4話。神炎のスキルを獲得し、ゴブリンの群れを支配下に入れる
神竜バハムートが大きく顎を開けて、ドラゴンブレスを放つ構えを取った。
「お、おいっ! 人質の子まで一緒に殺す気か!?」
僕は慌てて制止する。
バハムートが収束する圧倒的な力に、大地が鳴動し、大気が震えた。
人質の男の子どころか、この樹海そのものを地上から消しかねない力を感じた。
僕はだてに王宮テイマーをやってきていない。目の前のモンスターが、どれほどの力を秘めているのか、ある程度、見抜くことができる。
結論。このバハムートは本物だ。
「ご安心あれ。我が神炎のブレスは、我が主に敵対する愚か者のみを滅する力!」
バハムートが応えるが、まるで安心できない。このままドラゴンブレスを放ったら、地形が変わってしまう予感がした。
「我が主に逆らうとは、神に逆らうと同じこと。塵ひとつ残さず、消滅させてくれるわ!」
「おっ、お許しください、ゴブ!」
ゴブリンのボスが、武器を捨てて僕に土下座した。他のゴブリンたちも、次々にそれにならう。
「降伏します、ゴブ!」
「もう人間を襲ったりしない、ゴブ!」
ゴブリンたちは泣きながら懇願する。
「ならん! 我が主に剣を向けし罪。死を持って贖(あがな)え!」
「やめろ! 消えろバハムート!」
ドラゴンブレスが発射される寸前、僕は全力で命じた。
すると、バハムートは光の粒子となって消え去った。その光は僕の右手に集まり、平べったい形に……カードになった。
「なっ、なんだ……? このカードは?」
そのカードには翼を広げたバハムートの美麗なイラストと【R】の文字が書かれていた。
「バハムートを召喚できたようねアルト! ガチャで召喚した使い魔は、カードにして持ち歩くことができるわ」
ルディアが僕に抱きついてきて告げる。
びっくりすることの連続に、理解が追いつかない……
ただ、ひとつ、わかったことがある。
「そ、そうか……【神様ガチャ】で呼び出した使い魔は、召喚獣の性質を持っているんだな?」
「そういうことっ!」
召喚獣とは、召喚士に呼び出されて使役される精霊や魔物のことだ。
テイマーが使役する使い魔が、マスターと寝食を共にするのとは対照的だ。召喚獣は普段、異世界など別の場所にいるので、世話の必要がない。
その代わり、呼び出すために莫大なMP(マジックパワー)を消費する。
バハムートのカードを確認すると、召喚に必要なMP100。召喚の維持に必要なMP毎分1と表示されていた。
これはバハムートを実体化させ続けるために、毎分1のMPを消費するということだろうな。
バハムートは最強だが、結構使い辛いな……
僕の最大MPは120だ。
僕はテイマーであって召喚士ではないため、最大MPが低い。
その代わり、使い魔の能力を1.2〜1.5倍にアップさせる僕のテイマースキルは、召喚獣にも効果があるようだ。
ルディアから継承したスキル【世界樹の雫】はMPを回復する効果もある。
手に入れたスキルをうまく組み合わせて使えば……テイマーと神様ガチャの相性は抜群かも知れないな。
「もう一度、バハムートを召喚したい時は、そのカードを掲げて名前を呼べばOKよ」
「……って、ことは。もしかしてルディアもカード化することができるって訳か?」
「そうね。でも、なるべく実体化してあなたの側にいたいから、カード化したら嫌よ。
なにより、私は【自立行動スキル】を持っていて召喚維持にMPを消費しないのよ。
どう? すごいでしょ!?」
ルディアは誇らしげに告げた。
「よし。それじゃ【世界樹の雫】で、傷の治療をするわね」
ルディアが僕の肩に手を触れると、嘘のように怪我の痛みが消えた。
「やっぱりルディアは人間じゃなくて。精霊の一種か何かなのか?」
「もうっ、まだ信じていないの!? 私は豊穣の女神だって言っているでしょ!」
噛みつかんばかりの勢いで、ルディアは僕に迫った。
いや、でもさすがに女神というのは……
最高峰の召喚士の中には、天使や高位精霊と契約した者もいるようだけど。神様を使い魔にした例など聞いたこともない。
「降伏を受け入れていただき、ありがとうございますゴブ! これからは、あなた様をご主人様として忠誠を誓いますゴブ。
どんなご命令にも従うゴブ! だ、だから殺さないで……」
ボスゴブリンが、頭を地面に擦りつけて、僕に許しを乞うてきた。
その身体は恐怖で、ガクガク震えている。
「僕はこの地の領主として赴任してきたアルト・オースティンだ。僕はここを人間とモンスターが共存共栄できる楽園にしたいと考えている。
降伏の条件として、それに協力してもらえるかな?」
なるべく威厳があるように話しながら、内心、驚愕していた。
まさか魔族であるゴブリンが、僕の配下になりたいと申し出てくるとは思わなかった。
それだけ神竜バハムートが恐ろしかったのだろう。
「もちろんですゴブ! 喜んで協力させていただきますゴブ!
