第26話『私たち、喧嘩してました。 5』

 萌美めぐみさんを車に乗せ、まずは萌美さんの家に向かう。


萌美「あ……もしもし、ママ?あのね、今日、千翼ちひろ先輩のおうちに泊まる。今からお泊まりの荷物取りに帰るね。……うん、明日お休みだから。……うん、大丈夫。うん。」


萌美さんが電話を切り、ぼんやり外を見つめる。思い詰めているようだ。


「すみません、しばらく私が来られなかったせいで。」


萌美「えっ……いや……違うんです。私が、リーダーなのに……」


萌美さんのスマホが鳴る。


萌美「あっ、すみません。……もしもし。……先輩、すみません、突然……まぁ、そんな感じです……はい」


萌美さんの声が震える。やがて、萌美さんの家を経由して、千翼さんの家に着いた。


萌美「すみません、ありがとうございました。」


「いえ。また明後日。」


萌美「はい。」


光のない瞳で私に微笑みかける萌美さんに後ろ髪を引かれつつ、私は車を出した。


 マネージャーが去った後、萌美はインターホンを押した。


千翼「はーい!よく来たね、萌美ちゃん!」


萌美が千翼に抱きつく。


千翼「お……?」


萌美「……」


千翼「よしよし。さぁ、あがって。今夜は回鍋肉ホイコーローだよ。」


千翼が萌美の手を引き、クッションに座らせる。


萌美「お邪魔します。」


千翼「うん!おてて洗っておいで。」


萌美「あっ、はい。」


萌美が洗面所で手を洗って戻ってくると、テーブルには夕飯が並べられていた。すべて千翼の手作りだ。千翼は高校卒業後から実家を離れて一人暮らしをしている。


萌美「美味しそうです」


千翼「ふふん、そうでしょう?召し上がれ!ごはん食べながら、ゆっくり話そうね。」


萌美「……はい。いただきます。」


千翼「うん!私も、いただきます!」


萌美「……!今日も美味しいです!」


千翼「ふふ、よかった、笑顔になって。」


萌美「……ありがとうございます、いつも。」


千翼「かまわないよ。……何かあった?」


萌美「……数週間前、はるちゃんと佳子かこちゃんが喧嘩して、それから2人、ずっとギスギスしてて……私、苦しくて……」


大きな瞳から涙をこぼす萌美。


千翼「そっか……そりゃ、きついよね。」


萌美「……うん」


千翼「2人は話し合いとか出来そうにないの?」


萌美「……ほんとは、私が2人が話し合う機会をもうけてあげたいんだけど、けど、怖くて」


千翼が箸を置いて、そっと萌美を抱きしめる。


千翼「それじゃあ、#Sweets Angelスイーツエンジェルは結成したてホヤホヤの赤ちゃんユニットだし、お姉さんが力を貸してあげようかな。」


萌美「……いいんですか?」


千翼「うん、いいよ。どうしてほしい?」


萌美「……2人が話し合う機会を作りたいんです。」


千翼「うん。」


萌美「けど、私は仲裁に入るの、無理だから……」


千翼「うん、いいよ。じゃあ、私がそれをすればいいね。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る