第34話「迷惑じゃないよ」

“もう、止められない──”

そう思った万里は、美有希を抱きしめ返した。


「──!!!」

「河村さん、迷惑なんかじゃあありません!僕はあなたの事を、初めて会った時から好きでした!!もちろん今も大好きです!!!」

「先生──」

「でもあなたは、『ずっと柊平さんを待っている』と言っていた。だから、“柊平さんを好きなんだ”と思っていました…」

美有希は、何度も首を横に振る。


「先日、柊平お兄ちゃんが婚約者を連れて帰って来たらしいんです。でも、悲しくも何とも無かったんです。でも…“これがもし冴島先生だったら?”って思ったら、とても辛くなってしまって──」

「河村さん…」


身体を優しく離し、ゆっくりとはなしかける。

「タイのアーティストのK&B、知ってますよね?」

「はい…」

「あれの『B』、つまり『Black』は、僕なんですよ」

「えっ!?」

「ちなみに『K』、『Kob』は、僕の兄なんです」

「ええっ!?」

驚き過ぎて、美有希は、万里から離れた。


「僕は、日本で言う小学生の途中から中学校卒業まで、タイに住んでいました。その間、数年間芸能活動をしていました。あなたが記憶を失くしていた間、渡辺さんが僕達の曲を聴かせていた時、“これは『運命』かもしれない”と思いました」

「──」

「面接より先に、あなたと出会っていたのですから──」


そう言って万里は、再び美有希を抱きしめる。

「迷惑じゃあありません。むしろ、とても嬉しいです」

「先生…」

「僕は、幸せ者です」


そして2人は、唇を重ねた──。

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