2話。神様ガチャはその名の通り神スキルでした

「……まさか実家を追放された上に、ガチャで全財産を失うなんてっ。

 神様は僕のことが嫌いなのか……!?」


 僕は頭を抱えて、うずくまった。

 王都の大通りを行く人々が、奇異の目で僕を見ている。


「そんなことないわ。女神ルディアは2000年前からずっと変わらず、あなたのことが大好きよ」


 自称女神のルディアが、僕の頭を胸に抱いてヨシヨシしてくれる。柔らかい感触と花のような甘い香りに心臓がドキッとした。


「それにガチャの対価は、バッチリ受け取っているでしょう?

 私という超かわいい女神を使い魔にできただけでなく。私の能力の一部がスキルとして、アルトに継承されているハズよ。ステータスを確認してみて?」


 なんだって?

 僕は自分のステータスを確認する。


―――――――


名 前:アルト・オースティン


年 齢:18歳


○ユニークスキル

【神様ガチャ】

 ガチャで神属性の使い魔1体をランダムに召喚できる。


【世界樹の雫】(NEW!)

 豊穣の女神ルディアからの継承スキル。

 HPとMPを全快にし、あらゆる状態異常を癒やす『世界樹の雫』を生み出せる。死後24時間以内であれば、死者の復活も可能。

 クールタイム72時間。


○コモンスキル

【テイマーLv10】

 モンスターをテイムできる。また使い魔の全能力値を1.2〜1.5倍にアップする。相手との信頼度によって上昇率が変わる。

―――――――


「うんっ? 【世界樹の雫】というユニークスキルが追加されているんだけど、なんだこれ……」


 確かユニークスキルは、1人につき1つしか手に入らないハズなんだけど……って、はぁ?


 その効果を見て、ぶったまげる。

 HPとMPを全快にし、あらゆる状態異常を癒やす? しかも死者の復活も可能だって……?


 本当だとしたら、まさに神の領域の力だ。


「ふふふっ! 私から受け継いだスキルのすごさに声も出ないようね。

 2000年前は【世界樹の雫】の奇跡を得ようと、エルフたちが私に大量の貢ぎ物を捧げてきたのよ!」


 ルディアがドヤ顔で解説する。


「もっとも2000前の七大魔王との戦争で、私たち神は力を失って眠りにつくことになってしまったのだけどね。……そんな私たちが復活するための切り札こそが、アルトに託された『神様ガチャ』なのよ!」


 はっ? 神話を引っ張り出すなんて、いくらなんでもスケールが大きすぎる作り話だ。

 僕は呆れたが、ルディアは構わずにまくし立てる。


「アルトがこれまで必死に努力して鍛えたコモンスキル【テイマーLv10】。これって使い魔の全能力値を1.2〜1.5倍にアップするスキルよね?

 アルトの使い魔として神々を復活させれば、一気に魔王たちに対抗可能な最強戦力が整うのよ。

 あなたこそ、この世界の救世主だわ」


「はいっ……?」


 その時、大きな悲鳴が響いた。


「うぁあああっ!? 魔獣が暴走しているぞ!」


「早く殺せっええ!」


 見れば、狼型魔獣ホワイトウルフが、大通りを突進してきた。通行人の女性が、ホワイトウルフに弾き飛ばされる。

 さらにホワイトウルフは、牙を剥き出しにして、小さな女の子に襲いかかった。


「きゃぁあああああっ!?」


 僕は石畳を蹴って女の子の前に飛び出した。

 王都のど真ん中に魔獣がいるということは、恐らく未熟なテイマーが使い魔を御しきれずに暴走させてしまったのだろう。


「お座りぃいいい!」


 僕はホワイトウルフの頭を押さえ込みながら命令した。


 モンスターをテイムするための最低条件。それは相手に力を見せて、主人と認めさせることだ。


 そのために、僕は身体を鍛え、魔獣を抑え込めるほどの腕力を手にしていた。僕はオークと殴り合っても勝つ自信がある。


 基本的に、自分より弱い相手にモンスターは従わない。モンスターと仲良くなるためには、まず強くなくてはならない。


「テイム! 僕こそ主人だ。僕に従えっ!」


「わんっ!」


 ホワイトウルフが、腰を下ろす格好になった。テイム成功だ。


 すかさず、鞄に入れていた魔獣の餌である肉切れを取り出して与える。

 ホワイトウルフは、嬉しそうに食いついた。


 やはり、お腹が空いて人間を襲ったようだった。それに、ろくに運動もさせてもらっていなかったようで、ストレスが溜まっているのが、うかがえた。


「みなさん、安心してください。

 僕は元王宮テイマーのアルト・オースティンです。この子は僕が使い魔にしました。もう人を襲ったりしません!」

 

