第21話 攻略完了
……もう何度目か、目の前の大鬼に通常攻撃を叩き込み……ここ、三セット目の袈裟切りで止めてやる。これでまた麻痺が解けたゴブリンキングが動き出すはず。
こちらの予想通り、ゴブリンキングが動き出す。しかしそれは、これまでの動きと違った。
……両手持ちで、横に構えた!?
今までの振りかぶってからの唐竹割と違い、胴を捻って怨嗟の巨刀を巻き込むような構え。そこから繰り出される攻撃は一つ、薙ぎ払い。
対して、こちらが出来るのは『鋼体化』による防御のみ……いや、違う!
背筋に伝うヒヤリとした感覚、それに従って『鋼体化』と同時に全力で重心を落とす! これはただ単に、相手を切り払うだけじゃない!
雄叫び、そして薙ぎ払いが放たれる!
地とほぼ平行になった刃がこちらの左側面に当たる——と同時、地面から除けられるような力がかかってきた。真横に吹っ飛びそうになるのを必死で堪える。
こいつ、俺を橋から叩き出そうとしてやがる……!
刃は『鋼体化』で通らないが、それにかかった力は違う。
今までの振り下ろしなら、地面に立っているだけで良かった。けど、この薙ぎ払いは違う。横方向の力のため、自分が踏ん張らなければ運ばれてしまう。
いや、そうなるように目の前の大鬼は巨刀を振るっている!
自分を切り捨てるというより、ぶっ飛ばしてこの橋からどけようと……テメェ、だから狂化してるはずだろ!
何でこんな、的確な行動を……ふざけろ!
意地と根性で耐える!
全霊の踏ん張りを石造りの橋に伝える!
刃が当たっている左肩あたりを盾にして対抗する!
持っていた大剣も駆使し、自分を除けようとする無骨な刃を全力で押し返す!
ここで俺が橋から落ちたら……詰みじゃねーか!
ヴェルトラムじゃこの大鬼に相対できねえ! 城門だってこいつの前じゃ破られる!
恐ろしいほどの腕力で自分の身体が徐々に運ばれていく。石とコンクリートで作られた橋の上を、ズリズリ……とブーツを擦られていく。
段々と、自分の体が浮いてくるような感覚が——やべぇ、足が地から離れたらマジで橋の外に放り投げられる。
かといって、このまま耐え続けてもダメだ。『鋼体化』が解けた瞬間、真っ二つにされてしまう。
何か、何かねえか! 何でもいい! とにかく今は踏ん張るしか……「耐えるな! 飛ぶんだ、要くん!」
背中によく通る声、それに従って踏ん張るのを止める。
狂気に満ちているはずの大鬼が笑みを浮かべ、巨刀を振り抜いた。自分の体が宙に舞った。
子供が適当に放り投げたゴム毬みたいに、橋の上から空中へ。
「行け! 突撃あるのみだよ!」
スキル:飛天の御業
高空跳躍の取得、及び——それを生かした特技の習得。さらに!
中空で軽く体制を整え、巨刀を振り抜いた大鬼に向かって空中跳躍!
コマンド、特技『疾空斬』!
通常はあり得ない、空中疾走を生かして特攻する特技。ジャンプ後や滞空中でも、相手に突進して強力な一撃を放つ。
飛天の御業のもう一つの切り札——それは空中跳躍と、それを活かした特技の習得!
ゴブリンキングに中空からの一撃を食らわせ、バックステップで間合いを取る。
予想外の一撃だったせいか、緑の巨体が怯んでいるようだ。さらに追い打ちと言わんばかりに、これまでよりも一回り大きな火球が大鬼の顔面に叩き込まれた。
ヴェルトラムの渾身の魔術だろう。
けどまだだ!
乱暴に頭を振って、爆炎と粉塵を振り払う大鬼。一気に間合いを詰め——特技『衝破一閃』!
踏み込みに体の捻り、そして渾身の腕力を込めた剣閃を叩き込む!
大鬼の、マントをまとった緑色の巨体がぐらりと揺らぐ。淀んだ瞳に微かに残っていた光が消えた。
ゴォン、と手放された巨刀が石造りの橋に転がり鈍い音を奏で……それが試合終了のゴングだったかのように、ゴブリンキングが後ろに仰け反って倒れてゆく。
その先にあるは、かつて橋があった空間。
下には水が張った堀が広がっている。
そのまま自重に逆らわずに橋から……王冠を被った頭から、堀へと落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます