第695話 魔王戦を連チャン

 ファミリーが増えて、やっと夢の世界に入れたみやび。スタート地点である荒野には、ちょっとした変化が現れていた。色彩を持つ丸太小屋がいくつか並び、村が形成されたっぽい。


「村人は? エデン」

「まだ私ひとりなの、みやび」

「これから増えるってことかしら」

「どうかな、増えてくれたらいいけど」


 そんな彼女に連れてこられたのは、今度は神殿の西側にある入り口だった。ならば魔王はコルソンと思われるが、はてと首を傾げるみやび。

 ただでさえモノクロの世界なのに、扉を開けた先は真っ暗闇だったからだ。ここはどんな所と尋ねるつもりが、エデンは既に姿を消してたりして。


「ちょっとそれ酷くない? ヒントちょうだいよ、あんにゃろめ」


 ひょっとして説明のしようがないのかしらと、そこは思慮深い任侠大精霊さま。前向きに考え、まずはサイレント・ゴーストファイア静かなる鬼火を発動してみる。しばし様子をうかがうも、鬼火が全く反応しない。この場合は悪しき敵がいないか、又は高速移動してて鬼火が対応しきれないか、このどっちかだ。


「魔王が不在って事はないっしょ」


 カラドボルグをすらりと抜き、みやびは意を決して扉の中へ。ついでに内部確認のため、照明弾を真上に飛ばしてみる。本来は神殿のはずだが前回の経験上、魔王は空間を変えると理解したからだ。だが周囲には何も映らず、光に反射するものが見当たらない。今度はもっと高く、八方へ飛ばしてみるもやはり同じ。


「無辺と言うか際限の無い空間、そんなところかしら。おーい魔王さん、どこにいるのよ顔を見せなさい」


 呼びかけに応じたのか、次元の歪みを肌で感じたみやび。すると眼前に悪魔がうじゃうじゃ現れ、同時に鬼火が動き出して補足を始めた。死者や死霊の類いはモノトーンだが、アマイモンもそうであったように色彩を持つ。


 グルア攻防戦や堰ヶ原の戦いで見たことのある、ミノタウロスや牛頭鬼馬頭鬼、ガーゴイルにアンズーといったお馴染みさんもちらほらと。

 数は二百余りといった所だろうか、魔力弾が降り注ぎ虹色魔法盾が発動した。みやびは光の魔力弾を放ちながら、カラドボルグで切り伏せていく。


「今のはどう考えてもゲートよね」


 任意で開けるならば、光属性と闇属性を両方持つ魔王で確定。光と光では相殺されるため、鬼火が反応しないのはアマイモンで分かっている。つまりみやびを捉えながらこの空間の、どこかに隠れてるって事だ。


エレメンタル・ハンマー四要素のトンカチ、トリプルで!」


 悪魔たちを三本のトンカチが追いかけ始め、鬼火に捕まった者は灰に変わる。そして奴らが手にしていた、床に残る武器を照明弾が照らし出す。


オブジェクト・マニピュレイション物体操作!」


 落ちていた剣や槍や戦斧せんぷが浮き上がり、みやびの意思で動き始めた。パラッツォが予想した通り、それは情け容赦なく悪魔どもに襲いかかり、切り刻み、突き刺し、かち割っていく。


 翼を持ちトンカチと鬼火から逃げ回る悪魔は、みやびが弾丸飛行で切り捨て叩き落とした。トンカチと鬼火を追加で放ち、悪魔の軍勢を殲滅していく。


「た、助けてくれ、俺は魔王さまの命令で、うぼあ」


 グルア戦で見たことのある空飛ぶ悪魔、ガーゴイルの口にカラドボルグを突き刺したみやび。目を見れば分かるのだ、命乞いをしながらも隙を狙っていることが。どいつもこいつもみんなそうで、畜生界らしいとみやびは思う。


 弱肉強食であり自分が生きるためには、他者を害することも厭わない。そこに善悪や正邪は存在せず、自分こそが正義なのだ。みやびは弱きを助け強きを挫くが、こいつらは正反対。弱い者をとことんいじめ強い者には巻かれろ、それって動物と同じだから畜生なのだ。

