しで、僕を見つめた。

 やばい、変な期待をさせてしまったようだ。


「僕は実家とは、ほぼ縁が切れているんで……貴族といっても名ばかりなんです」


「ワン?」


「実は、僕は外れスキル持ちだと、この土地に追放されてきたんです。だから、オースティン伯爵家と繋がりを作りたいなら、期待には応えられないと思います」


 僕は正直に告げた。

 イヌイヌ族はお互い顔を見合わせる。


「ご事情はわかりませんが。ボクたちはアルト様、個人とお付き合いさせていただきたいですワン」


「アルト様なら、シレジアを豊かな領地に変えられると思いますワン。ボクたちは人を見る目には自信がありますワン。

 ぜひ、ごひいきにさせていただきたいですワン!」


 イヌイヌ族たちはそう言って頭を下げた。

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