第22話日記帳

「先生!美有希、日記書いてたはず!!」

そう言って、机をあさりはじめた。

「渡辺さん!さすがにそれは…」


「…あった!美有希、これ読んでみて!!」

1月1日からの日記帳だ。

事故の日から真っ白だが…。

「──」

しばらく読んでいくが…

美有希は、再び首を横に振った。

「でも…。これを覚えたら、何とか高校入学からは大丈夫だと思うよ?」

「そうですかね?」

心配そうな万里。


「でも、良かったよね。隣の如月さんが面倒見てくれるって」

「『隣の如月さん』?」

万里は、6月に美有希に言われた『隣のお兄ちゃん』の存在をずっと気にしていた。

「渡辺さん!如月さんのお宅に、河村さんとかなり年の離れたお兄さんは居ますか?」

「はい。12歳くらい離れてると思いますけど…」

“多分河村は、その人の事を言っていたんだ──”


「美有希!柊平お兄ちゃんの事は覚えてる!?柊平お兄ちゃん!!如月 柊平!!!」

「如月…柊平…」

涙がボロボロとこぼれてきた。

「美有希!思い出したの!?」

「お兄ちゃん…。美有希の事、早く迎えに来てよ…」

「河村さん!分かりますか!?」

「美有希!分かる!?由起だよ!!」

首を横に振られてしまった。

「柊平お兄ちゃんの事が分かって、何で私の事が分からないの!?」

由起が美有希の両腕を掴(つか)んで、揺さぶる。

「痛い…」

「渡辺さん!」

万里が由起を制止する。

「…渡辺さん。河村さんと知り合ったのは、いつですか?」

「小学校入学時です…」

「キサラギさんが出て行ったのは?」

「『小学校入学の少し前』…って聞いてます」

「じゃあ…。小学校入学前までの記憶は戻ったんですね──」


「そうか。小学校入学前までの記憶は戻ったんだな…」

「うん…」

その夜。万里は、健人に美有希の事を相談していた。

「多分、家族を一気に亡くしたショックで記憶喪失になったんだろうな。しかも『キサラギ』?っていう人がなかなか迎えに来ないから…」

「──」

「恋敵(こいがたき)、出現か!?」

健人がニヤリと笑う。

「え!?」

「だって…。『早く迎えに来て』って言ったんだろ?」

万里が頷(うなず)く。

「じゃあ彼女の初恋は、その『お兄ちゃん』じゃあないか!」

「兄さん。何だか嬉しそう…」

「ごめんごめん。…でも、とりあえず小学校入学までの記憶は戻ったんだから、徐々(じょじょ)に戻るとは思うぞ?何なら、病院紹介しようか?」

「いや!まだ良い。…ありがとう」

そう言って、万里は健人の部屋を出た。


万里も部屋に戻り、日記帳を開く。


《3月9日 今日は一般入学者選抜2日目だ。出勤してすぐに尾崎先生から「3組の担当をして欲しい」と言われ、“駐車場係だったのに…”と驚く。とりあえず3組で中学生を見ると、みんな真面目そうで、とても緊張している様子だった。『カワムラ ミユキ』さんに質問され、笑顔を向けられ、少しドキッとする。“みんな受かると良いな”と思った。》


《4月8日 誕生日。入学式。とても緊張した。でも多分、それ以上に生徒達の方が緊張しているはず。しっかりしないと!

夜、兄さんに恋の悩みを相談した。やっぱり兄さんは頼りになる。僕も、兄さんのようにしっかりとした人物になりたい。》


「万里ー、ご飯 よー!」

「はーい!」

愛鈴に1階から叫(さけ)ばれ、万里は日記帳を閉じ、机にしまった。

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