第3話 とある幼女との邂逅

 目を覚ますと、真っ白な空間に座っていた。



「何つーか、殺風景極まりねえな」

 右も左も前も後も、上下ですら真っ白しか存在を許さない空間。あるのはどこまでも続く純白の床のみ。天井も壁も見えず果てしない。


「んで、最初はユーザー登録か? それともキャラクリエイトか?」

 そう言ってみるが……返ってくるのは静寂のみ。そして見えるのは純白のみ。


「……おい、どうなってんだよ。早く始めろよ」

 ふつふつと嫌な予感がしてくる。脳裏に浮かぶのは『初期不良品』、『マシントラブル』という言葉。不吉にもほどがあるそれを必死に追いやり、周囲を見回すが何も変わらない。

 全身に嫌な汗が満ちてくるような感覚、血の気が引いてきた。


「マジかよ……70000円(税抜き)だぞ? 現実なんかに戻れなくても別にいいけど、ゲームが出来ねえのは勘弁してくれよ」




「おやおや、これは驚いた」




 唐突に声を掛けられる。

 驚いて振り向くと、白しかなかった空間に子供が一人立っていた。

 長い金色の髪を青いリボンでまとめつつ後ろに流し……ハーフアップ? っていうのにしている。瞳はリボンと同じ空色で、肌は陶器を思わせるほど滑らかで白い。顔立ちは著名な彫刻家が理想を詰め込んだかのようだ。

 だがなにより目を惹くのは……


 女の子? しかもこの格好、コスプレ?

 今時コスプレ店でしか見ないような服……各所にフリルを飾ったゴシック調の服をまとっている。

 いや、逆にゲームこと『デイブレイク・ゲート』のキャラなら全然納得か。




「初めまして、君の名前はなんていうのかな?」




 それにしても……すげぇ! めっちゃリアル! 現実と見分け付かねぇ! しかも名前入力から粋な演出してくれるじゃねえか!

 これはまさに『今、冒険が始まる……!』の一言だ!


「あ、ああ。藤栄要だ」

 これは70000円(税抜き)も納得ですわ。



「うん、要くんか……む? ああ、そうか。無理もないね」



 うん? 無理もないか……って、なんだ?

 これはひょっとして、先に襲撃イベントからチュートリアルバトルが入るパターンかもしれない。そして物語に没入してから、名前の入力が始まるやつか。


 何やら『うんうん』と頷いている幼女を見て、そう予想を付ける。俺のゲーム遍歴がそう告げていた。



「まず初めに断っておくけど、『これ』は普通の『デイブレイク・ゲート』じゃないよ」


 ……はい?

 わくわくとときめいていた胸ごと、ぴしゃりと止まった気がした。


「そうだね。『君はバグに巻き込まれている』と、こういった方が分かりやすいかな?」



 バグって……あのゲームの進行が出来なくなったり、ステータスがおかしくなったり、マップが乱れたりするあれか?

 え、なに? 初期不良品? 当たっちゃった?


「まあ、似たようなものかな? 普通だったらユーザーネームを入力して、キャラクリエイトに精を出しているはずさ」



 ファッキン! いや待て、これも演出ってセンは……



「残念ながらそれはないよ。本来の『デイブレイク・ゲート』には、私のようなキャラは存在しないから」


 ……うん? じゃあこの子は何なんだ? バグってこの子のことか?

 そうだとしても、自分からバグだなんだって説明するか?


「簡単に言っただけで、明確にはバグとは言えないのさ。さて……詳しく説明するとだね?」


 出来るだけ手短かつ簡潔にして欲しいな。早くゲームやりてえんだ。


「分かったよ。せっかちな人だなぁ」

「……て、あれ? さっきから俺、声に出してないよな?」

「それも置いといていいよ。さて、まずは……私が何かってところからいこうか」

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