第30話本当の気持ち
「おばさん。まだ、柊平お兄ちゃん帰って来ないの?」
「ええ、まだ。連絡も全然よこさないし。一体、どこで何をやってるのかしらね~」
柊平の母・加代子(かよこ)が、美有希を心配して、煮物を持って河村家を訪れていた。
「柊平が出て行って、もう10年近くが経つのね…」
その頃。
柊平は、如月家の前に居た。
「如月。ここが、あなたの生家(せいか)なのね?」
坂本 涼子(さかもと りょうこ)が聞く。
「はい…」
その日の朝。
朝食中の会話だ。
「如月。あなたの生家に行ってみたいわ」
「涼子お嬢様。それはダメです!」
「何で!?私、ぜひあなたのご両親に会ってみたいの!!」
「それはなりません!!」
「行~き~た~い~!!!連れてって~!!!これは命令よ!!!」
「──分かりました…」
そして使用人である柊平は、涼子を自分の実家に連れて来た…というわけだ。
“全然連絡してなかったからな…。怒られるかな──”
ピンポーン…
「あれ?居ないのかな?」
「如月。居ないの?」
「ええ。出て来ません」
帰ろうとすると、河村家から出て来る加代子と目が合った。
「──柊平!?」
柊平が頷(うなず)く。
「今までどこにいたの!?」
「それは…」
「柊平さんのお母様ですか?」
「はい。そうですけど…あなたは?」
「はじめまして。私(わたくし)、坂本 涼子と申します。この坂の上にある一軒家に住んでいて、柊平さんにはそこで使用人として働いてもらっています」
「『使用人』!?『坂の上の一軒家』って、もしかして…あの大豪邸(ごうてい)の?」
「まぁ…みなさんはそう言っています」
そう言って涼子は、ニッコリと笑って見せる。
「外では何ですから、狭(せま)くても良ければ、とりあえず中にでも…」
「お邪魔します」
そう言って、加代子の後ろを付いていく涼子。
「あっ!お嬢様!!」
柊平は、慌(あわ)てて約10年ぶりに自宅に入った。
「ご無沙汰(ぶさた)しております…」
「何が『ご無沙汰しております』よ!10年近くも連絡よこさないで!!」
「大学を卒業してバイト生活してたら、そこで涼子お嬢様に出会って…。そのまま──」
「如月…柊平さん、本当によく働いてくれるんですよ。お料理も上手だし」
「そうですか…」
安心したように加代子が言う。
「私…将来、柊平さんと結婚を考えているんです!」
「けっ…『結婚』!?」
柊平と加代子は、驚いて叫(さけ)んだ。
「お嬢様!冗談は止めてください!!!」
「如月!私は本気よ。だから、今日ココに来たの」
「本気ですか?」
「ええ」
“『お嬢様』と『使用人』。『結婚』なんて、考えた事無かった──”
「お母様お願いです!私達の結婚を許してください!!」
「まぁ…。涼子さん?がよろしければ──」
「ありがとうございます!」
「母さん!」
柊平はトントン拍子に決まっていく物事に着いて行けず、話題を変えようとした。
「そうだ!父さん!!父さんにも了解を得(え)ないと…」
「大丈夫!お父さんは5年前に死んだから」
「死んだ…んだ──。でも涼子お嬢様!私達は結婚どころか、お付き合いもまだ…」
「結婚は命令よ!分かった?」
「──分かりました…」
結局、2人は結婚を許してもらえた。
その夜。加代子から美有希に、柊平が婚約した事が告げられた。
「柊平お兄ちゃん、結婚するんだ。『必ず迎えに来る』って言ってたのにな──」
しかし、心は痛まなかった。
“私…やっぱり、冴島先生の事が好き。でも『先生と生徒』だし…”
万里は、美有希の事を考えていた。
「K&Bの時から見てくれていたなんて。これって、『運命』って言うのかな?」
“僕は、やっぱり河村の事が好きだ!オレは『教師失格』だな”
由起の家では、彼女が保健室での出来事を思い出していた。
“美有希の事が好き。でもバレたら──”
3人の思いが巡(めぐ)る。
でも、それぞれが本当の気持ちを伝えられずにいた。
“嫌われたくない”
ただただ、その一心(いっしん)だけだった。
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