6話。豊穣の女神ルディアの力
その夜、開拓村をあげて僕の歓迎パーティが催された。
丸太塀を修復したゴブリンたちも晩餐に加わっている。
ゴブリンたちは採ってきた果物や鹿肉などを提供し、村人たちと肩を組んで騒いでいた。
酒を飲んで酔っ払っているためだが……
昼間の戦いが、ウソのような光景だった。
魔族というのも、人間と大して変わらないのだな。
「ささっ! ご領主様、ご一献どうぞ!」
村娘が、お酒を僕に注いでくれる。
「新しいご領主様は、元王宮テイマーだと伝書鳩の知らせで聞いておりましたが……あのようなドラゴンすら従えておられたとは、驚きました!」
「ウチの息子を助けていただき、ホントにホントに感謝いたします! ゴブリンに連れ去られた時は、もうダメかと……」
「俺たちを苦しめていたゴブリンどもが、逆に開拓を手伝ってくれるって言うし! アルト様のおかげで、ここでの生活に希望が湧いてきましたよ」
村人たちが口々に僕を褒めたたえるので、いたたまれない。
「ドラゴンとゴブリンについては……何というか運が良かっただけですよ」
すべてはガチャの結果だ。
「そうだ! この村には名前がまだ無かったのですが、ご領主様の名前をいただいて、アルト村というのはいかがでしょうか?」
「そいつは名案だぜ!」
「はい! はい! 私も大賛成よ!」
僕の隣に座ったルディアが、手を上げて賛同する。
「アルト村か……照れくさいけど、うれしいものだな」
実家から追放された悲しみが、癒えていくのを感じた。
そうだ……僕は、ここを第二の故郷として発展させていくんだ。
ゴブリンも仲間に加わったし、モンスターと人間が共存する楽園に一気に近づいた気がするぞ。
どんどんモンスターをテイムして、仲間を増やしていこう。
「それじゃ、アルト村の今後、より一層の発展を願って乾杯!」
「「乾杯っ!」」
僕が音頭を取って乾杯する。村人たちは陽気に酒をあおった。
「わんっ! わんっ!」
シロが骨付き肉に、うれしそうに齧り付いている。
「でっかいワンちゃんだ!」
村の子供たちがシロに抱きつき、シロもうれしそうに尻尾を振っている。大人気だ。
シロは毛並みがモフモフで、癒やされるんだよな。
「ご領主様! さぁ、冷めないうちに!」
僕の目の前に、新鮮な鹿肉を火であぶって塩と胡椒を振りまいた料理が出される。かぶりつくと肉汁がブワッと口内に広がって実にうまかった。
「私が腕によりをかけて作りました! こちらもどうぞ!」
女の子が、ヤギミルクのシチューをよそいでくれる。シチューをパンに浸して食べると絶品だった。
「うん、これも美味いっ!」
「ホントですか!?」
女の子は感激して笑顔になる。
「ちょっとアルトっ! 私という者がありながら。なに、村娘なんかにデレデレしているのよ!」
ルディアが僕の耳を引っ張った。
「おい、痛いってっ!」
「私はアルトの妻よ! 私の旦那に手を出したら許さないんだからね!」
「い、いつ結婚したんだ!?」
思わず、むせてしまう。
僕は恋人もいたことがないんですけど……
いろいろと段階を飛ばし過ぎだ。
「これは、このような美しい奥方様がいらっしゃるとは。ご領主様もすみにおけませんな」
「もう『美しい奥方様』だなんて、本当のことを言われたら、照れちゃうわ! 良し! 豊穣の女神の名にかけて、この村に豊作をもたらせてみせるわよ!」
男の言葉に、すっかり気を良くしてルディアは胸を叩いた。
「じゃあ、さっそく!」
ルディアが村の中央のヒールベリーの木に手をかざす。
すると、葉っぱしか無かった枝に、赤いイチゴのような実が、一瞬でたわわに実った。
「おっ、おおおおっ……!?」
「えっ、すごいゴブ!」
村人たちと、ゴブリンまでもが目を見張った。
これには僕も驚きだった。
「今はヒールベリーの収穫時期を過ぎているハズなのに? み、実がなった?」
「ふふん! 私は植物を操る力を持っているのよ。季節外れの実をならせるくらい、わけないわ」
ルディアは鼻を膨らませて、得意顔になっている。
「え、なにそれ。ちょっと、どういうこと? 本気ですごいんだけど……」
なにしろ、ヒールベリーは回復薬の材料だ。回復薬の需要は高く、村人から冒険者から兵士まで、怪我の備えとして常備している。
このためヒールベリーは、それなりの値段で売れた。
僕は試しに、ヒールベリーを木からひとつもいで食べてみる。甘酸っぱさと同時に、身体に力がみなぎるのを感じた。
「これは……質もかなりのモノじゃないか!?」
「本当ですか、ご領主様!?」
良質なヒールベリーは、そのまま食べても体力の回復効果がある。
村人たちが色めき立った。僕も興奮を抑えきれない。
「これを売れば、かなりのお金になるハズだ。ルディア、ヒールベリーは、すぐにまた新しい実をつけられるのか?」
「もちろんよ! あまり連続でやると、木が疲れちゃうから、10日に一度くらいが限度だけど」
「……そんな短期間で収穫ができるのか? こ、こんな魔法は聞いたことが無いぞ」
ルディアの言っていることが本当なら、ヒールベリーだけでなく、野菜や果物がいくらでも手に入るんじゃないか?
飢えからの解放。食うに困らない生活。まさに楽園のような暮らしが、目の前に開けた。
「ルディアって、もしかして神?」
「いや、だから私は豊穣の女神だって、最初から言っているでしょう……?」
「うぉおおおお!? これはこの村に莫大な富をもたらすモノですぞ!」
「ヒールベリーの木をもっと植えて収穫しましょう!」
「豊穣の女神ルディア様、バンザイ!」
村人たちが、ルディアをたたえる。ルディアの神殿でも作ってしまいそうな勢いだった。
「ちょ、ちょっと、崇めるべき相手が違うわよ!?
私はアルトの使い魔。アルトのテイマースキルで能力が1.5倍に強化されているから、ここまでのことができるのよ。アルトは創造神様に選ばれた救世主なんだからね!」
ルディアが爆弾発言を落とした。
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