第665話 今日は相談が多い
だーだーが上機嫌で、ゲイワーズに話しかけていた。何でもドーリスからダイヤモンドをもらったそうで、転送ダイヤモンドと一緒に、岩井さんみたくネックレスにして欲しいらしい。
竜族は光り物を見つけると、ついつい拾って持ち帰る性癖を持つ。ただしその後は無頓着で、シェアハウスの空き部屋に小山が出来つつあった。ドーリスはたまたま拾ったそれを、演奏を聴きに来るスフィンクスに渡したみたいだ。
アウト・ロウのみんなはファミリーマスターであるみやびに、宝石を好きに使って構わないと言う。けれどシルバニア領のクスカー城もエラン城も、他の支城も宝物庫は宝石が山脈を形成している。出刃包丁を動かしながら間に合ってるんだよねと、眉尻を下げる任侠大精霊さまである。
「いいわよん、工房に行くから付いてらっしゃいな、メアド」
「嬉しいのだー! ゲイワーズに感謝なのだー!」
目を細めて二人を見送るみやびの所へ、ティーナとローレルがやって来た。どうも石黒と高田の相談は、二人の手に負えない問題っぽい。と言うか何を言ってるのか、よく分からないらしい。
ふむと頷き出刃包丁を置いたみやびは、キッチンの奥へと足を向けた。すると石黒も高田もみやびの顔を見た途端、なぜか土下座しちゃったよ。
「お嬢さん、すんません! お前も謝れ高田」
「指を詰める覚悟です、すんませんでした!」
「……はあ?」
暴力団の世界で指を詰めるとはエンコ詰めとも言い、組員が掟を破った時の責任を取らせる慣習だ。深い反省を求めるのが目的だが、足を洗っても社会復帰が難しくなる嫌らしい一面もある。小指の先が無いイコール元ヤクザだと、すぐに分かってしまうからだ。
もとより蓮沼組も雅会も、堅気の任侠であって暴力団と一緒にされちゃ困る。正三もみやびもそんなこと許さないし、そもそも暴対法で禁止されているのだから。
二人はみんなを代表して詫びに来たと言うけれど、宇宙船の中で任侠チームが不義理を働くなど到底考えられない。土下座してエンコ詰めを覚悟するほどの、何をやらかしたと言うんだろうか。
みやびは二人を立たせ、ちゃんと話してと椅子に座らせた。だが石黒も高田も、どうにも歯切れが悪い。ならば話せるようにしてあげましょうかと、全身からパリパリ放電を始め雷撃の準備に入っちゃう。
もちろん手加減はするつもりなんだろうけど、こんな時のみやびはとっても怖いです。その迫力に押され、ようやく石黒が重い口を開いてくれた。
「お、俺ら」
「ふむ」
「お嬢さん達をその」
「ふむふむ」
「おかずにしてます、すんません!」
「ふむふむふ……はい?」
数秒間、ポカンとしちゃう任侠大精霊さま。そして思い当たったのか、ああ成る程ねと手のひらにぽんと拳を当てる。納得できたので、放電がすっと消えて行った。
みやびが所有する黄金船は、全て男湯を男女兼用に変更している。両性具有のフレイアと、卵化してから両性となったアリスはそっちに行くのだ。
しかも栄養科三人組は蓮沼銭湯で混浴に慣れており、男女兼用へ行くことも多い。どうしてかと言えば、女湯はお湯の温度が三十八℃で、男女兼用は四十二℃に設定しているから。熱めのお風呂にとりゃあと、入りたい時があるのだ。
竜族の女子は裸を見られても気にしないが、着替えを見られるのは嫌がるという性質を持つ。なので女湯に行くし、美櫻と彩花にメライヤも女湯へ。アルネ組とカエラ組、妙子さんにアグネスとメイド達もそう。
つまり雅会任侠チームは男女兼用にやってくる、栄養科三人組にフレイアとアリスをおかずにしている訳ね。こんな相談じゃティーナもローレルも、理解できないのは当然かも。
「あっはははは!」
「笑い事じゃないですよお嬢さん、なあ高田」
「むらむらした時、頭に思い浮かびますもんね、石黒さん」
そりゃ悪いことをしたわねと、お腹を押さえながら目尻を拭うみやび。
総長であり姐さんでもある彼女に加え、家族とご学友に
「いいのよ私たちをおかずにして、むしろ光栄だわ」
「しかしそれじゃ、任侠としての示しが」
「この私が構わないと言ってるんだから、気にしないで石黒さん。みんなにもそう伝えてちょうだい」
ところで二人は誰が
みやびは人差し指を顎に当て、星空を見上げた。頭を右に振り、左に振り、そしてにっこり微笑む。何を考えているんだろうと、顔を見合わせる石黒と高田。
この二人は相手が両性具有でも、性的魅力を感じているわけだ。外見ではなく、いや多少はあるんだろうが、心根に惹かれているのは間違いないだろう。
推定一万歳の竜は目鼻立ちが整った美人さんで、他者への接し方が柔らかいし面倒見も良い人柄……もとい竜柄だ。お気に入りならその気持ちを開放すべきで、おかずにして済ませるのはよろしくない。
「好きなら好きって、フレイアに告っていいのよ二人とも」
「いやそれじゃ総長」
「石黒さんめっ!」