 良心を忘れ生存競争に終始していく、そんな人生なんぞに救いは無い。遠慮は要らない徹底的に叩き潰すと、みやびのカラドボルグが舞う。


「うぼあ!」

「およ?」


 虹色魔法盾が何かを反射し、その方向を見れば光る目がふたつ。


ライトニング・ストライク走る稲妻!」

「ひでぶ!」


 落雷に打たれ姿を現したのは、ハルバードを手に鎧兜を身にまとう武人であった。ハルバードとは簡単に言うと、槍と斧が合体した武器のこと。光属性は周囲と同化する特技持ちがいて、ブラドがそうだし、もちろんみやびも開眼していた。


「闇に紛れて女の子をストーカーするなんて、いけ好かないわね。それ! それ!」

「あば、あばばば」


 雷撃を次々放ち、魔王コルソンに特技を使わせない任侠大精霊さま。雷撃系統は六属性を備え、虹色魔法盾を使えないと回避できない。連続で放たれるみやびの雷撃により、甲冑の隙間から煙が出て来た。

 そこへ悪魔の軍団を全滅させたトンカチが集まってきて、魔王コルソンをフルボッコ。ダメージが通るってことは、持たない属性が何かあるってことね。だが自然回復で追い付かれても困るから、みやびは雷撃の最大奥義を放つ。


ヘブンス・ジャッジメント天罰!」


 青白く光る太い柱が垂直に魔王コルソンへ落ち、水蒸気と共に焦げ臭さが周囲に立ちこめる。やがて空間は色彩を取り戻し、神殿らしい大理石の壁や床に戻って行く。そして水蒸気が晴れ、立っていたのはやはり天使であった。


「私の名はバーチャー力天使。第三関門の突破おめでとう、みやび。エデンの精霊天秤は、更に創造へ傾きました。これから南門へ行くのです」

「もしかして連戦になるの? バーチャー」

「今のみやびなら克服できるはず、健闘を祈ります」


 気付いたらもう、扉の前に飛ばされていた。ゲームじゃないからセーブポイントなんか無いよねと、遠い目をしつつも気を引き締め直す任侠大精霊さま。

 南なら魔王ゴアプになるはず、どんな相手かしらと扉を開ける。するとそこは闘技場で、扉は選手が入退場する門だったらしい。退場は、生きていればの話しだが。


 中央に足を運ぶと反対側の門が開き、観客席から歓声が上がった。現れたのは両腕が合計六本ある半裸の女性で、それぞれの腕に剣を持っている。

 みやび自身も精霊化すれば千手観音になるから、それ自体に驚きはしない。ただ腕の一本だけ、不思議な形をした金属製の道具が握られていた。王冠と王冠をつなぎ合わせたような、そんな代物が。


「香澄から聞いた事がある、あれは金剛杵こんごうしょに間違いないわ。確か仏教の法具だったかしら。この場で唯一色彩を持ってるなら、彼女が魔王ゴアプなのね」


 王者ゴアプ、挑戦者みやびと、審判の紹介アナウンスが聞こえて来た。そして試合開始を告げるドラが鳴り響き、同時に金剛杵から火炎弾の連射が来た!


 虹色と黄金の魔法盾を複数出せるみやびだが、自動防御が追い付かない。そしてこの火炎弾は、どう考えても武器固有の万能攻撃だ。事前に張っていたシールドが破られ、一発がみやびの頬をかすめて行った。

 額に第三の目があり仏教神話に出て来る、カーリーかドゥルガーかしらとみやびは予測する。試しに光の魔力弾を撃ってみるも効かず、光属性持ちであることも確定した。


 複数の虹色魔法盾が火炎弾を防ぐ一方、その隙間を縫って剣が上段から振り下ろされる。もちろんそれは一本で、他の四本が中段から下段からとみやびに襲いかかる。

 一人で達人を何人も相手にしているようなもの、蓮沼流喧嘩殺法を駆使して剣をかわし雷撃をお見舞いするみやび。だが魔王は耐性を持つのか、一瞬は硬直するもののすぐ次の攻撃が来る。