 大通りに響き渡るように大声で宣言した。


 暴走し、人を殺めた魔獣は通常、殺処分される。

 僕は女の子だけでなく、この魔獣の命も救いたかった。


 幸いにもこのホワイトウルフは、まだ人を殺めてはいないようだ。


「あっぁあ、ありがとう、お兄ちゃん!」


 尻餅をついた女の子が、震え声でお礼を口にする。


「で、でも。お母さんがっ、そのワンちゃんに……っ!」


 女の子が指差す場所には、ホワイトウルフに弾き飛ばされた女性が横たわっていた。頭から血を流している。


「おいっ! こりゃ……かなりヤバいぞ! 致命傷じゃないか?」


「頭を強く打っているわ! 意識もなくして……私の回復魔法では手の施しようがないわ!」


 冒険者と思わしき一団が、その女性の容態を見て騒ぎ立てていた。


「お母さんっ!」


 女の子は絶望に顔をクシャクシャにしている。

 こうなれば、一か八かだ。


「【世界樹の雫】!」


 僕は倒れた女性に駆け寄って、スキル【世界樹の雫】を発動した。


 僕の指先より小さな雫が滴り落ちて、女性の顔にかかる。

 すると、気絶していた女性の目が開いた。


「……わ、私は一体っ?」


 困惑した様子であるが、その顔には血色が戻っている。


「お母さんっ!」


 女の子が女性と抱き合った。

 どうやら、この【世界樹の雫】の力は本物のようだ。


 って、ことはルディアが言っていることも本当なのか? まさかな……


「す、すげぇ! あの大怪我が一瞬で治っちまうなんて……まさか平民を助けるためにエクスポーションを使われたんですか!?」


 冒険者が勘違いして騒ぎ立てる。

 エクスポーションは1万ゴールドはする最高の回復薬だ。


「アルト・オースティン様と言えば、この国の守護神とも言われる王宮テイマーではありませんか!?」


「まさか貴族様が身体を張ってお助けくださるなんて! なんてお礼を申し上げたら良いか……」


 助けられた親子は感激のあまり、涙を流していた。


「ふふふっ! さすがねアルト。誰かを助けるために自然と身体が動いてしまうのは、転生しても変わらないようね。さすがは、私の恋人! 私のマスターだわ!」


 ルディアは得意満面だ。

 恋人とか、マスターとか言われる筋合いは無いと思うのだけど……

 とにかく、お礼を言わなくちゃな。


「いや、これはルディアが与えてくれた【世界樹の雫】のスキルのおかげだ。ルディアには大感謝だな」


「も、もうっ! 照れくさいわね! あなたを助けるのは当然なんだからっ……もっと感謝してくれて良いのよ?」


 ルディアは、ポッと顔を赤らめてモジモジしている。


「すげぇっす! マジパネェっす! 俺、感動したっす!」


「ワンっ!」


 何やらチャラい感じの若者が、興奮した様子で歩み寄ってきた。

 ホワイトウルフが威嚇するかのように吠える。それでピンときた。この若者はホワイトウルフの元ご主人様か。


「キミはテイマーか? この子はお腹を空かせていたようだぞ? テイムに成功しても世話を怠れば、モンスターはやがて暴走する。

 ちゃんと世話をしなければ、駄目じゃないか!?」


「はぃいいいい! 尊敬するアルトさんにご指導いただけるなんて、田舎から出てきたかいが有りまくりで、マジ感激っす!」


 若者はすごい勢いで頭を下げて、何度も腰を折る。


「どうか俺を弟子にしてコキ使って欲しいっす! 地の果てまでお供して、テイマー魂を磨かせていただきやす!」


「いや、僕は伯爵家を追放されて、これから辺境の開拓に行くんで。悪いけど、王宮に雇われるのが目的なら、他を当たってくれないかな?」


「マジっすか!? じゃあ俺も荷物をまとめて辺境にお供するっス! そこで師匠の伝説をお手伝いさせていただきやす!」


「ええっ!? まさかアルト様は辺境に行かれてしまうのですか!?」


 周囲から、あ然とした声が上がった。


「うん。王宮テイマー、オースティン伯爵家は弟のナマケルが継ぐことになった……」


「そんなっ。ナマケル様と言えば、威張り散らしながら遊び歩いているだけのロクデナシじゃないですか?」


 これまた辛辣な評価だ……


「これから先が不安ですね……王宮のモンスターたちが暴走したりしないでしょうか?」


「弟はドラゴンを使って、恐怖でモンスターを支配するって言っているから。

 多分、大丈夫だと思うよ」


 本当は心配ではあるし、そんなやり方はして欲しくないのだけど……

 僕の部下として働いていたテイマーや飼育係たちもいるし、大丈夫だと信じたい。


 それにモンスターたちには、決して人を殺めたりしないよう、繰り返し教え込んできた。


 万が一、あの子たちが暴走するようなことになっても、最悪の事態は回避できるハズだ。


「わんわんっ!」


 ホワイトウルフが、尻尾を振りながら僕にじゃれついてきた。

 モフモフの毛並みが気持ちいい。


「よしよし、お前に名前をつけてやらないとな……白いからシロにしよう」


 シロの頭を撫でてやると、嬉しそうに喉を鳴らす。

 シロの幸せそうな顔を見ていて、胸に去来する思いがあった。


「……今こそ、僕の夢を追いかけるべき時なのかも知れないな」


 そう。僕には夢があった。

 口にするにはバカけた夢で、胸に秘めていた夢だ。


「僕は作りたいんだ。モンスターたちが狭い檻に閉じ込められず、人間と一緒に楽しく暮らせる楽園を」


 王宮のモンスターたちは、狭い檻で飼育されているため、常にストレスを抱えていた。

 そんな環境は決して理想的とは言えない。


 しかも、彼らは人間同士の戦争に駆り出される立場だ。

 とても人間と共存共栄しているとは言えなかった。


 そう考えれば辺境に追いやられたのは好都合だった。

 僕はワクワクしてきた。これからは、夢の実現のために生きていくのだ。


「アルトらしい素晴らしい夢ね! 私も全力で協力するわ」


 ルディアが僕の手を取りながら告げた。

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