第19話でも、好き。

「ただいま~」

美有希は、家に帰るなり、すぐに部屋に入った。

そして、タイ語の曲をかける。

K&B(ケーアンドビー)の曲だ。

「冴島先生…」

名前を呼ぶと、少しだけ胸が熱くなる。

「これが…恋?」


ベッドに横になってみる。

数時間前に「よく頑張りましたね」と言われた万里の言葉を思い出す。

“先生は、私を認めてくれた…”

美有希の家族は、いくら勉強を頑張っても認めてはくれないが…。

「嬉しかったな…」

目を閉じてみる。

「…好きです。冴島先生…」

『like』から『love』に変わった瞬間だった──。



一方の冴島家では…。

部屋のソファーに座り、クラシックを聴きながら物思いにふける万里の姿があった。

“河村…”

万里は、初めて会った時からの事を思い出していた。

美有希の笑顔・柊平の事を思っている時の辛(つら)そうな顔・授業中の真面目な顔──。


「冴島先生」

「河村」


“愛しています”──。



翌日。

LHRが始まった。

結局、ショートドラマに決まった。生徒がシナリオや監督を担当しムービーを作り、文化祭の出し物で流す。

「じゃあ決まりましたね。シナリオは柴田(しばた)さん、よろしくお願いします」

「はい」

柴田は演劇部だ。シナリオはお手の物だ。

「じゃあキャスティング等は、シナリオが出来てからで良いですね?」

「はい」


午後から3者面談が始まった。

「次の方、お入りください」

“──って、河村か!!”

「はい」

美有希は、母親と教室に入って来た。

「よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「とりあえず…河村さんは、何も言う事はありません。成績も良いですし、品行方正そのものです」

「あ…ありがとうございます」

恥ずかしそうに、美有希が言う。

「しかし先生!美有希は友達が少ないでしょ?それは悪い所でしょ?」

「河村さん。友達が少ないのは悪い事ではありませんよ。何と言うか…『量より質』?というか…。同じクラスの渡辺 由起さんや1組の有森 加奈芽(ありもり かなめ)さんとも、ものすごく仲が良いですし」

「…」

「僕も、そんなに友達は多い方ではありませんよ。大丈夫です。それより、品行方正な所を誉めてあげてください」

「…はい」

母親は、ようやく納得したようだった。

“良かった…”


「時間…余っちゃいましたね」

「そうですね…」

「河村さん。どうしますか?」

万里が、美有希に尋ねる。

「先生…。緊張するし、もう帰りたい…です」

「そうですか。じゃあ、終わりましょうか。お母さんも、お疲れ様でした」

10分弱で終わってしまった。


“もう少し、一緒に居たかったな…”

万里は、そう思っていた。


“やっぱり冴島先生は、私の事を認めてくれてる。さっきだって、お母さんに「誉めてあげてください」って言ってくれた。──私…やっぱり冴島先生の事、信じてみたい!”

美有希も帰りの車の中で、万里の事を思い出していた。


“先生と生徒だけど…。でも、好きだ”

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