第28話 ギルド長からの依頼
威勢のいい声で『待った』をかけた人物、それはカウンター向こう——ギルドの事務側——にある階段から響いてきた。階段を一歩一歩降りてくるようだが、音がかなり重い。
そして音が止まり、階段から覗いた人物は……女傑だった。
ウェーブがかかった紅い髪を乱暴に後ろにまとめ、来ているものもラフで動きやすい服装。縦にも横にもがっしりと締まって大きく、半袖から覗く腕ははち切れんばかりの筋肉を蓄えていた。
年齢は……多分だが、俺と同じくらいか? まあ体脂肪は明らかに俺より低いことだけは間違いないだろう。
「……ゾーイギルド長!」
ギルド長? この筋骨隆々で豪快そうな女性が?
冒険者とかプロレスラーじゃなくて?
こちらと目が合うと、ギルド長と呼ばれた女傑ゾーイさんが「ニッ」と快活な笑みを見せた。人好きする、豪快だが気軽に話せる雰囲気に満ちている。
「あー、盗み聞きみたいになっちまって済まないね」
そう言ってギルド長がこちらに歩いて来るが……大きい。
自分も身長は180㎝あったはずだが、それを軽く上回っている。筋肉もそうだが、胸もはち切れんばかりに主張していた。まあ、そのおかげで女性とすぐに見分けがついたのだが……
「いえ、構いません。ですが……その『待った』をかけた理由を……」
「ああ、そうそう。そのことなんだけどね、一つ条件を出したいんだよ」
自分達のカウンターに来て、覗き込むように話を続けるギルド長。受付嬢さんが席を譲ろうとしたが、手でそれを制して立ったまま話を続ける。
「ステータスも度胸も文句はないんだろうけど……いや、逆だね。あんたらのそれを見込んで『依頼』を受けて欲しいんだよ」
「うーん、不公平じゃないかな? 私達はまだ冒険者になろうとしている段階だよ?」
片目を瞑り、腕組で返すヴェルトラム。
とんでもねえ身長差だけど、こいつは引かなさそうだな。にしても、免除はこっちが通そうとしたわけだし、依頼次第では悪くない話に思う。
「わかってるさ。けど特別扱いを『はい、どうぞ』ってしちゃうのも、あたしらの面子に関わるだろ?」
「それは……」
「だから、折衷案さ。あんたらは試験等が免除になる。こっちもあんたらを認めて登録する」
筋は通っている。
あとは依頼内容と報酬次第だが、そもそも……
「その、受けたとして報酬とかは頂けるんですよね?」
思わず、口を突いて出た。受けるにせよ受けないにせよ、ここははっきりとさせておかなければならない。依頼を受けて『冒険者』になれるだけでは、割に合わないことも十分に考えられる。
「心配しなくていいよ、子連れのダンナ。これはあたしの個人的な依頼、報酬をケチったとなれば……ギルドもあたしも鼻つまみもんさ」
子連れのダンナ……いや、そっちは置いておけ。とにかく理不尽なただ働きは避けられそうだ。あとは依頼の内容だけど……
「じゃあまずは、依頼内容について詳しく聞かせてくれないかな?」
そう、それ次第だな。
「依頼は『冒険者の捜索』で場所はヘーレ坑道さ」
「ヘーレ坑道……ここファスタの鉱物資源を支える場所の一つだね。そして『冒険者の捜索』……なるほど、予想外のことが起きていることへの調査かな?」
ヴェルトラム……その、お前さあ……いいんだよ?
別に確信を突くのはいいんだけどさあ、もうちょっと、こう……駆け引きってか、やりとりをさあ?
「へえ……話が早いね。んじゃあ、遠慮なく仕事の話をしようか」
そう言ったゾーイギルド長の表情も変わる。
これまでは豪快で陽気だったのが、冷徹で隙がなく……例えるなら、眠っていた獅子が目を覚ましたかのようだ。
ああ……これ、大丈夫かな?
またやべえ状況になったりしないよな?
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