第27話 冒険者でギルド登録
「あ、あなた方は……ゴブリンキングを退けた……! ひょっとして『冒険者』になって頂けるのでしょうか!?」
そう言ってカウンターから乗り出してきたのは、妙齢の女性だった。小奇麗な制服、短く整えられた栗色の髪、髪と同じ色の瞳は期待と興奮に満ちている。
冒険者ギルドで受付嬢に開口一番、こんなことを言われるとは……
ちらり、と受付カウンターから目線を周囲に巡らせると、他の人達が十人十色の感情で様子を窺っている。
興味、羨望、不安、期待……なるほど、ギルドに入った時から感じていた視線は気のせいじゃなかったわけだ。
「ああ、そのつもりさ。悪い話じゃないだろう?」
お前、もうちょっと……こう、周囲を気にしろよ。ヴェルトラム。
ふん、と胸を反らして答える金髪碧眼の幼女だが、俺はそこまで図太くなれないぞ。同業——になるであろう、他冒険者の様々な感情が刺さっている。
そりゃ、あんな怪物を討伐したのが同業になるって聞けば注目を集めるか。
「……大歓迎です! 是非『冒険者』としてご登録ください!」
受付嬢さんもノリノリ。カウンターから前のめりで、褐色の瞳を輝かせて勧めてくる。
まあ、そりゃそうか。
あの怪物——HP4000オーバー、AT約5300の大鬼——を打破できる人材、冒険者ギルドとしては、喉から手が出るほどに欲しい人材だろう。
しかも他ギルドに所属していない。冒険者専業に出来そうとなれば、確保以外の選択肢はない。
ここ冒険者ギルドまでの道すがら、ヴェルトラムから『ギルド』についてレクチャーを受けた。
曰く、ギルドとは同じ業種の人達の互助組織である、と。
商業なら商業、海運業なら海運業、鉱業なら鉱業……そんな具合で、職種の数だけギルドがあると言っても過言ではない。
冒険者——便利屋とも言える——のギルド、そこでは健康で最低限の良識と常識があれば歓迎されるのだ。
さらに確かな実力があれば言うことはない。
自分達はそれらを満たしているだろう。
「ふむふむ、そうまで言われたら仕方ない。私達は『冒険者』となろうじゃないか」
「……おいおい、本当に大丈夫なんだよな?」
ヴェルトラムがこちらの問いかけに対し、軽く振り向いてウィンクを一つ。
まさにロリコン殺し、と言わんばかりの仕草だった。
「任せておきたまえ。悪いようにはしないよ?」
「……本当だな?」
信じたい……けど、色々とあって俺は十二回もゲームオーバーにされているからな。どうしても、こう、疑ってしまう。
そんなこちらの不安などどこ吹く風、自信満々にヴェルトラムが受付嬢に向き直る。
「では、ご登録のご説明に移りますね?」
「ああ、それには及ばないさ」
興奮のまま、逃してなるものかと迫る受付嬢を切り捨てるヴェルトラム。頬を紅潮させて、興奮のままに話を進めていた受付嬢さんが止まった。
「冒険者になるには……識別球によるチェックに、簡単な筆記と実技試験だろう? 私達なら、識別球と実技試験は必要ないんじゃないか?」
「それは……」
「識別球は、最低限のステータスをクリアしているかの確認。実技試験は、実際の現場で動けるかの確認。どちらも私達には必要ないだろう?」
最もだ。
確かにゴブリンキング——しかも、呪われて狂化していた——を撃破出来たなら、何の問題もない。識別球とやらも実技試験も必要ないだろう。
実際、ステータスは自分のスキルでいつでも確認が出来るしな。
「仰る通り……必要ないかもしれませんね」
受付嬢さんが流されそうになっている。自分達としてはその方が手早く済んでいいが、識別球とやらで、チェックを受けられないのは残念かもしれない。
ファンタジー御用達、不思議な道具でステータスをチェックするというのは、興味があったのだが……。
「おおっとぉ! ちょいと待ちなぁ!」
こちらの思考を破るかのような、大きな声が響いた。
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