二人目の幻獣人を解放しました!
火山が近付くにつれてかなり暑くなってきた。聞けばその火山は常にマグマが吹き出しているような活きのいい火山らしい。……近付いたらダメなヤツぅ!?
「少々毒を吸い込んだりマグマに触れたくらいでは問題ないぞ」
「そうですよー。オレたちを誰だと?」
「いえ、私が無理なのですが!!」
普通の人間を獣人たちの基準で考えてはならない。決して! 慌てて主張すると、一瞬ぽかんとした表情を浮かべてからアンドリューがポンと手を打った。
「そうだったな、すっかり忘れていた。エマ、これを使ってくれ」
とても大事なことなので忘れないでもらえるとありがたいです。もちろん、本人には言えない小心者な私……。
アンドリューは腰に下げていた袋から首飾りのようなものを取り出した。チェーンに透明な石のペンダントトップがついているみたい。
あ、これって魔石? ひょっとして何かの魔道具なのかな。聞いてみると、身に着けている者を覆うように薄く結界が張れる魔道具だそう。そんな物まであるんだ。すごい。
「アンドリュー? その魔石の魔力、空っぽなんですけどぉ」
「問題ない。お前がいるからな」
しかし魔力が空っぽだった。石に注目してみると、確かに光ってないみたい。教会の結界箱を最初に見た時の状態だ。
シルヴィオは半眼でアンドリューを睨みながら、彼が持つ首飾りの魔石に口を近付ける。そしてそのままあっという間に魔力を補充してくれた。仕事が早い。
アンドリューは苦笑しながら助かる、と声をかけつつ、首飾りを私に手渡してくれた。ほんのりと石が光っているのが見て取れる。
「エマ様のためですから、もちろん魔力の補充はしますけど! 今度そういうやり方をしたら二度とアンドリューの話は聞きませんからね」
「ああ、わかった。今回は時間がなかったんだ。すまない、もうしない」
ただ働きをさせられた、って感じになるのかな? 時間がなかったのなら仕方ないけど、シルヴィオが脹れっ面になる気持ちもわかる。
そもそも、脆弱な私のせいで無駄に衝突させてしまったんだよね。申し訳なさでいっぱいだ。ごめんなさい。これだから私に聖女は無理なんだって……。でも道具があるのは助かります。
私は素直に首飾りを身に着けた。その瞬間、ふわりと全身が何かで包まれたような感覚を覚える。目には見えないけど、守られている感じがあるのがまた不思議。二人に出会ってから、こういった不思議現象でいっぱいだな。
私の身の安全が確保されたところで、さらに火山の奥へと向かう。
進めば進むほど、道が悪くなっていくなぁ。足元で突然プシューッと蒸気が上がったり、マグマが川のように流れていたり。生身だったら倒れているところだ。
結界で守られているとはいえ、不安なので早いところこの火山からは立ち去りたい。
そうして辿り着いたのは、切り立った崖の先端のような場所だった。そこに大きな縦長の岩が立っている。
ちなみに、もう数歩先に進んだら落下だ。ここから落ちたら何度人生を振り返ることになるかわからない。落下地点にはマグマの川があるし。な、なんでこんなところにあるのぉ? 泣きそう。
恐怖に震えていると、シルヴィオがユニコーンから人型へと姿を変えた。私を横抱きにした状態で戻ったシルヴィオは、そのまま岩の前まで歩を進める。
ひぃ、崖の下が見えるぅ! ついガシッとシルヴィオの首筋にしがみついた。
「オレがついていますから大丈夫ですよ、エマ様。こんなにも強く抱きしめられて、オレとしてはとても嬉しいのですけど」
耳元で囁くようにそう言われて自分が大胆なことをしてしまっていたことに気付く。あわわわわわっ!?
「ひえっ、ご、ごめっ!!」
「オレは嬉しいんですってば。ふふっ……可愛い」
慌ててシルヴィオから離れると、至近距離に美しい微笑みがあって余計に顔が熱くなる。こんな時、どんな反応をしたらいいのかわからなくて、はくはくと言葉にならない声が吐息となって出ていく。ひぃん!
シルヴィオはクスクス笑いながらも私をゆっくりと下ろしてくれた。なんか、からかわれてない? もうっ!
久しぶりの地面と、シルヴィオから離れられたことにホッと一息つく。それから出来るだけ崖の下を見ないように恐る恐る岩に近付いた。
「えと、触れるだけでいいんです、よね?」
「それは貴女にしかわからない。だが、シルヴィオの時もそうだったのなら、それで大丈夫だろう」
確認のため、一度後ろを向いて聞いてみたものの、アンドリューにもわからないらしい。シルヴィオも肩を竦めていることから、わからないっぽい。
うーん、前の時も別に特別なことをした覚えはないから、とりあえず触ってみようかな。うまくいきますように……!
私は手の甲に紋章のある右手を伸ばし、岩に触れた。
その瞬間、岩が眩く光り出し、ブワァッと風が崖の下から吹き上がった。風の勢いが強すぎて、私の身体が浮き上がる。こいのぼり再びぃ!? 嘘ぉ!?
でもすぐに側にいたシルヴィオが抱き寄せてくれた。た、助かったぁ。
岩からはシルヴィオの時と同じように光の玉がポーンと飛び出した。水色と朱色がマーブル模様に混ざり合った不思議な色をしている。
光はすぐにその姿を変え、大きな鳥のシルエットになっていく。尾羽が長く、とても美しい。……でも、あれ? 鳥?
ギギギ、と錆びたロボットのような動きで私を抱き寄せるシルヴィオの顔を見上げると、彼はもう片方の手で額を押さえていた。や、やっちゃった、よね?
「頭ハッピー鳥野郎……」
シルヴィオがボソッと呟いたと同時に、大きな鳥はキィィと甲高い声で鳴き、私たちの側に下りてくる。地面に降り立つとともに、それは人型へと変化した。
水色から朱色へと変化していく癖のある髪は、襟足部分が長くてまるでさっき見惚れた尾羽のよう。褐色の肌、口元には八重歯を覗かせ、ややたれ目で朱色の瞳がウキウキしたように私たちを見つめていた。
そして彼はスゥと息を吸い込み、叫ぶ。
「ウェーーーーーイ! オレっち! 完・全・復・活ーっ!! えっ、えっ? そこにいるイケメンはー、シルヴィーに……もしかしてアンディー!? 大人アンディーとかヤバっ! マジ何年経ってんのぉ!? ヤバーっ!!」
……チャラいな!? シルヴィオとアンドリューが揃って大きく長いため息を吐いたのが聞こえてくる。
ドラゴンじゃなかった! ご、ご、ごめんなさぁぁぁい!
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