第693話 やっぱり性愛を司る大精霊

 今まではリンドスオンと呼称していたが、色んな竜族と関係を持ったから呼び方を改めたみやびとファフニール。関係を持ったと言えば嫌らしく聞こえるが、実際にそうです間違いありません、はい。


 竜騎士であるリッタースオンはそのままに、伴侶をドラゴンスオンと呼ぶことにしたのである。おさらいになるがリッターは騎士、スオンは盟友って意味だ。戦場で死ぬときは竜も、その背に乗る騎士も、一緒だよって関係を表している。


 ――ここは朝のアマテラス号、浴室の隣にある洗面室。


「お早う! ティーナ、ローレル」

 

 同じくお早うございますと返した二人は、歯磨きと洗顔を終えて待機する。このあと血の交換をしてもらえるからで、二人ともそわそわ落ち着かないようす。

 歯磨きを済ませたみやびは、おもむろにドラキュラ付け歯を装着した。パーティーグッズによくあるものだが、みやびは錬成で牙を鋭くしてある。こちらから奪う場合はとても便利、重婚が可能となってからは愛用している。


 そしてティーナとローレルの唇を、それぞれ奪っていく任侠大精霊さま。朝みやびと顔を会わせたファミリーの竜は、これが日課となっていた。もちろん血の交換だから、舌を絡めるディープキスだ。

 属性因子が濃くなってきてる影響が如実に表れ始め、みやびにチューされたドラゴンスオンはしばらくトロンとしちゃう。フレイアいわく山椒とは全く別の、性的な恍惚感を覚えるんだそうな。


 ふわふわしてるティーナとローレルが出て行き、すれ違いで麻子と香澄がおっはーとやって来た。あの二人、これから朝食の仕込み大丈夫かしらと。そんな二人にみやびは尋ねてみる、ファフニールと血の交換をしたらどんな感じになるのかって。


「子宮にね、麻子」

「ほう」

「キュッと来るのよね、香澄」

「ほうほう」


 みやびからドラゴンスオンへの直接に比べれば、程度は軽いもよう。だが属性因子の影響は間違いなく出ていると、栄養科三人組は頷き合う。

 そこで麻子が変な事を言い出した、リッタースオン同士で血の交換をしたらどうなるのかしらと。香澄も興味があると、麻子の話しに乗ってしまった。


「みや坊、私たちとチューしてみない? ねえ香澄」

「うんうん、試してみたいよね、麻子」

「……はい?」


 竜族同士で血の交換をすると、生まれてくる子は人の姿を採れない竜になってしまう。だからどの惑星の竜族も、これだけは御法度にしているわけだ。人類と食糧の奪い合いになり、対立してしまうのが火を見るより明らかだから。

 そこいくとリッタースオン同士なら、影響は無いよねと二人は言う。みんなにとってみやびは、ドラゴンスオンのお母ちゃんであり、リッタースオンのお父ちゃんでもあるのではと。


 道理としては確かにそうかもと、みやびは麻子と香澄の顔を交互に見る。中等部からの付き合いだし心からの友人だ、みやびにしてみれば抵抗感は無くすんなり受け入れられる。

 ならば言い出しっぺの麻子からと、唇を重ねる任侠大精霊さま。すると麻子に異変が起きた! 腰を揺らし激しく悶え始めたのだ。唇が離れると彼女は、崩れるようにへたり込んでしまう。


「あは、あはは、腰が抜けた。生理前でスライムちゃん仕込んでて良かった」

「そんなに気持ち良かったの? 麻子。んじゃ香澄も」

「ちょちょ、待ってみや坊。心とスライムちゃんの準備が」

「試してみたいって、さっき言ったじゃん」


 洗面室から香澄のあーれーという声が、聞こえたような聞こえなかったような。性愛も司る任侠大精霊さま、とことん罪なお方である。間にクッションを置かない中だし、と言ったら卑猥であろうか。だが麻子と香澄はこの直後、新たにもうひとつ属性が開花したのである。


 ――ここはアマテラス号の居住区に完成した、蓮沼家のセカンド母屋。


 庭も池も見事に再現した蓮沼組任侠チームだが、みやびは池に水を張らないことにした。宇宙船ゆえ戦闘中は、傾斜角四十五度なんて当たり前の状態となる。総員戦闘配備になれば、お風呂のお湯を抜く位なのだ。そんなわけで、池で鯉を飼うのは無しってことに。


「なんかさ、麻子」

「言わないで香澄、思い出しちゃう」


 セックスの経験は無いけれど、みや坊とえちえちしてる感覚ねと、二人は吐息を漏らす。でも大親分から直接もらう属性因子の効果は、絶大であることがここに至って判明した。

 これからみやびは直系も傍系も、リッタースオンまで毒牙にかけ……もとい血の交換をするだろう。それは直に濃いのが来るって事で、結局は思い出してしまい麻子も香澄もポッと頬を朱に染める。


