買い物

 翌日、遠出を試みたら想定外の大問題が発覚した。

 どうやら俺は、ちばらぎ市から脱出できない!

 市外への電車に乗っただけで、『人払いの聖域』とやらの比じゃない心理的プレッシャーを感じた。

 どれくらい凄かったかというと、非常用ブレーキを使って無理矢理に途中下車してしまったほどだ。

 ……普通の人にはえない霊体ノノベリティを使ってなかったら、今頃は逮捕か補導でもされていただろう。

 いかなる基準か分かり兼ねるが、おそらく条件を満たす者は市外へ出られなくなっている。

 俺も駄目なところからすると「異能に目覚めた」辺りか?

 物語の全てが市内で終始していたのは――箱庭世界に誰も疑問を覚えなかったのは、これが理由だろう。

 つまり、失敗と判明しても、逃げだせない訳だ。

 いや、姫子さんや愛と真だけなら平気か?

 どちらにせよプランBのリストからは、俺を外すしかなさそうだ。



 そして話は変わるが、作中にカジノなどがあるRPGはお好きだろうか?

 俺は嫌いな方じゃない。むしろ好きな部類だ。

 自分でも呆れるぐらいにセーブ&ロードを駆使し、巨万の富を得ての金満プレイなんて大好物といえる!

 景品のコンプリートはもちろん、売却での大金確保も絶対マストだ。

 新しい街へ到着する度に、武器屋や道具屋で大人買い……現実では絶対に味わえないだと思う。


 そして今回も?抜かりはない!

 二周目特典といえる『番号当て宝くじの当選番号』によって、大量の当たりくじを入手している!

 一口当たり五万円前後の当選金だけど……十枚買えば五十万、百枚買えば五百万円だ!

 ゲームでは「運試しなんだから一枚買えば十分」とアナウンスされちゃうけど、ここは現実! 残念ながら現実だ! 予算の続く限り何枚でも買える!

 まあ現実だからこそ同じ人物が何度も、そして連続に換金したら不審に思われてしまうが。

 かといって一度に全部を換金したら、ニュースにされちゃってもおかしくない。

 拠って目立たないように日付や時間、売り場、中の店員さん……色々と工夫して溶かすように換金の必要はあった。

 ……市外へ行こうとしたのだって、この換金が目的だったし。


 また『ゲーム・シナリオが進行したら解放される店や施設』というのを、現実に即して考えたことがあるだろうか?

 いまから語るのは、その回答の一つだ。


 ゴゴゴゴゴ……


 情報通りに男は、つまらなそうな表情で広場に佇んでいた。

 しかし、予想に反して『凄み』を持った面構えだし、本当に擬音が背後に浮いている! 嘘だと言われようと、えるんだから仕方がないだろう!

 だが、しかしッ! そんなことあるずがなかった。つまり、これは異能の力か!?

 俺に気付くと男は、なんとも言いようもないを構える!

 完全に不意をッ!  そしてッ! これがッ! 異能者は異能者と惹き合うってやつかぁッ!?

 そして男の背後へ集中線が――漫画などで使われる記号背景が広がるッ! その効果は不明だけど、このままでは直撃かッ!? とにかく拙いッ!


「布団を取りに行ったようだけど、どうしてなんだいぃィィーッ! ああ、ふっとんでたのかぁァァーッ!」


 もの凄いドヤ顔だ。

 しかし、それでいて男の額からは汗が滴り落ちていた。

 ああ、舐めなくても分かる。あれは三流芸人が、スベった時に流す汗の味ッ!

 そして男は「一回スベったくらいでヘコたれるかッ!」と追撃のムーブッ!

 駄目だ、それはッ! それは大火傷にしかならない!


「ニワトリを飼い始めたんだってねぇェェーッ! 二羽も庭で飼ってるのうぉォォーッ!」


 ……つまらないのが三回転ぐらいした挙句、凄く面白くない。これがシリアスなってやつかッ!

「あの……俺……で……貴方に『爺さん型トラクター』を注文しろって」

「……なんだ客か」

 つまらなさそうに男は応じる。どうやら裏の仕事を好きではないようだ。

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