「す、すんません、でもお嬢さんはそれでよろしいのですか?」
「私たちはね、ファミリーの輪を広げたいの。考えておいて、石黒さん、高田さん」
二人は海の家を新興ヤ○ザから守る為、ごろまき上等で殴り合いをした好ましい任侠の徒だ。みやびとしてはようこそウェルカム、後はフレイア次第。骨は拾って進ぜようと、二人の肩をペシペシ叩く任侠大精霊さまである。
そこへ聞き耳を立てていた妙子さんがやって来て、スライムちゃんとヨーグルトを二人の胸にぐりぐり押しつけた。彼女から使い方を聞かされ、しばし茫然自失となる石黒と高田。後でどうだったか使い心地を聞かせてねと、真顔で言っちゃう妙子さんも妙子さんである。
「すごいわね、ピューリ」
「んふ、最近覚えたんです、香澄さま」
銀鮭はまだあるけどアルミホイルが無くなり、ソールド・アウトになりそうだったホイル焼き。するとピューリがアルミの塊を革袋から出し、錬成で薄く平たく伸ばしたのである。
まだ食べていなかった岩井さんが、これで作れますねと嬉しそう。ネックレスを生成して戻ったゲイワーズも注文していなかったから、弟子のピューリにでかしたとグーサインを送る。
「あらファフニール、フレイア、遅かったじゃない」
「ファミリー全員で行く、日本旅行の計画を立てていたのです、妙子さま」
それいいねと、キッチンとカウンターにいる全員が話しに乗ってきちゃった。ブラドとパラッツォが、あそこの日本酒あそこの焼酎と、話しに花を咲かせ始める。
お酒ならニッカウィスキーの仙台工場に行きたいねと、麻子も香澄もにっこにこ。レアムールとエアリスが、ならば盛岡のわんこ蕎麦と冷麺が食べたいと口を揃えた。
アルネ組とカエラ組に至っては、稲庭うどんと讃岐うどん、喜多方ラーメンに博多とんこつラーメンと、次から次へ並べてワイキャイが止らない。
「アマテラス相談所、よろしいでしょうか」
「みやびさまでお願いします。ね、ホムラ」
そこへみやびご指名で相談に来たのは、黄緑色の子とマーメイドだった。アルネ組とカエラ組が目の色を変え、カウンターの皆も聴力を最大にしているよ。
あんたらねと、眉を八の字にする任侠大精霊さま。ホムラもポリタニアも、領事としてお預かりしているのだ。下手すると国家間の問題になるからまずいと、瞬間転移でジャーンプ。転移先は宇宙輸送機、コスモ・ペリカン七号機の中であった。
「二人とも、何か飲みものはいかが」
「私はハイボールで、みやびさま。ポリタニアはどうする?」
「うんとね、焼酎の梅割りがいいな」
おっけーと格納庫内にテーブルセットとお酒セットを出し、ちゃちゃっと作る任侠大精霊さま。ポリタニアの胸にくっ付いて来た、ヤドカリ兄妹のクマモとミノカが昆布巻きをご所望。それもはいよっと出してあげ、みやびはどんな相談かしらと聞く体制に入る。
ところがどうしたことか、ホムラは花を咲かせ実を付け、ポリタニアは床にウロコをぽとぽと撒き散らす。念のため連れてきたアリスが、お盆を手にふよふよと回収を始めた。
「その、レアムールさまはどんなタイプをお好みなんでしょうか」
「はい? ごめんポリタニア、もう一度」
「エアリスさまは肌が黄緑色でも、受け入れてくれますでしょうか」
「ちょちょ、ホムラ、もう一度言って」
ここで念のため、おさらいをしておこう。
麻子(火)レアムール(地)パメラ(風)美櫻(光)⬅ここに(水)のポリタニアが加われば五属性が揃う。
香澄(水)エアリス(風)ポワレ(火)彩花(闇)⬅ここに(地)のホムラが加われば五属性が揃う。
竜族がいない暗黒空間の太陽系で、魔力を恋愛の力で自炊できる人種キタコレ。魔力強化と属性強化が同時に出来るのだから、麻子と香澄にとってはベストマッチングじゃないか。
「二人とも、ファミリーになりたいのよね」
ブンブンと首を縦に振る、ホムラとポリタニア。ありゃ乙女の実と乙女のウロコが止まりません、アリスがお盆を諦め格納庫内にあった木箱を引っ張り出した。
領事仲間の青い人メライヤと、だーだーメアドの話しを聞かされる内に、恋愛脳が刺激されたっぽい。いいなと思っていたレアムールとエアリスに抱く感情が、一気に膨らんだと話し二人は頬を朱に染める。
だが想いを伝えるタイミングが掴めず、そこで二人はみやびを頼ったようだ。これは良縁に間違いなく、お見合いの場を設けるべきと彼女は頭をフル回転させる。
新薬の開発は時間がかかるだろうから、岩井さん・メアド・石黒と高田、そしてホムラとポリタニアが、儀式の眠りに就いてもきっと間に合う。
気が付けばアリスが出した、ミカン箱サイズの箱が山盛りになっていた。この魔力を自炊する力は竜族並み。麻子よ香澄よ我が友よ、受け入れたまえと心で念じてしまうみやびであった。
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