第676話 お目覚めのルーキーたち

 ――ここは夜のみやび亭、アマテラス号支店。


「目覚めの一杯はどう? 岩井さん」

「五臓六腑に染み渡ります、アグネスさん」

「はい岩井さん、ニンニクの芽とベーコンのバター醤油炒め」

「待ってました、無性に食べたくなったんですよね、海将補みやび殿」

「美味しそうだな、高田」

「俺らも注文しましょう、石黒さん」


 スオンの眠りから覚めひゃっほうと、生ビールを呷る岩井さんと石黒に高田。ピューリが岩井さんにぴったり寄り添い、フレイアが両脇に座らせた石黒と高田に目を細めている。


「レアムール、行って来なよ」

「エアリスも、たまにはお客さん気分を味わったら?」


 愛妻に背中を押され、ではお言葉に甘えてと、二人はお座敷二番テーブルへ。そこでは同じく目覚めたホムラとポリタニアが待ち構えており、メライヤも交えてかんぱーいと女子会スタート。


 ちなみにだーだーはと言えば、人の姿を採ることに成功しました。ただしすっぽんぽんだから、妙子さんに連行されていま採寸中。ドーリスに言わせると見た目は、ちょっと発育の良い少女? なんだそうな。


「ちゃんと場を設けてお祝いしたいよね、香澄」

「そうだね麻子、秀一さんたちや飯塚さんの時みたいに」

「でもこの後、カリーナさまとラフィア領事が続くんだよね」


 どうしましょうと思案顔の麻子と香澄に、みやびがフライ返しを四拍子に振った。戦艦シュバイツ号のみやび亭が完成したら、みんなまとめてやりましょうよと。

 そのシュバイツ号なんだが、でかいから先頭に連結している。宇宙戦闘機で遠目から見ると黄金オタマジャクシ、とは陽美湖とミーアの談。


「席数は? みや坊」

「むひひ、カウンターとテーブルにお座敷、全部合わせて千席なのだよ、麻子殿。関係者を全員呼べる」

「マジかいな!」


 アルネ組とカエラ組はもちろん、キッチンへ入るようになったパメラとポワレ、リリムとルルドが、ひええと青くなった。これはメイドさんの増援が必要かしらと香澄が言えば、そうですそうして下さいと首を縦にブンブン振っている。


「でも今後そういった宴席を設けるのには便利よね、みや坊。カルディナ陛下とアムリタ陛下の披露宴には、もってこいじゃないかしら」

「そうそう、私もそう思ったんだ、ファニー」


 ブラドとパラッツォがそうだなと頷き、本日お勧めイチオシにあった戻りガツオのたたきを頬張る。両陛下と縁のある者をみんな集めたら、いくらバーレンスバッハ城でも貴賓室とダイニングルームでは対応しきれないからだ。


「みやび殿はもっと大変になるじゃろうな」

「ぐはっ、それを言わないで赤もじゃ」


 パラッツォの言う通りだと笑うブラドが、テーブル席やお座敷席にいる仲間たちに視線を向ける。将来マクシミリア陛下と血の交換をした暁には、蓮沼家も込みでみんなご招待する事になるだろうと。


「そん時は宇宙ステーションでやるようかな、マキシー」

「はいお姉さま、暗黒空間に浮かぶ惑星間鉄道の巨大ターミナル。なんだかワクワクしちゃいます」


 ミートソースを頬張るマクシミリアが、口の周りにソースを付けたままフォークを振る。その口をあらみっともないと、おしぼりで拭いてあげるサッチェス。彼女なりにマクシミリアの侍従長として、自身に折り合いは付けたようだ。酒の肴を用意してあげたスミレとクーリドとは、ずいぶん話し込んだらしい。

 後で聞いたのだが、笑い上戸と泣き上戸の反復攻撃だったんだとか。絡み酒ではなかったそうだが、お相手してあげたスミレもクーリドも乙カレー。


「エピフォン号の航路データを使えば、宇宙の中心まで行けるわ、みやび」

「フレイアたちの母星がまだ存続してるか、確かめに行かないとね」

「うふふ、私たちにとって母星に未練は無いから、それはどうでもいいの。期待してるのは、宇宙のオアシスなのよ」


 暗黒空間をパスするため、乗員を仮死状態にして航行を続けたエピフォン号。そんな彼ら彼女らからすれば宇宙ステーションは、乾いた砂漠を進む旅人にとってのオアシスなんだとか。

 みやびとマクシミリアにゲイワーズがタッグを組めば、大艦隊も寄港できる宇宙ステーションを錬成出来るだろう。未来の夢が膨らむわねとゲイワーズが、相変わらずお上品にマグロの山かけを頬張る。


「皆さんご覧になって、どうかしら」

「ただいまなのだー!」


 そこへ妙子さんに付き添われ、キトンを身に付けたメアドがご到着。キトンは体のサイズ関係ないから取りあえずこれをと、妙子さんは着せたみたいだ。だがバストの大きさに、誰もが釘付けとなってしまう。どう見てもFかGカップ、ドーリスが形容した発育の良い少女童顔巨乳も頷けると言うもの。


「お帰りメアド、ポテトサラダ出来てるわよ。ところでその翼ってオートなの?」

「香澄ありがとなのだー! オートだから便利なのだー!」


 精霊化したみやび達の翼は、背中から直接生えてる訳じゃない。付属品と言うかオプションというか、腕と同じく衣服を着用した上からでも、出したり引っ込めたりできる。

 翼の発現時期と枚数は守護精霊の影響が大きく、最近やっと妙子さんも出せるようになったんだとか。精霊化しなくてもそれが出来るメアドは、アリスと同じく特別仕様の聖獣なんだろう。

