三人の様子

「あははははははは!」

 教室へ響き渡る御馴染みの馬鹿笑いに、俺とかしらは過剰反応をしてしまう。

 どうやら確かめるまでも無かった。奴も次章予告の夢を見たらしい。

「大口を開けて笑うな、はしたない!」

 神経質そうに銀縁メガネを太い指で押し上げながら、堅固けんご三郎さぶろうは叱った。

 しかし、井筒いづつ井子しょうこは気にもかけずに揶揄い続ける。

「でも、ホントに三郎ちゃんが!? マジに『天使様』の御呪いを!?」

 ……まあ笑ってしまうのも無理ないか。

 『天使様』とは、ちばらぎ市の学生に流行っている御呪いだ。……当然だけど女子を中心に。

 なんでも成功すると天使様が夢に現れて、どんな願いでも叶えてくれるとかなんか。よくある流行り廃りの類ではある。

 なんで知っているかって?

 御多聞に漏れず愛や真も、この類の遊びに目がなかった。年上のお姉さん達が夢中と聞いてしまったら尚更で。

 しかし、一緒に遊んでやる身で考えてみて欲しい!

「エンジェル、コーリン。エンジェル、コーリン。天使様、いらっしゃいませ」

 と謎の呪文を繰り返しながら、妙なボックス・ステップを踏まされる高校生男子おれの気持ちに!

 ……というか堅固けんごの奴も、マジでやったのか?

 ゴリラのマッチョな身体でガリ勉のメガネな頭な癖に、心は乙女を棲まわせて!?

 やめろ! 頬を赤らめるんじゃあない! それは俺に効く!

「お前が勧めてきたんだろうが! 自分は……その……気を遣って話題に合わせる為にだなぁッ!」

「そ、そうだけどッ! そうなんだけどッ! でも、三郎ちゃんがッ! 真面目な顔で御呪いしているとろこ想像したらッ!」

 箸が転がっても可笑しい年頃ともいうが、余程のツボに嵌ったのか井筒いづつは大笑いだ。

「その辺にしておけ、堅固けんごが可哀そうだろ。お前に付き合ってくれたのに」

 などとかしらは澄まし顔で窘めるけれど、俺は知っている。奴も御呪いを試していることを。

 オープニング・ムービーではかしらが、キメ顔で妙なボックス・ステップを踏んでいるからだ。

 ……なにかゲーム・シナリオに関係するのか、この御呪いは。


「それに夢を観れたんだろ、井筒いづつは?」

「へっ!? 夢って何が?」

堅固けんごより先に御呪いをしていたのだから、『天使様』か? それが夢に出てくるんだろ? どんな夢だった?」

 ……上手い。かしらの奴、それとなく夢を話題にするつもりか。

「やだなぁ、公人きみとちゃんまで。夢に『天使様』がでてくるわけないじゃん。ましてや『願いを叶えてくれる』なんてさ」

 素の表情を見せて井筒いづつは切り捨てる。

 どうして女子って奴は、御呪いだのオカルトだのが大好きなくせに、根っこのところはリアリストなんだッ!?

 ……そして堅固けんご! 本気でガッカリするのは止せ、それも俺に効く!

「なんだ、そうなのか」

「そうそう、そんなものよ、公人きみとちゃん。最近じゃアタシなんて、夢も見ないでぐっすりだから!」

 どうやら当の本人は『次章予告の夢』を見ていない?

 まあ、あんな夢を当人が観ていたら、その言動も変化してしまう。それを考えたら当たり前か?

 そして井筒いづつが再び大笑いする寸前――

「ハーイ! スチューデント達! キャサリン・ティチャーがいらしたのですYo! スタンダ・アップして、お辞儀をするのだDeath!」

 と担任のキャサリン先生が教室に入ってきた。

 この人はドジで日本語も怪し過ぎるくらいなのに、金髪碧眼なだから全てが許されている。

 ……ちなみにというか、もちろん先生もコミュとやらの対象だ。このゲームはギャルゲかッ!?

 もうかしらの奴は死ねばいいのに。都合よく『ちばらぎ市』を救った後に!

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