「その法具が雷撃から身を守っているのね、ゴアプさん」

「ふっふっふ、よく分かったな、みやびとやら」

 

 懐に飛び込んでカラドボルグを下段から振り上げ! そこへ膝蹴りが来て、弧を描くように吹っ飛ばされるみやび。物理無効の祝福が無ければ即死級、だがスネにダメージは与えた。狙うは足だ動きを止めねばと、弾丸飛行で再び懐に飛び込むみやび。


 粒子砲も考えたが即時発動できない技、しかもこの広さでは躱される可能性も充分あり得る。ならばガチの物理勝負とばかりに、みやびは愛剣カラドボルグへ更なる魔力を注ぎ込む。


 伸縮自在となる刀身が放つ虹色のオーラが極限まで増大し、ゴアプの足にダメージを与えて行く。自然回復しないあたり、風や地の属性どちらかが欠けているのは明らかだ。ここからは体力と精神力の勝負、複数の剣と魔力弾をかいくぐり、切りつけてはすっ飛ばされるの繰り返し。だが押しているのは、間違いなくみやびの方。


「認めぬ、我より強い者の存在など認めぬ」

「降参した方がよくない? ゴアプさん」

「黙れ小娘!」


 相手の方が優れていると気付いても、それを認めたくない愚かな魂が修羅界だ。醜いなとみやびは思う。力量を認め礼儀を持って接すれば人間関係はうまくいくのに、それが出来ず心に憤怒と激情を抱く姿は醜いと。


 動きが鈍ってきたゴアプの右足をたたっ切り、みやびは返す刀で金剛杵を持つ手に刃を当て切り落とした。これで雷撃を邪魔する憂いは断った、食らえとばかりに彼女は雷撃の最大奥義を放つ。


ヘブンス・ジャッジメント天罰!」

「うぎゃああ! 認めぬ、我は断じて……認めぬ……」


 闘技場が本来あるべき神殿の姿を取り戻して行く。そして現れた天使が微笑み、おめでとうと告げた。


「私はドミニオン主天使。エデンの精霊天秤は均衡を保ち針は中央となりました。第四関門を無事突破されましたね、みやび」

「でも北門が残っているわ、ドミニオン」

「そこで待っている魔王こそ、みやびを真の大精霊に導くいしずえとなりましょう」


 そこで夢は終わった――。


「ぐは、重い」


 目覚めたらハルバードと金剛杵がお腹の上に。

 ファフニールもフレイアとアリスも、みやびからそそくさと戦利品を下ろす。眠らないで待ってくれる三人に、みやびはお礼代わりに口づけを交わした。まだ慣れてないアリスが、ふよふよ出来ず布団にぽとんと落ちちゃった。


 そして三人は安心したのか、そのままクースカピーと眠っちゃう。みやびは目が冴えちゃってるわけで、布団に胡座をかきどうしたもんかと腕を組む。

 そうだ妙子さんならお裁縫で、夜なべしてるかもとみやびは思い付く。アマテラス号の船内には、妙子さんの裁縫部屋もあるのだ。まだ起きてるといいな、そうつぶやきながら、みやびはハルバードを掴んだ。


「これを私に? みやびさん」

「妙子さんなら使いこなせると思って」


 ふむと頷き受け取った彼女は、ハルバードをぶんぶん振り回す。大正時代に薙刀の道場へ通っていたのだ、その動きはかたに則ったもので見事。さすがねとみやびは、妙子さんの湯呑みに緑茶を注ぐ。


「気に入ったわ、有り難く頂いておくわね」


 どうぞどうぞと頷くみやびに、むふんと笑いハルバードを置いた妙子さん。そして彼女は手がけていた縫い物を、みやびにどうかしらと広げて見せる。それはアイドルがスカートの下によく穿く、フリル付きの短パンだった。妙子さんいわくだーだーメアドに、あからさまな見せパンはダメらしい。

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