 ふよふよ浮いてるだーだーの、キトンの裾を握る妙子さん。おパンツ見えるから人の頭より高いところ飛ぶなと、教育的指導をしておりますが。


 すると暖簾の外から騒がしい声が、どうやら陽美湖とミーアのようだ。二人はなぜか配下がいるテーブル席へは行かず、空いてるカウンター席に並んで座る。雰囲気からして、アマテラス相談所って訳でもなさそう。


「どうかしたの? お二人とも」

「みやび殿、いや麻子殿と香澄殿にも、ちょっと聞きたいことがあるんじゃ」

「ちょっと陽美湖さまっ」

「良いではないか、ミーア殿も興味はあるのじゃろう?」

「そ、それは……」


 アリスからおしぼりを受け取り、生ビールを注文する陽美湖とミーア。何の話しだろうと、顔を見合わせる栄養科三人組。陽美湖はお通しに肉じゃがを、ミーアはナスの揚げ浸しをチョイス。まずは乾杯とジョッキをぶつけ、二人は喉を湿らせた。


「三人とも、いや妙子殿とアグネス殿も、バージンなのであろう?」


 そんな陽美湖の問いかけに、ぽかんと口を開けるキッチンとカウンターの面々。リッタースオンの女子たちが、なんちゅうこと聞いてくれやがりますかの顔。だが間違ってはおらず、その通りだからはいそうですよと返す。

 スオンにとっての性行為と子孫を残す手段は、血の交換であり人間夫婦が行う夜の営みとは異なる。卵化でえちえちはしてるけど、肉体的には処女のままだ。


「聖母マリアと一緒なんだよね、香澄」

「そうそう、受胎告知はあった? 麻子」

「むふふ、あったわよ。香澄はどうなのさ」

「もちろんよ麻子、早く卵が見たいな」


 秀一たちはいま祭壇にいるけど、アルネとカエラがいいないいなと口を揃えた。マクシミリアにリリムとルルドが、スオンになるってそういう事なんだと、興味津々で話しに聞き入っている。


「ほれな、ミーア殿よ」

「しかし陽美湖さま」

「お二人とも、それで騒いでたの?」


 みやびに尋ねられ、陽美湖が実はなと肉じゃがに箸を伸ばした。ならばお相手をリンド族に限定すれば、聖職者でもつがいになれるであろうと。むしろ聖職者はその信仰心から、竜の血を受け継ぐ子孫を残すに相応しい存在ではと言う。


「言われてみれば確かに、ねえ妙子さま」

「私も迂闊うかつでしたわ、アグネスさま。惑星イオナの聖教会は元来、リンド族を育む揺り籠だったのかも」


 その可能性は高いですにゃあと、チェシャがコンビーフを頬張った。惑星イオナへ移住した三部族の聖職者に、先住民族はひじりの独身を求めたのではないかと。ユリウスから得た情報によれば、かつては司教や司祭のリッタースオンが実在した記録があるらしい。


 するとそれを聞いたミーアが、胸の前で二重十字を切り瞳を閉じてしまった。食前の祈りはすでに終えているから、どうしたんだろうと意識を傾けるキッチンメンバーとカウンターの面々。やがて目を開いたミーアが向けた、視線の先はなんとファフニールであった。


 菜箸を動かす手が、思わず止ってしまうみやび。脳裏に浮かんだのは源三郎さんの言葉、『お嬢さん、あと何人増やすんですか?』だった。だが話しはそこで終わらない、陽美湖のとんでも発言が飛び出す。


「シーパングには竜がおらん。リンド族が国籍を移さないのは、重々承知しておる」

「あの、陽美湖さま、何を仰りたいので?」

「私も竜の子種が欲しい、卵を産んでみたいのじゃ、みやび殿」

「……はい?」


 あろうことか陽美湖までもが、ファフニールをちらりと見たのだ。みやびの手から菜箸が、するりと離れ床に落ちる。マクシミリアに続き陽美湖とミーアで、ファフニール大人気。いやいやそんなこと言ってる場合じゃないのだが。 


 みんな勘づいたようで、あの鈍感なブラドとパラッツォでさえお地蔵さん状態。動じていないのはフレイアだけで、面白いことになってきたわねって顔してるよ。

 知らぬが仏は当のご本人のみ、全く気付いてないようす。みやびのきんぴらごぼうを頬張り、むふんと目を細めている。蓮沼家のみんなに何て言おうかしらと、遠い目をする任侠大精霊さまの図。 


 そこへ艦内放送が――。


『みやびさん、聞こえますか』

「何かあった? 美櫻さん」

『広域宇宙レーダーに反応、艦隊が接近してるわ』


 顔を見合わせるキッチンとカウンター席の面々。アンドロメダに属する艦隊はこの座標に集結しており、銀河内のお仲間さんとは思えないからだ。


『レーダーに全部入った、大艦隊だ』

「数と船籍は分かるかしら、秀一さん」

『戦艦が十二隻、空母が八隻で識別信号は無し。巡洋艦と駆逐艦はごめん、数え切れない。速度は四十五宇宙ノット、すごい速さで接近中。コンタクト予測は四十八分後だ、みやびさん』

「総員戦闘配備!」


 艦内放送と通信ダイヤモンドに向け、みやびの声が響き渡った。

 みんなのほほんと、黄金船で暮らしてるわけじゃない。ブラドとパラッツォが、竜騎士団の招集に亜空間倉庫へ飛ぶ。雅会任侠チームがそれぞれ就くべき配置へと、駆け出し暖簾をくぐって行った。陽美湖とミーアが自分の持ち船へ、マクシミリアがアメロン艦隊へ、通信ダイヤモンドから戦闘体制の指示を出すのだった。

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