第5話 さあ、始めよう
漆黒が切り替わると、草原に佇んでいた。
見渡す限り緑の絨毯、踏みしめる自然の感触に僅かに届く草の香り、頬を撫でる風、どれをとっても現実としか思えない。この胸に満ちる爽やかさも同様で、年も状況も忘れて駆け回りたい衝動すら湧いてくる。
しかしそれは後回しにしなければならない。
「ユーザーネームやアバターがいらないから、ユーザー登録やキャラクリなしは分かるけど、チュートリアルすらなしってなんだよ……」
近くに町や村、城のような人工物が全く見当たらない。ひたすらに広大な緑の自然が広がっていた。地平線には山脈やらが見えるがどうしたものか……
最初は街中から始まって、そしてそこでいろいろ学ばせてくれるのが筋というものだろう。たしかにクソゲーならいきなり放り出しも「あるある」かもしれない。
だが『デイブレイク・ゲート』は、世界ダントツのシェアを持つ『ミスミトス社』が社運を賭けて開発したという、約束された神ゲーだぞ?
こんな……『現代でも残っていた!』と言われそうな大自然に放り出されても、どうしようもない。
「差し当たってどうするか……そういや装備とかアイテムとか用意してるって言っていたけど……」
ふっ、と突然影が落ちる。
なんだ? 雲でもかかったか?
空を見上げると、巨大な一つ目が俺を見下ろしていた。
正確には一つ目の巨大な頭が空を覆い隠していたのだ。当然、そいつには胴体もあって手足もある。
要するに……空を覆うくらいの一つ目大巨人が、俺をじっと見下ろしているのだ。
ごくり、と唾を飲んで改めて巨人を眺める。真紅の一つ目に青い肌、筋骨隆々とした身体、十何メートルあるんだと聞きたくなる巨体、どう見ても雑魚モンスターじゃない。
どころか、序盤のボスや中盤の強敵くらいなら軽く撲殺できそうだ。
まさにダンジョン奥の大ボスに相応しい見た目と威圧感……全身が、総毛だった。
あっけに取られてみていると、巨人が右手を上に振りかぶった。
手の形はグーに握られている。
……おい、あれを振り下ろすんじゃないだろうな? 冗談だよな?
心の中で問いかけようとも通じない……いや、ある意味でこの上なく通じているのかもしれない。
一つ目が片時も離れずに俺を見つめている。まさに『叩き潰す』と言わんばかりだ。目は口程に物を言うというが……振りかぶった右拳、それを確実に俺に当てようとしているのが分かってしまった。
全身から冷や汗が噴き出してきた。
やべぇよ、やべぇよ……こんな、チュートリアルもしてない段階で出会っていいモンスターじゃねぇだろコレ!
初心者セット……あってもどうしようもないだろ!
ユニーククラス……でもレベルが1!
どうにもなんねえだろ!
詰んだ、完全に詰んでやがる! ゲームオーバー確定じゃねぇか!
いや、待て! そうだ、まだ切り札がある!
スキル! もらった特別なスキルとやらを使えば……どんなスキルだよ! どう使うんだよ!
「おい、待て……待ってくれ!」
思わず声が出たが、巨人には関係ない。
いや、それどころか……まるでそれが合図と言わんばかりに、無慈悲な死の怪力——振りかぶっていた巨人の拳——が振り下ろされた!
あ! ひょっとして、これ負けイベ(ry
そして、再び漆黒に閉ざされる。
また闇が、波打った気がした。
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