デイブレイク・ゲート! メスガキAIからもらった十二のスキルを駆使してゲーム世界に挑め! 負けるな、三十路の負け組!

蟹野 康太

第一章

第1話 藤栄要

「まあまあ……私の不調もあるとはいえ、君は本当についてないねえ。これで何度目か覚えているかな?」

 目の前にいる少女……いや幼女が困ったような、楽しんでいるような表情で話しかけてくる。こうして対面するのももう十回を超えているはずだ。



「知らねぇよ」

 目の前にいる——金髪碧眼、天使のような——幼女を睨みつけて答える。

 こんな子供相手に不機嫌を隠さずに睨み付けるなんて……大人気ない30歳だな、と思うかもしれない。しかし十回以上、理不尽に殺されれば無理もないと思う。



「次で十三回目さ。それとも、いっそ諦めちゃうかい?」

 ということは俺の死亡回数こと、ゲームオーバー回数は十二回ということか。これまでに獲得したスキルも十二個……これで全く進んでいないのだから泣けてくる。

 それでも諦めるという選択肢はない。


「ふざけろ、誰が……」

「そう言うと思っていたよ。けど、残念ながらこちらも品切れさ」



 あっけらかんと、当然とでもいうばかりに目の前の幼女が言った。肩を竦めるが、その仕草が非常に愛らしい。紳士の皆様にはたまらないことだろう。


「はぁ? そんな……」

「まあ、最後まで聞きたまえよ。よって、とびっきりのプレゼントをあげようじゃないか!」


 パチリ、と軽くウィンクしつつ提案する幼女。

 これまた紳士の皆様は熱狂するな、と確信を持てる。


 なんでこんなことになっているんだか……

 誰に言うともなく、こうなった経緯を思い出す。










「あー、今日もかったるかったわ」


 そうぼやきながら帰り道を歩く俺、藤栄ふじえかなめ

 いじめっ子のヤンキーに軽くやり返したら、何の因果か転んで窓ガラスにダイブさせてしまった元男子高校生(30)。


 結局そのヤンキーは出血多量で運ばれ、後遺症が残ったという。そんなこんなで学校を辞める羽目になり、その後も色々あって底辺人生。

 薄給激務のブラック企業勤めの30歳。


「別にいじめっ子なんだからいいじゃねえかよ……つか薬物反応出たんだから、学校も辞めさせることないだろうが」

 そう。本来なら賠償やらいろいろと厄介なことになったのはずだが、当のヤンキーには変な噂が絶えなかった。しかもその後の事情聴取で、発言が支離滅裂だったらしい。


 結果として、相手側から薬物反応も検出されたこともあって正当防衛となったのだが……面子やらを気にする学校側のおかげで自主退学となったのだ。


「はぁ~あ……」

 ため息をつこうが状況は変わらない。

 高校中退、しかも退学理由が退学理由なだけに就ける職など知れている。いや、その後も不幸と不運が、手と手を取り合ったかのような出来事が続いたのも大きいか。

 別の高校に編入しようと試験を受けに行く途中でバイクに轢かれる。どうにか就職できたと思ったら、次の日にはその会社が脱税発覚で倒産……等々。




 今はどうにか滑り込んだブラック企業で、毎日の生活費に苦労しないのが救いか。

 ……あとは、後輩には恵まれているってことくらいだ。




「けど……」

 明日は違う。何故ならずっと楽しみにして、生涯を捧げようとしていた物が届くのだ!

 ただでさえ余裕がないはずの生活、それをさらに切り詰めて金を溜めたのもすべてはこのため!


「さ、帰って飯食って風呂入って、明日『あれ』が届くのを待つだけだ」

 自分の人生などすでに知れている。

 ならばその中でも、自分なりに楽しんで野垂れ死んでやろうじゃないか!

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