第29話『平常心を保つ』ということ

日曜日。

美有希は、過去の日記帳を読み返していた。

2年前の中学2年生の頃の日記だ。


《7月25日 由起と家で宿題をした。途中、由起と疲れて眠ってしまった──。》


“この時も、キスされたんだよね…”

──そう。美有希は、保健室で由起にキスされたことに気付いていた。


要するに、『由起の気持ちにはとっくに気付いていた』という事になる。

それでも、『友達』として変わらず接して来ていた。



ちょうどその頃。冴島家では、万里の部屋で、健人が話をしていた。

「──やっぱり、『同性愛』だったんだな…」

「うん…」

「その生徒のケアもしていかなきゃな。万里」

「万里兄ちゃん。居る~?…あ!ごめん。相談中だった?」

亜矢が入り口で止まった。

「何だ?亜矢。宿題か?」

「うん。それもあるけど…」

「何?亜矢」

「うん。幸子ちゃんとの恋の悩み、というか…」

「?」

万里と健人は、顔を見合わせた。


「幸子ちゃん。『小学校教諭になりたい』って言ってたのに、急に『幼稚園の先生になりたい!』って言い出して…」

「そっか…」

「…で?」

「『…で?』って、健人兄ちゃ~ん!離ればなれになっちゃうじゃないか~!!」

亜矢はそう言って、健人の腕にすがりつく。


「亜矢。小学校教諭同士でも、同じ小学校に赴任(ふにん)出来るとは限らないんだぞ」

「えっ!?万里兄ちゃん、そうなの?」

「そうだけど…」

「そんなに一緒に居たいなら、同棲(どうせい)とか結婚とかしたら?」

「健人兄ちゃんに言われたくないね!」

「何を~!!!(怒)」

健人が、亜矢に掴(つか)みかかる。

「だって!香織さんと、なかなか進展しないじゃないか!!」

「それは──!」

「まあまあ2人とも。落ち着いて!」

そう言って、万里は2人を引き離した。



次の日の月曜日。

「先生。おはようございます」

「河村さん、おはようございます。──大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です」

「良かった…」


「美有希、おはよう!──冴島先生、おはようございます」

「渡辺さん。おはようございます」

「由起。おはよう…」


そして、いつもの朝が始まる──。

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