第28話2つの心

2学期が始まった。

記憶を全て取り戻した美有希は、学校に復帰していた。


しかし…


「冴島先生!また河村さんが倒れました!!」

「河村さん!大丈夫ですか!?」

万里が美有希を抱き抱え、起こす。

「先生…」

「大丈夫ですか?」

「はい。大丈夫です…」

「安西(あんざい)さん。河村さんを保健室に」

「はい」

何故か美有希は、よく倒れるようになっていた。

やはり家族を失くしたショックからなのか──?


「河村さん?…寝てるのか…」

美有希は、保健室のベッドで眠っていた。

「河村…」

寝顔を見ていると、まるで子どものような寝顔だ。

“宿泊研修を思い出すな。やっぱり、可愛いな──”

自然に、万里は美有希に吸い込まれていく──。


「冴島先生。西山先生が呼んでましたよ」

そこに由起が入って来た。

万里は、慌(あわ)てて唇を離した。

「あっ!はい。分かりました!!!」

慌てて保健室を出て行く万里をゆっくり見守り、 由起はさっきまで万里が座っていた椅子に座った。


「美有希──」

そして、唇を重ねる。


「えっ!?呼んでないけど?」

「すみませんでした!」

保健室前で弘次を見かけ、万里が声をかけたが…。


再び保健室に向かう。

「渡辺さん。西山先生が…」

保健室に入ろうとすると、美有希と唇を重ねている由起の後ろ姿が見えた。

「──!」

“どういう事だ!?”

万里には、理解できなかった。

“ヤバい!!!”

由起が保健室を出て行く。

万里は慌てて隠れた。

“渡辺…。もしかして、河村の事を──?”

由起が出て行った足音を確認したかのように、美有希の目が開いた。



その夜。万里はまた健人の部屋に居た。

そして、自分のした事と、由起の行為を全て話した。

「──そりゃあ。『同性愛』なんて、今時(いまどき)はよくある話だからな」

「でも、信じられなくて…」

「まぁ…真面目な万里には『信じられない!』でも…な」

「──」

「それにしても、万里。とうとうヤッちゃったか!!!(笑)」

「兄さん!からかわないでよ!!」


「でも…。その生徒が嘘をついたのが気になるな」

「えっ!?」

「『見られてたかも』って事だよ」

「──!!!」

「明日にでも、聞いてみな。その生徒に」

「…分かった。ありがとう」



翌日。万里は、由起を相談室に呼び出していた。

「渡辺さん。あの…」

「何ですか?」

由起は、堂々とした態度で尋ねる。

「昨日…。何で『西山先生が呼んでる』なんて嘘をついたんですか?」

すると由起は、スマートフォンを取り出した。

「──!」

スマートフォンには、万里と美有希が映っていた。


「気付いてなかったんだ。バカだね、先生…」

「…」

「私から美有希を取らないで!!取ったら、この写真アップするから」

「渡辺さん…。もしかして、河村さんの事を…」

「好きだよ!悪い!?どうせアンタだって『気持ち悪い』って思ってるんでしょ!!!」

「それは…!!正直、アレを見た時は『信じられない』って思いましたけど!『同性愛はよくある事だ』って僕の兄も言ってましたし」

「『アレ』って…見てたんですか!?」

万里は、ゆっくりと頷(うなず)いた。

急に由起の顔が真っ赤になる。


「先生!美有希には黙ってて!!バレたら、絶対に嫌われちゃうから!!!」

腕を掴(つか)まれ、懇願(こんがん)されてしまう。

「分かりました!!その代わり、渡辺さんも黙っていてもらえますか?」

「じゃあ先生も、美有希の事…」

ゆっくりと頷き、言った。

「ええ。『教師失格』なんでしょうが。この気持ちは、もう止められません──」


万里の真っ直(す)ぐな視線を見、由起はスマートフォンの写真を消した。

「渡辺さん。良いんですか?」

「うん。先生のマジな気持ち、伝わったから…」

「渡辺さん。ありがとう…」

「お互い、頑張ろうね!」

「渡辺さん。『叶(かな)わない恋の可能性大』ですけどね」

「いや!先生は叶う気がする。頑張って!!」

そう言って、由起は相談室を出て行った。


「『頑張って』…か」

万里は、「先生は叶う気がする」という言葉を思い出していた。

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