ドキドキの二択です……!
シルヴィオは私を乗せたまま、その場でくるりと一回り歩いてくれた。おぉ、やっぱり平気だ。それどころか、振動もほとんど感じない。魔法ってすごいなぁ。
「で、どっちに行きます? エマ様が決めてください!」
「えっ、どっちって言われましても!」
乗り心地に感動していると、元気にそんなことを言われてしまって戸惑う。エマ様が決めたのならオレも文句は言いません、とのこと。え、ええ?
「それは助かるな。エマ、すまないが行先を決めてくれないか。幻獣人様が封印されているのは迷いの火山と風鈴の渓谷だ」
つまり、先に向かうのがどっちかを私に決めろ、ってことだよね? ちょ、ちょっと責任重大じゃないですかね? どっちでもいいとは言っているけど、ドラゴンの方にしてくれという圧をそこはかとなく感じるのですが!
そんな私の戸惑いを察知したのだろう、フードの下でアンドリューが眉尻を下げた。
「出来ればという希望でしかないから、本当に気に病む必要はない。どのみち解放するのだからな」
フォローされればされるほど圧を感じる私は捻くれているのかな?
うぅ、これで違う方だったら居た堪れないよ。きっとまたフォローしてくれるってわかるもん。仕方がない、私のせいじゃないって。それはそれで申し訳なさが増すやつでしょ? 私は知っているのだ。
とはいえ、ここで時間を使うわけにはいかない。早起きの意味がなくなっちゃう。迷いの火山か、風鈴の渓谷か。山か谷ねぇ……。うーん。
「じゃ、じゃあ……迷いの火山、で」
「よし、ではまずはそちらに向かおう。シルヴィオもそれでいいな?」
ドラゴンというイメージからいって火山かな? って思っただけです……! あとは、火山なんて危険な場所、先に行って済ませたいという思いもある。
ただ、すでに違ったかも、なんていう嫌な予感でいっぱいだ。もう言ってしまったからなるようにしかならないんだけど!
「大丈夫ですよ。オレはエマ様に対して怒ったり責めたりは決してしません。火山にいるのがリーアンだったらヤツを蹴り飛ばせばいいだけですもん」
それはそれで怖いんですが!! ほんと、どんな人物なの、リーアン!? というか、なんの幻獣人なのかも知らないんだけど、教えてくれませんかね?
でもすぐに言い出せないコミュ障な私。自分から改まって発言するのってものすごく勇気がいるんだよぉ。
いやぁ、後でわかることではあるし、わざわざ今聞いて彼らを煩わせるのもな、とか考えちゃうんだもん。でもここ最近は頑張って聞いている方だよ? ……たぶん。
「じゃ、早速向かいますよー! アンドリュー、のんびりしていたら置いていきますからね」
「ああ、必死でついて行くさ」
シルヴィオが前足を高く上げて嘶き、アンドリューが背から羽をバサッと広げる。その姿があまりにもファンタジーで、思わずわぁ、と小さく歓声をあげてしまった。
まだ陽が昇り切っていない薄暗い空に、アンドリューが勢いよく飛び立つ。あはは、この前はこんな風に上昇していたんだぁ。あの時の恐怖が蘇って軽く腕をさする。
「さ、走りますよ!」
「お、お願いします!」
いよいよ向かうんだね。迷いの火山に! ドキドキしながらシルヴィオの首に手を置くと、グンッと身体が引っ張られるような感覚と共に、勢いよく景色が動き始めた。最初からかなりのスピードだぁっ!
でも、風は髪がそよ風程度に靡く程度にしか感じない。通り過ぎる景色は目で追えない程なのに、安定感は揺るがないのが不思議な感覚だった。
だけど、不思議と怖くはない。なんだろう、ちょっと馴染みのある感覚なんだよね。
振動を感じながら映像を見ているような。遊園地とかでそういうアトラクションあったよね? あとは新幹線に乗っているような、そんな感じが近いかもしれない。スピード感はわかるけど、安心っていうか。
まぁ、どちらも体験したことがあるかどうかは覚えていないけれど、知識としてはある。
「怖がらないのですね?」
走りながら、シルヴィオが楽しそうに聞いてきた。かなりのスピードで走っていると思うのに、まだまだ余裕な様子だ。
「え? ああ、はい。すごく安心感があるから。シルヴィオのおかげです」
「そう言ってもらえると嬉しいですねぇ。ふふ、前の聖女様も怖がらなかったのですよね。似たような乗り物があの方の世界にあった、とかで」
前の聖女様……。もしかして、私と同じ世界から来たのかな。たったこれだけのヒントじゃなんとも言えないけれど。
「そういえば、エマ様はどことなくあの方にも似てらっしゃいます。同郷なのですかね?」
お、ヒントが増えた。私と似ているってことは、国も近い可能性が出てきたね。他の国の人からすると日本人って同じような顔に見えるって言うし。
まぁ、それでも似た世界の似た国ってこともあるだろうけど。
「可能性はある、と思います。あの、いつかもっと聞かせてもらえますか? 前の聖女様のこと」
「もちろんです! オレ、彼女の世界のことも色々聞かせてもらったので、結構詳しいですよ!」
これだけ慕ってくれたら、あれこれ話しちゃうのもわかるな。知ったからって何かがあるわけじゃないけど、私と同じ境遇でこの世界に来た人のことを聞いておけば、いつか何かの参考になるかもしれないよね。
色々と不安だらけだったけど、少しだけ楽しみが出来たかも。小さな声で「ありがとう」と呟いたけれど、シルヴィオには聞こえなかったかもしれない。
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