アルト様への忠誠の証に、これまで人間から略奪してきた金品をすべて差し上げますゴブ! 100万ゴールド近くはありますゴブ!」
「100万ゴールド!? やったー! これでまた【神様ガチャ】に課金できるわね!」
ルディアが飛び跳ねて喜んでいる。
「いや、しないから……」
お金の使い道は慎重に考えるべきだ。全部ガチャに突っ込むなど、あり得ない。
「むっ〜! 課金ガチャはバハムートよりもっとスゴイ、レアリティSR以上の神が呼べるのよ! 私クラスの超有能な神だって手に入るんだからね! SSR出現確率3%くらいだけど……」
ルディアをスルーして、ゴブリンに人質にされていた男の子に声をかける。
「それよりも、怪我は無かったかい?」
「う、うんっ! ありがとう、ご領主様!」
彼は笑顔を見せた。
「新しいご領主様が、こんなすごい召喚士だなんて、びっくりです! 俺、ドラゴンをこんな間近で見たのは初めてです!」
キラキラした尊敬の眼差しを向けられて、戸惑ってしまう。
「あ、いやっ……僕は召喚士じゃなくて、テイマーなんだけどね」
『神竜バハムートを使い魔にしたことにより、バハムートの能力の一部をスキルとして継承します。
スキル【神炎】を獲得しました。
【神炎】標的だけを焼き尽くす神竜のブレス。邪悪な魔族に特に有効です』
僕の頭の中にシステムボイスが響き、新たなスキルを獲得したことを告げた。
「いかんっ! 火勢が増しているぞ!」
その時、村人の大声が響いた。
見れば火矢を受けた丸太塀が勢い良く燃えて、火の粉を撒き散らしている。
「チクショウ! このままじゃ、俺たちの家にまで飛び火しちまう!」
村人たちは、井戸の水をかけて必死に消火に当たっているが、火の勢いは衰えない。
「すまんゴブ! どうしようゴブ!?」
ゴブリンのボスがオロオロしている。
「アルト! バハムートの神炎よ! それで燃えている丸太塀を、一瞬で焼き尽くして消火するの!」
「そうか!」
意外と冴えているルディアの助言に従って、僕は丸太塀に手をかざした。
「みんな下がれ! 【神炎】!」
聖なる黄金の炎が、ほとばしる。それは丸太塀を呑み込んで消し炭にした。
「ぉおおおお──っ! 助かったぞ!」
村人たちから歓声が上がる。
だが、モンスターの侵入を防ぐ丸太塀を壊してしまったのは大問題だ。
「ゴブリンたち。さっそくだが、木を切り出して壊れた塀を再建してくれるか?」
「は、はいっ! もちろんだゴブ! お任せくださいだゴブ!」
僕が命じると、ゴブリンたちはその場に平伏した。彼らは散開して、すぐさま作業に移る。
「村をお救いくださっただけでなく、ゴブリンたちまで従えてしまうとは……!」
「う、噂以上のお方です! このような偉大なお方が、俺たちのご領主様になってくださるなんて、夢みたいだ!」
「我らが領主、アルト・オースティン様、ばんざい!」
村人たちが駆け寄ってきて、一斉に僕をたたえた。
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