卑屈な自分に嫌気がさします
シルヴィオは私を泣かせてしまったと焦ったのか、教会にある全ての魔道具の魔石に魔力を補充して回り始めた。あっという間にその場から消え、おそらく今も教会中を走りまわっているんだと思う。
ごめんなさい、しか言えず泣いてしまった私が悪い。というかここまでに至ること全てにおいて私が悪い。泣いてしまったのも自分のせいなのだ。もう、土下座だけではすまされない気がする。
「どうしよう、シルヴィオに悪いことしちゃったぁ……」
そしてここまでわかっていながら今もめそめそとカラに泣きつく始末。わかってる、そんなことしてどうなるんだってことくらい。こんな自分が自分でも大嫌いだもの。
カラに泣きつきながらそんな自己嫌悪も一緒に吐き出してしまった。ネガティブすぎて本当に嫌。こうしてますます私は私のことを嫌いになっていくんだ。すごい悪循環。
「こーら。またエマの悪い癖が出てるわよ?」
「わかってるよぅ。私は本当にダメダメで……」
「そ、れ! それがエマの悪い癖!」
「痛っ!」
突如おでこに走った痛み。どうやら私はカラにデコピンされたみたいだ。おでこを押さえて顔を上げると、カラは困ったように微笑んでいた。
「エマ? 自分を下げてはダメでしょう? シスターだっていつも言っているじゃない。貴女のことが好きでいるみんなに失礼よ?」
「私のことが好きでいる人なんて……」
「それ以上言ったらさすがに怒るわよ? 本気で言おうとしてる?」
急に真剣な目つきになったカラにうっ、と言葉に詰まる。自分に自信がないことは変わらないけど、確かにカラたちの気持ちを無視した発言はよくなかった。
「あたしはエマが大好き。ウジウジ悩むし、自分に自信がないし、同じことで繰り返し悩むし。確かにエマにはそういうところがあるわ」
「うっ!!」
全部本当のこととはいえ、カラの言葉はザクザク刺さる。容赦ないよぉ! ということは、今のカラは少し怒っているってことだよね?
「でも、すごく優しい。いつも自分より人のことを考えて動くでしょう? 相手を嫌な気持ちにさせないようにって」
「そ、それは、自分のためだもの。私、自分勝手なの。怒られたり、嫌われたくないからそうしているだけで……!」
怒りながら、カラは私を褒めてくれる。だからこそ余計に申し訳なく思ってしまうんだけどな……。私はそんなに褒めてもらえるような人間じゃないのにって。
素直にありがとうって言えたらいいのに、私は人からの評価に怯えてしまうんだ。
「その時点で優しいわよ。本当に自分勝手な人は、相手がどう思おうと気にしないわ」
そ、それはそうかもしれないけれど。でも、やっぱり私のこれも、ただの自分勝手だと思うなぁ。
「あたしにだってダメなところはいっぱいあるわよ? でも、シスターや子どもたち、それにエマがあたしを好きだって言ってくれる。だからあたしはその気持ちにだけは誠実でありたいって思うのよ」
カラは前向きで眩しいな。言っていることはよくわかるし、私もそういう考えになりたいなって心底思う。だけど、そうあれるだけの自信がない。人に好かれる自信がないし、好かれてもそれに応えられるようなことが何も出来ない。
たくさん考えて前を向こうとしても、結局こんな考えに行きつく。どうして私はカラのように考えられないんだろう。人からの好意をもっと素直に受け取れたら、楽になれるのだろうか。
だって、怖いんだよ。そんなあやふやな感情、いつどう変わるかもわからないのに。いつか私の嫌なところを目の当たりにして、離れて行ってしまうかもしれないのに。
一時的に好意を向けられたからって、その気持ちを受け取るのは怖い。離れてしまった時に、耐えられない気がするもの。
そして、こんなモヤモヤした感情を抱いていることを知られるのが怖い。
私は「そうだね」とだけ答えて曖昧に笑った。こんな感情、優しいカラたちには知られたくない。
「ね、シルヴィオ様もエマのことが大好きなのよ。だから必死なの。貴女を悲しませたくないって一心で。そんなの、見ていれば誰にだってわかるわ」
だから、シルヴィオ様が貴女に求めている言葉がわかるわね? カラはウインクをしながらそう言った。
そうだ、今は彼のフォローについて考えないと。自分のことで悩んでいる場合じゃないんだ。
シルヴィオが求めている言葉、か……。顔を上げるとこちらに向かって駆け寄るシルヴィオの姿が目に入る。嬉しそうに手を振っている彼を見て、あぁ、そっかと納得した。
「エマ様ー! たった今、全ての魔石に魔力を補充し終えました! これで生活しやすくなりますよ!」
シルヴィオは、とても純粋なんだ。教会に住んでいる子どもたちのように。そして、私と同じで相手を嫌な気持ちにさせたくないんだと思う。あー、彼の場合は女性や子ども限定なのかもしれないけれど。
自分にはこんなことが出来るんだ、だから認めて、自分を見て、すごいでしょ? って。なんだか、可愛いな。こういう気持ちを潰しちゃダメだ。私みたいになってほしくない。
「……ありがとう。シルヴィオ、貴方がいてくれてとても助かりました」
だから私が言うべきだったのは、謝罪ではなくて感謝の言葉。これからも、積極的に褒めていきたい。
幻獣人というすごい立場の人だからつい身構えてしまったけれど、子どもみたいだなって思ったら少し肩の力が抜けたように思う。私なんかが偉そうに褒め言葉なんて、って気持ちはまだあるけれど。
「っ! エマ様……! はいっ!」
こんなにも嬉しそうに、今後もなんなりと仕事を申し付けてくださいね! と言うシルヴィオ見たら、たぶんそれでいいんだろうなって思った。
子どもたちが「シルヴィオ様、すごーい!」と彼に纏わりついている。少しだけ困惑しているみたいだけど、邪険に扱う気がないのは私の言うことを聞いているからなのかな。
でも、照れ笑いしているし、まんざらでもないのかも。
平和なこの光景を見ていたら、さっきまで心に広がっていたモヤモヤが溶けていくのを感じる。
……平和がいい。この平和が守られるなら、幻獣人を解放する仕事も頑張れそう。うん、ちょっとだけやる気が出てきたかも!
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