それでも私は聖女にはなれませんからねっ!
記憶:1
大きな公園で遊んでいる。幼い私と、あれは友達かな?
ああ、そうだ。あの子は小さい頃ずっと一緒に遊んでいた子。誰だっけ? 顔も名前も思い出せないけれど、私はあの子が大好きだった。
少しずつ思い出してきた。そう、あの子とは色んな遊びをしたっけ。あの子と一緒にいる時が一番楽しくて、幸せだったんだよね。
それなのにハッキリ思い出せないなんて、なんて私は薄情者なんだろう。
「エマ! もうすぐお誕生日でしょ?」
そう言って、あの子は私に一枚の紙を渡してくれた。私はドキドキしながらそれを受け取って、開けてもいいかと聞いたんだ。あの子はもちろんだよ、と恥ずかしそうに笑っていたよね。
開いてみると、そこには色鉛筆で絵が描いてあった。私の顔が真ん中にあって、その下にケーキの絵が。周囲にはいろんな色のお花があって、一文字ずつ違う色で「たんじょうびおめでとう」と書いてある。
嬉しかった。すごく、すごく嬉しかったのを覚えてる。一生忘れないって、そう思ったのに、今まで忘れていたよ。今度こそ忘れないように大事に記憶しておかないと。
でも、どれだけ思い出そうと頑張っても、肝心なあの子の顔も、名前も、思い出せない。それがすごく悔しかった。
「ごめんね、これしかあげられなくて。もっと大きくなったら、絵に描いてあるものぜーんぶ、本物をあげるんだから!」
「ううん、嬉しい。これ、宝物にする」
「うぅ、エマは優しいなぁ!」
違うよ、優しいのはあなた。だって私はあなたにあげられるものなんて何もないから。
……そう、なの? どうして私はお返しが出来ないんだろう。あの子の誕生日には、私が何かを贈ればいいのに。それこそ、絵を描いても手紙を書いたっていいんだよ。
でも、それが出来ないって当時の私はわかっていた。なんでだろう……。そんな簡単なことも出来ないなんて。
ああ、思い出せない。思い出したい。私の記憶、もう少しだけ戻ってきてほしいよ。
「エマ! 今日は大チャンスだよ!」
場面が切り替わった。今度は室内にいるみたい。記憶が曖昧だからか、薄暗くてぼんやりしていてあまりわからないけど、外ではないことだけはわかる。
「こんなチャンスはなかなかないよぉ? さ、エマの好きなことをしよ? 何がしたい? 好きな遊びは何?」
「え? 好きな遊び? えーっと……」
「はやく、はやく。家に誰もいない今なら、なんだって出来ちゃうぞー」
悪戯っぽく笑ったあの子は、そう言いながら私を急かす。そうだ、そんなこともあったよね。家には私たちの他に誰もいなくて、だから自由に出来る貴重な時間で……。
あれ、どうして家に誰かがいたらダメなんだろう。いたずらしてもバレないからかな。そもそもこの場所は、私の家? それともあの子の家?
「そ、それじゃあ、お人形遊び、したいな」
「お人形ね! ふふ、実はそう言うと思って持ってきたんだぁ」
そう言ってあの子はじゃーん、と背負っていたリュックからお人形を二体取り出し、見せてくれた。それから着せ替え用の服やミニテーブルに椅子、次から次へとリュックから取り出していく。
「あと、これも。えへへ、こっそり食べよ?」
「クッキー! で、でもいいの?」
そして最後に取り出したのは、小さな四角いクッキーの缶。小さいとはいえ高級感溢れるそのお菓子の登場に、小さい頃の私は委縮した。どう見てもスーパーなどで売っているような安いクッキーではないもんね。
「いいの! だって私がこの前もらった物だもん。一人で全部食べちゃったって言えばバレないよ」
「……食べすぎだって、怒られちゃわない?」
「んー……。まぁ、その時はその時! 謝ればいいの! だって、食べちゃったものはどうしようもないでしょ?」
そう言って、あの子はまた悪戯っぽく笑った。そう、この笑顔が私は大好きだった。今、その顔をハッキリ思い出せないのが本当にもどかしい。
いつか、もっとハッキリと思い出せる日が来るかな。そうしたら二度と、忘れないのに。
あなたは誰? そして、私は? 私たちはどういう関係なの?
『エマ様……』
遠くで誰かが私を呼んでいる。エマ「様」だなんて……。
あ、そっか。今、私がいるのはあの世界じゃないんだったね。私は今、獣人だけが住む世界に来ているんだ。
夢が、終わる。意識が、覚醒していく。
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