第22話 決着、そしてメスガキムーヴ
……勝った?
目の前に立ち塞がっていた大鬼はいない。後ろに倒れ、崩れていた橋から堀へと落ちていったのだ。
HP4000オーバー、ATおよそ5300の怪物に勝てた……のか?
ドクン、ドクン、と自分の鼓動がやけにうるさい。全身に心地よい疲労感が満ちている。これもただのゲーム、普通の『デイブレイク・ゲート』ではないということだろうか?
ゲームを始めたばかり——チュートリアルを終えたような段階——の自分たちが、あの怪物に勝てたのか?
その疑問のままに崩れた橋の先まで行き、その下……堀を眺めると、巨体が光に消えるところだった。ゴブリンキングが光になって消えると、質実剛健なマントと漫画的な王冠だけが残る。
終わった、勝った!
そう思った瞬間、言いようもない達成感が全身に満ちた。
大きく息を吸い込んだ後、すべて吐き出す。と同時、膝が折れて座り込むことになってしまった。
だがそれよりも、ある一つのことが胸を占めていた。
ようやく……ようやく、このゲームをまともに始められる!
苦節十三回目、理不尽と不条理で阻まれ続けた状況に穴を空けることが——ようやく、ようやく出来たのだ!
「……大丈夫ですかぁー!」
離れた場所から声が聞こえてきた。肩越しに振り返ると、城門が開いている。そしてそこから出てきたのだろう。何人かの男の人達がこちらに駆けよってきているじゃないか。
……門の向こうからの援護はどうしたんだ? お前ら。
真っ先に恨み節が出てきたが、まあ水に流すのが大人の対応だろう。とにもかくにも、休む場所に飯に……色々と必要なものがあるのだ。
いや、それ以前に飯や睡眠とかは必要になるのか?
「お疲れ様、要くん! お見事だったよ!」
ひょっこりと、城門や駆けつけてくる男たちを隠したのは金髪碧眼の幼女ことヴェルトラム。
「……ああ、マジで疲れた。けどこれで大丈夫だよな?」
「もちろん、百点満点さ!」
こちらの返答を聞いたヴェルトラムは、天使そのものの微笑を浮かべて答えた。本当に姿形はいいんだよこいつ。
あの白い部屋であった時と見た目は変わらない、天使だろうと妖精だろうと納得出来てしまうくらいに整っている容姿だ。
「うん、彼らへの説明は私が承るよ。君はそこで休んでいると良い」
「ああ……悪いけど頼むわ」
視線を前に戻すと同時、片手を上げてひらひらと軽く振っておく。
映るのは誰もいない草原、崩れた橋、それだけだった。さっきまでゴブリンの軍勢が押し寄せ、それを追い詰めていた大鬼ゴブリンキングがいた場所。
俺が……『デイブレイク・ゲート』で初めて勝てた場所、か。
柄にもなく感慨深くなる。まだゲームは始まったばかり……いや、ようやくまともに始められたからこその感慨だろう。
最初のゲームスタートから『理不尽』の一言に尽きる状況ばかりだった。
「……あの、申し訳ありませんでした。城門を開けずに……バリケードも中で築いていたもので……」
「いやいや、あの状況では仕方ないさ。私達も気にしていないよ」
ヴェルトラムと『ファスタ』の町から出てきた人たちとの会話が届く。微かだが、内容を判別できる程度の音量で聞こえてきた。草原も橋の上も、それ以外はそよぐ風の音色以外ないせいもあるだろう。
……ヴェルトラムも大人の対応をしてくれていることに安堵を覚える。
「しかし……あなた方は何者なんですか? あの、異様なゴブリンキングを二人で倒してしまうなんて……」
「いや何、ただの旅の者さ」
ゲームとは言え、そう言う部分はやっぱり疑問を持たれるんだな。
まあ、NPCでも非常に高度に構成されているらしいし……流石は約束された神ゲー、『デイブレイク・ゲート』。
いや、今はかなり異常な状況だろうが……それでもそれが元になっていることに違いあるまい。
「ただの旅人って……とてもそれだけとは……さぞ名のある剣士様と魔術師様では?」
こう、何というか……ゲーム内と分かっていても、そこまで持ち上げられるのはくすぐったい。というか、他人にそうまで称えられるなど何年ぶりだろう?
「強いて言うなら……あれはこの私『妖精姫ヴェルトラム』の下僕だからね。あのくらいは当然さ!」
その言葉を聞いて、いや、もはや反射の勢いで立ち上がって反転し駆け出す!
てめぇぇぇぇぇぇぇぇ! 何言ってんだ、このメスガキィぃぃぃぃぃぃ!
「あ、ちょ! 待った! 要くん、待ちたま……ひぃひゃい! ひゃふぇへぇ!」
金髪碧眼の、天使のような少女への間合いを詰めると同時に両頬をつねり上げてやる!
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