血管切れそうな高音のレジェンド・ナレーターによる、それ

 豹よ!

 夜の街で火の如く輝く、豹よ!

 嗚呼、赤き豹が夜の街を駆ける!


 ……や、止めてくれ! ここまで繁られたら厳しい!

 ナレーターのハイテンションな高音は、聞いてるこちらの血管が切れてしまいそうだ。

「あははははははは!」

 高笑いの女怪人が――顔の上半分を仮面で隠した怪人が疾走する! 生身の身体で群玉環状高速を!

 そのピッタリとしたレザースーツの描くラインからは、野生の力強さが! まさしく赤い豹だ!

 そして公道の王者たる竹槍出っ歯がッ! エグい角度なロケットカウルの三段シートもッ! 群玉の誇る、ちばらぎ名産の迷車達がゴボウ抜きッ!

 哀れ爆発四散の珍走団ッ! 追悼の六連ホーンも悲し気ッ!

 酷い大参事だ。あちこちで火の手が上がり、黒煙が立ち込めていく。


 豹よ!

 夜の街で火の如く輝く、豹よ!

 月が満ち、汝の血で赤く染められしとき

 火の如く輝く、豹よ! 汝は解き放たれん!


 冷たく凍る月光に照らされた女怪人が絶叫する。

 どうしてか分かった。

 赤い豹が、その身の全てを燃やし尽くし、輝く光と化していくのが。

 そして視界が赤く、そして昏く染められていく。これは死を暗示しているのか?

 嗚呼、赤き豹が、街が、皆が……全てが闇へと沈んでいく……――



「ってッ! 次章予告は夢で見るのかよッ!」

 魂の叫びと共に跳ね起きた。

 まあ当然に自室だ。大山田家の馴染みあるベッド。そこで俺は寝ていた。

 もう「夢かッ!?」と驚くのも馬鹿々々しい。

 なぜなら俺は前世で見ている。この『次章予告』を!

 というかゲームとしてのパターンだ。章をクリアすると、予告が差し込まれるのは。

 ……ちなみにクリア条件を満たせていない場合は核の方で、すなわちゲーム・オーバーとなる。

 しかし、この次章予告も夢だったとは……このゲーム、夢を便利に使い過ぎてないか?

 それにかしらが視るべき夢を、俺が奪ってしまった可能性も?


「兄ちゃん、大丈夫?」

「怖い夢でも見たの、兄ちゃ?」

 起こしてしまったのか、愛と真が様子を見に来た。

「あー……ちょっと……変な夢を見ちゃってな」

「もー! しょうがないな、兄ちゃんは!」

 そういうと完全には目を覚ましていないのか、まるで夢遊病者のような足取りでベッドへ潜り込んできた。

「ほら、もう寝る! 明日は、愛が朝食当番なんだから!」

「真は、こっちね! もう怖くない、でしょ?」

 さらに反対側へ真が潜り込んでくる。

 もしや怖い夢を見た家族を心配して、安心して寝直せるように同衾ッ!?

 しかし、当の俺は感動と両側からのグット・スメルに目が冴えて……――


『起きてたか?』(既読)

『貴方に起こされるまでは、寝ていました』(既読)

『夢を見た。お前も見たか?』(既読)

『……夢の話をする悪趣味が?』(既読)

『真面目な質問だ。何も見なかったのならいい』(既読)

 二人を起こさず可能な暇つぶしなんて、メッセンジャーぐらいだ。……といっても相手は菜子なのこぐらいしかいないけど。

『そういえば問い質したかったことがある。俺を脅迫した時、生命や貞操の危機を覚えなかったのか?』(既読)

『もちろん危険と考えてましたが、いざという時の覚悟も……』(既読)

 予想通りな答えだったけれど、しかし、これで更なる疑問も増える。

 どうして菜子は異能に目覚めなかったのだろう? 実際には条件が違う?

 そして次章予告をかしらも受け取れたのかも……――zzz

『べ、別に! 貴方に変なことをされても構わないとかじゃないですからね!』(未読)

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