第2話 デイブレイク・ゲート

 そして翌日、前哨戦ということで昼間からビールを嗜んでいた。ビールなどという嗜好品、いつ以来だろう?

 いつもは発泡酒とかストロングゼ〇で酔っぱらっているのだ。しかし今日、ついに待ち望んだそれが届く。これくらいの贅沢はいいだろう。



『ピンポーン』



 適度に酔いが回った頃、宅配便でそれが届いた。聞き慣れた安アパートのインターホンが、天使の角笛でもあるかのように感じる。

 宅配便のお兄さんとの対話、そして受け取り印と荷物を交換する。この荷物が、自分が生涯をかけて楽しもうと思っているものだ!


 その正体は……


 本日発売! VRMMORPG【デイブレイク・ゲート】。

 広大すぎる世界、それぞれ特色がある国と文化、様々な種族と職業、剣と魔法……だけではない。ゲーム内の時間が進むと文明も進み、アイテムや建物や魔法も進化していく! しかもそれはNPCにも適用されており、信頼を築くも敵対するも自分次第!


 そして『デイブレイク・ゲート』を駆けるは全世界のプレイヤー!

 聞き取る言語は自分たちの母国語に自然翻訳されて届き、自らが発する言語が相手に届くときも同様!

 これによってゲームをプレイするすべての人達と語り合うことが可能。協力していくも良し、対戦し競い合うも良し、逆にソロプレイを極めるも良し!



 何よりこのゲームのポイントは、自分自身で自由自在に動けるというところにある。



 簡単に言えば、自分の精神をVR空間に飛ばして出来るゲームである。もちろん、本当の自分ではなく自らが作ったアバターでプレイする。そのアバターはこちらの思考とリンクしており、好きに動くことが出来る。

 当然、キャラクリエイトも完備。

 現実の自分そのまんまとかどんな罰ゲームだ。冗談じゃない。



「ようやく、現実が創作を追い越してきたって感じだよなぁ」

 独り言ち、宅配便から受け取った段ボールを開ける。中にあったのはボウリング球をすっぽり包める程度の箱、それを開いて取り出したるは……ヘッドセット。


「あとは簡単。自宅のネットと同期させて……これを被るだけ、と」

 そう、これはパソコンすら必要ない。

 本体ことヘッドセットとネット環境さえあれば、誰でもどこでも没入してプレイ出来る最高のゲームなのだ。

 することもその環境のネットを本体に同調させるだけ。



 俺はこれに一生を捧げる気だ。

 どのみち現実ではどうやっても浮上できない。ならば少しでも楽しく遊んで、好き勝手に生きてやる。そのために一日一食だけでしのぎを削ってきた。白米やパスタに醤油や塩のみで……時には食パン一斤で一週間を乗り切ったこともある。


 とは言え『デイブレイク・ゲート』の定価(税抜き)は70000円。いくら節約しようと、本来なら自分がおいそれと手を出せる代物じゃない。


 そこは発売記念キャンペーンに当選するという『本当に自分の人生の出来事か?』と言いたくなる幸運に恵まれたのだ。

 こうして定価(税抜き)70000円が半額——35000円となり、頑張れば自分にも手が届く値段になった。


「いや、マジで開発の『ミスミトス社』は神だな」


 さらにさらに!

 手始めとして今日一日はこれをやりつくす。そのために日々の糧である仕事も休んだ!

 これまでの精勤は今日! 今! このためにあったに違いない!



「……いよいよだぜ」



 こんなに緊張するのはいつ以来だ?

 あとは五秒間目を閉じれば、意識がVR空間に飛ばされてゲームスタートだ。初めはユーザー登録やアバター作成とからしい。その後は操作方法やらのチュートリアルだろう。




 では、いざ『デイブレイク・ゲート』の世界へ!

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