「でもみや坊ならいいかな、麻子」

「そうだね、香澄。みや坊に抱かれてる気分って、なんか複雑だけど」

「妙子さんにアルネとカエラ、ミスチアとエミリー、瑞穂さんにアグネスさま」

「ヨハンにマシューとスミレ、石黒さんに高田さんと飯塚さん、もうエトセトラ」


 みんなあーれーとかひーえーとか言うんだろうねと、二人は顔を見合わせぷくくと笑う。唇を重ねてる間に三回はいくから、股間にスライムちゃんは必須と。


「性愛を司るってさ、麻子」

「結局は子孫繁栄なんだよね、香澄」


 その頃みやびは暴走族との顔合わせがある、目覚めた桐島夫妻を東京へ送り届けに出ていた。その足で蓮沼家の面々を、こちらに連れて来る手筈となっている。

 黄金船は昼時間だけど、東京はいま休日の夕方。麻子と香澄が台所の使い勝手を確認がてら、夕食の準備に取りかかっていた。


 そんな二人が仕込んでるのはと言いますと。

 生牡蠣と、背の青い魚のお刺身。

 アスパラガスの素揚げと、ニラたっぷり餃子。

 長芋を牛スライスで巻いた肉巻き。

 豚バラ肉と白菜のミルフィーユ鍋。

 イカとタコのマリネに、ニンニクとチンゲンサイの翡翠ひすい炒め。

 無意識の内に精力増強の料理が、オンパレードになっちゃってる。お相手のいない人が食べたら、今夜は眠れなくなるかも。


「東のアマイモンを倒したから、残りは西のコルソン、北のジミマイ、そして南のゴアプになるわね」

「他はどんな魔王なの? 香澄」

「レメゲトンって魔法書の、第一章がゴエティア。内容はソロモン王が使役した、七十二柱の悪魔に関する資料なの。でも東西南北を守護する魔王については、詳しい記述が無いのよね」


 それじゃみや坊は全戦ぶっつけ本番になるわねと、麻子が中華鍋を振るう。そうなのよと眉を八の字にして、香澄が洋包丁を動かす。精が付く料理の数々は、みやびへの応援なのかも知れない。同じものを口にする蓮沼家の面々は、過剰なスタミナが付いてしまうけど。


 ――そして黄金船は昼にも関わらず、夕食の蓮沼家セカンド母屋。


「雰囲気が変わりませんね、源三郎さん」

「そうだな工藤、これなら寿命調整で宇宙滞在も悪くない」

「浦島効果は個人指定なのね? みやちゃん」

「そうよ辰江さん、だから一緒に来ても大丈夫」


 ファーストスオンは離れ離れになると、ドラゴンスオンが情緒不安定になってしまう。それは辰江だけでなく、みんな同じ心配をしていたのだ。

 なら安心だなと、正三が生牡蠣をちゅるっと頬張る。それにしても精の付くもんばっかりだなと、佐伯も黒田も目を丸くした。桑名の旦那瑞穂の父が独り身にはちょっと、なんて顔してる。


「私もご厄介になろうかしら、正三さん」

「もちろんさ、副総理。東京にいるより気が休まるだろう」


 どうぞどうぞと頷く蓮沼家の面々が、桑名と相良奈央にも来なさいウェルカム。結局お茶の間メンバーは変わらない訳で、山下と嫁のマルガマルガリータ、アンガスと嫁のシオンが、揃ってへにゃりと笑う。

 ちなみにアンガスの鍛冶工房も、船内に設置予定である。錬成師であるマクシミリアにカルディナ、ゲイワーズとは親交を深めた方が良いからだ。


エーデルエーデルワイスとスオンになったら? 桑名さん」

「娘の嫁とかい、みやびさん」


 それもアリだよねと口を揃える栄養科三人組に、○暴専門だった元刑事の桑名も形無し。そんな彼に徳利を向け、私も考えようかしらと奈央が言い出す。当然ながらお相手は誰々と、身を乗り出すお茶の間のメンバーたち。何でも奈央は、辰江さんがいいらしい。あらまあと、頬に手をやり照れちゃうファフニールの叔母である。


 そのころ台所では、マーガレットにベネディクトとコーレルが、追加で柳川鍋やながわなべを作ってたりして。昔からうなぎの蒲焼きと同様、ドジョウとゴボウの組み合わせは精を付ける定番メニューだ。みんな今夜、普通に眠るのは難しくなりそうな予感。まあ卵化できるから、どんどんやっておくんなまし。


「アリス、どうかしたの?」


 いつものふよふよが不安定で、気になり尋ねてみたフレイア。そんな彼女の耳に、高位聖獣がごにょごにょと。いつもポーカーフェイスのアリスが、珍しくはにかんでいる。ああそれでとフレイアは、みやびをチラリと見やり微笑んだ。


「気持ち良かったでしょ」

 

 こくこくと頷くアリスに、フレイアは能力に変化はあったかしらと聞いてみる。すると彼女は、亜空間倉庫を持てるようになったと話す。フレイアはお酒の倉庫にしており、アリスは陶芸作品の倉庫にしますと笑った。


「この柳川鍋、ドジョウが泥臭くないですね、お嬢さん」

「んふふ、亜空間倉庫で水槽飼いの養殖を始めたのよ、黒田さん」

「つるっとしてて、川魚特有の良い風味がします」


 咀嚼して目を細め、熱燗でキュッと流し込む黒田。みんなもこれは美味しいと、ひょいぱく口に入れて味わい目を細める。

 安来節やすきぶしに合わせたドジョウすくいなんて踊りがあるくらいで、江戸時代から食用にされているドジョウさん。鍋の発祥も江戸で、笹がきゴボウを敷いた土鍋にドジョウを並べ、溶き卵を入れて煮込んだ料理だ。なお溶き卵を入れない場合は、どぜう鍋と呼ばれる。

 栄養価は高く夏を乗り切る食材として、ウナギ同様に親しまれて来た。人間が口に出来る食材で養殖してるから、内臓を取らずそのまんまの姿で煮込むのがみやび流。


「早苗さんも桑名さんも奈央さんも、そろそろスライムちゃんと契約しようよ」

「う……やっぱり必要なのね、みやびさん」

「感染したら死亡率百パーセントだもの、早苗さん」


 三人の前に、マニュアル付きでスライムちゃんを並べる任侠大精霊さま。話しは聞いているから、腰が引けている早苗と桑名に奈央。逃がしませんよと、ドジョウを頬張る蓮沼家の面々。縁側の向こうを、満君と黒ヒョウ三兄弟が通り過ぎて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る