どうも束縛が激しい気がします
シルヴィオが来てから数日。彼は子どもたちともすっかり打ち解けてしまった。彼は存外子ども好きなようで、私からの指示がない時は自主的に子どもたちと遊ぶ姿も見られた。
子どもは清らかだから好き、なのだそう。よく聞くけど「清らか」ってどんな基準で判断しているんだろう?
とはいえ、常に私の姿が見える位置にはいるんだけど。ほんの少しでも私が困っていると駆け寄って来てはどうしたのかと聞いてくるんだよね……。これにはいまだに慣れない。
ううん、この先も慣れる日が来るのかと不安になるほどだ。子どもたちでさえたまに引いているくらいなんだよ? もう少しだけ目を離してもらいたい。
まるで束縛の激しい彼氏みたいだよ。私に彼氏なんていたことはないだろうけど。
いや、本当に大袈裟じゃないんだよ? 冗談抜きで、おはようからおやすみまでずっと私の近くにいる、といえばわかってもらえるかな?
夜、私が寝ている間も部屋のドアの前で座って眠っていると聞いた時が一番驚いたかもしれない。ちゃんと休んで、と言ってもここが一番落ち着くと言って聞かないんだよぉ! はぁ……。それが目下の悩みである。
料理をしてくれたり、掃除をしてくれたり、子どもたちの面倒をみてくれたりと、私以上に働き者なシルヴィオ。おかげでシスター含め大人組はかなり助かっているから、ある程度は好きにしてもらいたいって思ってる。
でもさぁ、好きにするの方向性が予想外なんだよねぇ。大した悩みじゃないといえばそうなんだけどさ。そう、私の気が休まらないだけ……。
それはさておき! 今日はシルヴィオに聞きたいことがあるんだ!
いつ聞こうか悩んで一週間が経とうとしているのだ。いい加減、勇気を出して聞かなきゃ。ごめんね、決断が遅くて。
聞けば絶対に教えてくれるのはわかっているんだけど、これを聞いたら歯車がどんどん回ってしまいそうで尻込みしていたのだ。
「し、シルヴィオ!」
「はい! 何かお仕事ですか? エマ様!」
あっ、笑顔が眩しい。毎日見ていても美形は変わらない。
と、そうではなく。逃げるなエマ! 頑張れエマ! 私は息を吸い、勢いをつけて問いかけた。
「あのっ! 私、他の幻獣人について知りたいの!」
そう、聞きたかったのはそのことだ。
だって、シルヴィオを解放してからというもの、平和に日々が過ぎていくだけでなんにも変わらないんだもの。
もちろん、それは悪いことじゃない。平和が続くならそれに越したことはないんだけど……。彼だけを解放したところで禍獣の脅威がなくなったわけではないんでしょ?
だから、他の幻獣人の解放をしに行かなくていいのかなって、それがずっと気になっていたんだ。
「他の
「ひっ」
しかし、彼にとって他の幻獣人という単語は地雷だったようだ。わかりやすく不機嫌になったシルヴィオは、軽く目を据わらせて嫌そうに表情を歪めた。その様子に自然と肩を震わせる。
だ、大丈夫だ。彼は私に危害を加えるようなことはしない。怯むなエマ、頑張れエマ……! ふえぇぇん!!
「うっ、うん。その、アンドリューの言葉を聞いた限りだと、九人全員の解放をしてほしい、ってニュアンスだったから」
束ねてほしいってアンドリューは言った。だから九人全員を解放しろってことだと思っていたんだけど、違うのかな? いや、違うってことはないと思うんだよね……。
はっきりしたい、そう、私ははっきりさせたいのだ。やらなきゃいけないというのならサッサと終わらせたいのである。よくわからない状態が続くのが、精神的に一番クるのだから!
でも、不機嫌なシルヴィオは怖いよー! 美形の不機嫌な顔、怖いよぉ!!
「……ああ、すみません。怖がらせるつもりはなかったのです。エマ様はなーんにも悪くありませんよ」
私が震えていることに気付いたのか、ハッとなったシルヴィオはすぐにいつもの優しい雰囲気に戻ってくれた。ホッ。
でも、地雷だとわかったとはいえ、この話をしないわけにはいかない。言葉を慎重に選んで聞いていくしかないよね。よ、よし。
「もしかして、やっぱり解放はしてはいけないんですか?」
私の言葉に少しだけ眉を顰めたシルヴィオだったけど、ちゃんと質問には答えてくれた。しかしものすごぉく嫌そう。
「ダメってことはないですけど。……オレがいれば十分じゃないですか? エマ様のお世話はオレがぜーんぶやるわけですし! 他の幻獣人は野蛮で清らかとは程遠いですし」
「野蛮、ですか……」
「ええ。男ってだけで野蛮ですね。マシな者もいますけど」
「アンドリュー、とか?」
「アンドリューは出会った時、清らかな子どもでしたから。その頃を知っているから大目に見ているだけです。今後の態度次第では排除対象ですね」
あ、そういう……? でも、よかったよ。そうじゃなかったら時告げの塔でアンドリューがどんな目に逢っていたことか。
……というかちょっと待って? ちゃんとした答えにはなってなくない? 一応答えてくれた、という体を保っただけだった!
うーん、どうしたものか。大人しくアンドリューが来るのを待つしかないのかなぁ。
「それは気を付けないといけないな」
「! あ、アンドリュー!?」
突然、背後から声が聞こえてきて文字通り飛び上がる。タイムリー過ぎない? あと、神出鬼没がすぎる! 気配を全く感じなかった……。
「今のはマイナスポイントですよ、アンドリュー。なぜなら、エマ様を驚かせました」
「そうか。すまない。シスターの下に向かっていたのだが、私の名が聞こえたのでな」
「そのまま空を通過してくれればよかったのに」
「まぁ、そう言わないでくれ。昔はよく一緒に遊んだ仲だろう」
ツンとして腕を組むシルヴィオに対し、アンドリューは僅かに眉を下げて笑った。
そっか、アンドリューが子どもの頃は、今の教会の子たちみたいに遊んでもらっていたんだ。アンドリューの子ども時代、か。どんな子だったんだろう? 今が少し強面の男前さんだから想像がつかないや。
それにしても今、空を通過って言っていたよね? ってことは、たった今ちょうどここの上空を飛んでいて、名前が聞こえたから下りてきたってこと? 耳が良すぎでは!? ま、まぁ、獣人だもんね……。
「で、だ。他の幻獣人の解放についてだが」
「あ、それも聞こえていたんですね。良かった、ちょうど聞こうと思って……」
聞いていたのなら話は早い、そう思っていたんだけど、突然目の前に白髪が舞った。そして両肩を掴まれてくるっと方向転換させられた。
あまりにも鮮やかな手腕すぎて、一瞬何が起きたのかわからなかったよ……?
「さ、エマ様! そろそろ休憩にしましょう? オレ、お茶を淹れますからあっち行きましょう、あっち」
あからさまにその話題を避けようとするシルヴィオに背を押され、私はどんどんアンドリューから引き離されていく。ちょ、ちょっとー? そんなに嫌なの!?
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